天才とあほ | ナノ




::そこだけは紙一重
「みょうじさんも赤司くんも、負けず嫌いですよね」

かつて黒子に、そう言われたことがある。「あの凶悪な赤司征十郎と一緒にするな。とても気分が悪い」あのときは、そう嫌悪感丸出しな表情をしながら返答したが、今改めて冷静になってみると、「黒子の言うことも分からなくもないな」と思った。






額に冷たい、自分のではない指が触れたような気がして、ゆっくり瞼を開いた。そこには、気にくわない赤司征十郎の顔があった。
綺麗に整っているところもまた、気にくわない。いつもより…なんていうか、切羽詰まったような顔に、疑問を覚えた。

『赤、司…征十郎…』
「起きたか。全く、迷惑な話だ。全種目の試合が終わった途端に、脱水症状を起こして倒れるとはな」

いつもの涼しい顔をしながら、側にあった椅子から腰を浮かせ、棚の方へと向かっていった赤司征十郎。
どうやら、切羽詰まったような顔を、彼がしていたような気がしたのは、気のせいだったようだ。私の方からは、彼の背中しか見えない。

『…』
「何も言わないんだな」

赤司征十郎の何もかも見透かされているような声から逃れるように、布団を頭まで被る。「…煩い」と小さく紡いだ言葉は、布団により変にくぐもって、彼の耳へとちゃんと入ったか分からない。

黒子の言葉は当たっている。赤司征十郎はどうか分からないが、少なくとも私は負けず嫌いだ。しかも極度の。
赤司征十郎にこんな弱いところを見せるのも、嫌だ。悔しい。いつもはあんな強気なのに、今はこんなだ。恥ずかしい。
そう布団の中で唇を噛んでいると、突然、強い力で布団を捲られた。こんなことが出来るのは、一人しか居ない。

『…!』
「そんなに唇を噛んでいると、血が出るぞ」
『っな…!』
「俺も流石に、具合の悪い奴に悪態をついたりしないよ。具合が良くなったら、いくらでもついてやるから、まず寝ろ、みょうじ」
『っい、言われなくても…!!』

赤司征十郎に捲られた布団を掴み、再度頭まで被る。まるで私が、あの凶悪な赤司征十郎に悪態をつかれたいというような言い回しを、余裕そうに少し微笑んだその本人から言われた。
悪態なら、さっきだってついただろうが、というようなことが頭の中でぐちゃぐちゃに混ざりあう。私を混乱させている、当の本人である赤司征十郎が、楽しそうに口を弧に緩めていたことを私は知らない。






「なまえっちと赤司っち、いつんなったらくっつくんスかねぇ」
「ありゃ中学のウチは無理だな。高校行ったらくっつくんじゃね」
「でも赤ちん、京都の高校行くって言ってたよねえ。もしかして、遠距離?」
「えー、私はなまえちゃんも赤司くんと同じ高校行くと思う。頭良いしさ」
「さっさと付き合ってしまえば良いものを…めんどくさいのだよ」
「あの二人は、先に惚れた方が負けみたいに思ってますからね。先に好きだと言った方が負けなんでしょう」
「うっわめんどくさ」
「正確には、どっちが先に好きになったんだろうね」
「分かりませんけど、早くくっついて欲しいです。見てて凄いもどかしいです」

そんなことを、赤司を除いた「キセキの世代」と呼ばれる彼等が、球技大会の帰り道に言っていたことなど流石の赤司征十郎も私も、知るよしもなかった。

250725[FIN]




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