短編 | ナノ

吸血鬼な黄瀬


黄瀬は、吸血鬼っぽくない。
吸血鬼って、日光が嫌いだったり十字架が無理だったりするんじゃないの? 本人にそう告げたときには、「それ信じてたんスね」と笑われたのを覚えてる。

「いや、日光が嫌いとか十字架が無理っていうの、間違ってはないんスよ」
『じゃあ、黄瀬は日光とか十字架嫌いなの?』
「ううん、全然大丈夫っスよ、俺は」
『……矛盾してない?』
「いやいや、吸血鬼のなかにも色んなヤツが居るんスよ。
前にも言ったよね、混血種と純血種のこと」

混血種は子孫に人間と交わったものがおり、純血種は子孫全てが純吸血鬼。そう前に教えて貰った。黄瀬はお祖父ちゃんが人間らしくて、前者らしい。

「混血は大体日光とか大丈夫だし、赤司っちみたいな純血もそんなに苦手じゃないんスよ。なかにはやっぱり苦手、ってヤツも居るけど。俺の母さんがそうっスね」
『へー』
「吸血鬼も昔と比べれば、進化してるみたいっスよー」

言いながら、黄瀬はバスケットボールを器用に指先で回す。その横顔を見ていると、キラキラと木漏れ日に透ける髪が頻繁に視界に入ってくる。そんな光景をずっと見ていると、やっぱり吸血鬼らしくないなあと思ってしまう。

『…うん、やっぱ黄瀬は、夜より昼って感じがする』
「…? えっと…、ちょっと、意味分かんないっス」
『だあから、吸血鬼らしくないんだよ。吸血鬼といえば夜でしょ? 黄瀬は完全昼っぽいの』

「その明るい髪とか、笑顔とかが」指を向けてそう指摘すると、ぱちぱちと黄瀬が瞬きをする。そして何故か溜め息。次にくしゃりと前髪を乱した。

「…あのねなまえちゃん、俺が今考えてること、分かる?」
『? 分かるわけないじゃん』
「だよなあ…」

はあ、と、そう俯く。がっくりと肩を落としたそのさまに、「なんなの」と怪訝な言葉をこぼして、腕時計を見やる。もう昼休みが終わる頃だ。

『黄瀬、そろそ、ろっ…ッ!!』

どさり。顔を上げれば、すぐに身体に衝撃が走った。いつの間にか、黄瀬が音も気配もなく私の目の前にやって来ていたからだ。そしてその彼に、私は今押し倒されている。

『っ、いっ…きなりな…!』
「俺はね、なまえちゃん。
いつでも、なまえちゃんの血が欲しいって思ってるんスよ」
『ッ…!!』

赤く、紅く、爛々と輝く瞳が、私を射抜く。あの綺麗な琥珀は、そこにはなかった。光に生きる人間とは違う、闇を生きる、血に飢えた吸血鬼。言葉に詰まり目を見開く私に、彼はふわりと恐いくらいに微笑む。

「俺、こう見えても普段、結構頑張ってるんスよ?」

言いながら、首筋に指を滑らせてくる黄瀬の、紅い瞳が細められる。焦らすように触れてくるそれに、羞恥から顔が熱を帯び始めた。くすぐったくて、身体が震える。

「だってなまえちゃん、めちゃくちゃ美味しそうな匂いするんスもん。
いつも我慢するの、ほんと大変なんスよ?」

そう首を傾ける黄瀬。美味しそうな匂いとか言われても、そんなものは私には分からない。彼は顔を首筋に寄せてきて、スン、と鼻を鳴らしてくる。

『か、噛まないでよ…?』
「噛まないっスよ。外で噛むと血の匂いヤバくなるし、勘の良いヤツにはすぐ勘づかれるし。それに一番は、赤司っちに怒られるんスよー」
『…そういう問題?』
「そういう問題っス」

そう言って私から離れた黄瀬のその瞳は、いつの間にか、元の琥珀色に戻っていた。

『……ほんと、損な性格してるよね、私』
「俺等からすれば、なまえちゃんみたいな人は好都合の塊っスからね」

自分の性格に呆れて息を吐けば、立ち上がった黄瀬に手を差し伸べられた。迷わず、その手を取る。

『ありがと、』
「いーえー」

またしても笑顔。
…やっぱり黄瀬には、闇より光が似合う。

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