短編 | ナノ

黄瀬とケーキ


『つか、れた…』
「あーあ、なまえちゃん、こんなところで寝ちゃダメっすよ、風邪引くっス」
『し、らん。ねる』

大学、アルバイトと終わって、涼太の待つ自宅へと帰宅した。今年の4月から始めた、独り暮らし。2ヶ月経っても慣れない。いつもいつもこうやって、へとへとに疲れて帰宅する。「もー」と、呆れながらもちょっと嬉しそうな声を出す涼太が、私を持ち上げて、玄関からリビングへと移動する。

『む。りょうた、今日、何日』
「じゅーは、」
『マジか!!』
「えぇ…、どうしたんスか、いきなり。眠いんじゃないの?」

あからさまに残念そうな顔をして、声を出す涼太に、「目、覚めた」と答えて、方向転換。キッチンに向かう。つか、何するつもりだったんだコイツ。

『りょーたー、冷蔵庫、見てないよねー?』
「ん。なまえちゃんが見るなっつったから、見てない」
『おー、偉いねー。忠犬ハチ公ならぬ、忠犬涼太くんだ。おねーさんは嬉しいよ』
「…何さまっスか」
『ん?お姉さま?私大学1年だし、涼太高1だし。ってあ、今日大丈夫なのお家?』

時計を見ると、もう少しで日が変わりそうな時間。やべ、早くしないと。

「初めは渋ってたんスけど、母さんも姉ちゃん達も、なまえちゃん家行くっつったら許してくれたっス」

そう言う涼太は、まだ不機嫌な様子で、ソファーのクッションを抱き締めていた。あー、マジか。幼馴染みといえども、どんだけ信用されてんだ、私。

『はー、相変わらず良いお母さんとお姉さん達だねえ。私、兄弟居ないから羨ましいわ』
「…心配し過ぎなんスよ、母さんも姉ちゃん達も。逆に鬱陶しいっス」
『駄目だよ涼太。そんなこと言っちゃ、あげないよ、ケーキ』
「え」

キッチンから出てきた私の手元を見て、きょとんとする涼太。やっぱり、今日が自分の誕生日だってこと、忘れてたんだ。どんだけだよ。「おめでとう、涼太」そう精一杯の笑顔を浮かべながら言うと、だんだんと涙目になってくる涼太。え、ちょ…え?

「なまえちゃあぁあぁんっ!!!」
『ぎゃああぁあ!!ケーキ台無しになるから抱き着くのはやめて!!』
「大丈夫っス!!ケーキでベトベトとか萌えるっス!!そうゆうプレイもできるし!!」
『どうゆう!?死ね変態!!』

赤い顔しながら詰め寄ってこようとする涼太を蹴ると、「なまえちゃん酷い…」と耳垂らす大型犬。溜め息を吐く。「つか、モデルさまがこんな時間にケーキなんて食べて良いの?ヤバくない?」と呟きながら、お皿に切り分けたケーキをのせる。モデルのことは知らんが、私は全然OKだ。カロリー?深夜?何それ知るか。

「大丈夫!!なまえちゃんが作ったものなら、どんなものでも何だろうと、いつでも俺食えるっス!!」

さっきまで不機嫌だったくせに、ケーキ1つで機嫌直るとか。「なまえちゃんのこと、大好きっスから俺!」私に後ろからぎゅーっと抱き着いて、そんなことをそれはもう嬉しそうに言う涼太。む、コーヒーの匂い。にが。

『…あっそ、』
「あれ?照れてる?照れてるよね?わ、なまえちゃんが照れてるっス!!めっちゃレア!!」
『死ね』
「酷いいぃい…!!」

耳元で涼太が大声で話すから、耳がキンキンする。眉を寄せながらフォークをケーキに刺して、「ん、」と涼太の口元へやる。目を輝かせて涼太は嬉しそうに、美味しそうにケーキを食べてくれた。黙ってくれたし、ケーキ美味しそうに食べてくれたから、まあ、良しとするか。

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テーマ「人外ファンタジー」
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