短編 | ナノ

赤司の家


一定な固い音を奏でる時計の針。“今時壁に掛ける時計使ってるとか珍しいな、てか無駄に高そうな時計だ”なんてことを考えながら、ボーッとその時計を見ていた。

『…ねぇ征ちゃん。本面白い?』
「…面白いから読んでるんじゃないか。そうじゃなければ読んでないよ」
『…せ、正論…』

今私は征ちゃん。洛山高校バスケ部主将、赤司 征十郎の自宅に居る。…その本人は、私の隣でなに食わぬ顔で静かに本を読んでいる。そうしていると、私は征ちゃんに構って貰えないので凄く暇な訳だ。

じゃあ私も何かやろう、と思うのだが、征ちゃんの右手にがしりと肩を掴まれて、身体が征ちゃんの身体にひっついているから身動きがとれない。…本当に人に見られていなくて良かったと安堵する。

…現に昨日だって、何故か征ちゃんは不機嫌で、部活中ずっと私が身動きとれない様に今の様に腕を掴んで自分から離れられない様にした。玲央先輩に、“本当仲良いわねー”と、ニヤニヤされたのが凄い恥ずかしかった。ああぁ…っ!!今思い出しても恥ずかしい…!!

『(……まあ、そんなとこも含めて大好きだから、許しちゃうんだよね…)』見れば見る程考えられない、平々凡々な私なんかが征ちゃんと付き合っているなんて。バスケをやっているとは到底思えない程の、白い滑らかな肌。色鮮やかな赤い髪に瞳。綺麗でしなやかな指。
女の私よりも、よっぽど魅力があると思う。その上頭脳明、運動神経抜群。私なんかが、…平々凡々以下の私なんかが征ちゃんと付き合っていて本当に良いのだろうか。

「…なまえ」
『な、何?』

パタン、と左手だけで読んでいた本を静かに閉じ、不意に私の名前を呼んだ征ちゃん。赤と黄色の綺麗なオッドアイが私を映す。ずっと見ていたのがバレたのだろうか。

「…下らないことを考えてただろ」

“私なんかが征ちゃんと付き合っていて良いのだろうか”…そのことだろうか。下らなくもないと思う、本当にそう思ってしまっているのだから。

『…な、何も考えてな…』
「なまえでも僕に口答えするなら許さないよ」

そう目を細めて、ぴしゃりと征ちゃんが私に言い放つ。多分、征ちゃんには大方私がどんなことを考えていたか把握しているのだろう。

『…わ、私なんかが征ちゃんとお付き合いしてて良いのかな、って…思ってました…』

私があの素敵無敵な征ちゃんに口答えなんて出来る筈もなく、正直に、だんだん声がか細くなりながらも敬語になりながら答えた。

「…ふーん」
『(恐い恐い恐い…!!)』

正直に答えたら目を細めるのを止めてくれるかと思ったら、より一層目を細めた征ちゃん。もう何を言っても怒られるのだろうか、私は…。
これ以上征ちゃんと目を合わせていると、心臓が色んな意味で弱りそうなんでそっぽを向こうとしたら、がしりと顎を凄い力で掴まれた。

「目を逸らすな」
『だ、って…!征ちゃん見てると心臓弱りそ…!』

きっと涙目になっているであろう瞳で精一杯征ちゃんを睨むと、何でか抱きしめられた。視界にちらちら入る征ちゃんの赤い、ちょっと癖が付いているサラサラな髪。息を吸う度香る征ちゃんの匂い。色んな意味で心臓が死ぬ…!!心臓は死ぬんじゃなくて止まるだけど…!!

「…なまえ、お前は僕の判断が間違っていたとでも言いたいのか」
『せ、征ちゃんはいつでも正しいです。間違ってなんか…』

だから何で私は敬語に…!!てか凄く恥ずかしい!! よく分からないけど凄く恥ずかしい!!
肩を掴まれて、征ちゃんと無理矢理目を合わすことになる。視線を逸らしたいけどまた何か言われたら恐いので、頑張って目を合わす。

「そうだ。僕はいつでも正しい。そんな僕と付き合ってるのだから、もっと自信を持て。僕はなまえを選んだんだから」
『…は、い…』

カッコいい。征ちゃんだから言えることだよね。こんなカッコいいこと。…いや、大好きな人にそんな言われても自信が持てないのは変わらないんだけどさ。私よりも数段綺麗で可愛い子、山の様に居るし。…でも、嬉しかったなぁ…。“僕はなまえを選んだのだから”かぁ…。

『…ふふ。うわ、マジ嬉しい。にやける…』
「?…何がだ」
『何でもないよー。有り難う、征ちゃん』

そう私が嬉しそうに、お礼を言うと、何故お礼を言われたのか分からないらしい征ちゃん。…こういう嬉しいことを計算じゃなくて、素で言えるのって凄い素敵だと思うんだよね。

『…あ、言うの忘れてた。征ちゃんお誕生日おめでとう。…だ、大好きです…』
「…有り難う」

…言った後に恥ずかしさがくるこの感じ、どうにかならないかな…。くそ恥ずかしい。笑顔の征ちゃんが見られたのは凄い嬉しいけど。これがクリスマスプレゼントでも絶対文句言わないよ、私。

「…じゃあ、プレゼントはなまえでね」
『はい!?』
「はは、冗談だよ」

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -