短編 | ナノ

黄瀬と年越し


カーペットに仰向けになって、カチカチカチ、とガラケーを打つ。スマホは良いとよく聞くが、一度使わせて貰ったとき、凄く使いづらかったのを覚えているので、中学の頃から使っているガラケーのままだ。

「ねえ、なまえちゃんってスマホに替えないの?」
『…うーん、だって、打ちにくいでしょスマホ。それに、今の携帯に愛着わいちゃって、手放せないんだよね』
「…ふーん」

カーペットに手をついて、私の顔を上からのぞいてくる涼太くん。彼が電光を遮ったから、私の辺りだけが陰った。
私は彼には目線をやらず、メールの文面をつらつら綴っていく。
ちらりと彼の様子を窺うと、あまり機嫌は良くないみたいだった。
…まあ、彼女が彼氏に構わずにメールを打ってるんだから、それもそうか。

「……なまえちゃん、」
『ん、なあに、涼太くん』

首を傾げ、携帯を閉じて手近なところに置いた。
不機嫌そうな涼太くんへと手を伸ばして、髪に触れる。
…片想いのときは、この髪に触りたくて堪らなかった。光に少しだけ透けて、絹のような髪の隙間からピアスが見えたりして、綺麗だなって思っていた。

「…俺が側にいるのに、携帯とか弄らないで下さいっス」
『うん、ごめんね。年明けのメール打ってたんだ』
「…言い訳っス」
『そうだね、…ごめんね』

むすっとする涼太くんを前に、さらさらと指を通り抜ける髪の感触を楽しむ。
不謹慎だなあと思うけれども、目の前の彼が可愛くて、つい笑みがこぼれてしまうのは許して欲しい。

「…楽しそうっスね」

涼太くんの目が細められたかと思ったら、髪を弄っていた方の手首を掴まれて、カーペットに縫い付けられた。
これには流石に驚く。目を丸くしていると、涼太くんはもう片方の手首も縫い付けてしまった。

『えっと…? 涼太くん…?』
「んー?」
『……えっと…、楽しそう、だね…?』
「ふふ、そうっスねえ…」

口角を上げるその姿を見て、良かったとほっとするけども、いつの間にか両手を頭上で纏められていた。私は両手が使えないのに対し、涼太くんは右手がまだ自由だ。これは…もしかして、少しヤバイのか…?

『…って涼太くん! 除夜の鐘鳴っちゃったよ!』
「…あ、ほんとだ。じゃ、今年もよろしくっス」
『あ…、こちらこそよろしくね、…っじゃなくて…!』

どうにか拘束が解けないものかと手を動かしていると、急に涼太くんが顔を寄せてきたので、ビクリと動きを止めた。
…嫌な予感しかしないのは、何故だろうか。

「ねぇなまえちゃん」
『っは、はい…?』

にっこり笑顔の涼太くんを前に、ごくりと唾を飲み込めば、先程私が彼にしたようにするりと髪に触れてきた。そのままその長い指は頬の輪郭をなぞって、首元で止まる。
すると涼太くんは、耳元に口を寄せてきた。

「姫初めって知ってる?」
『っひ…!?』
「あ、知ってる? じゃあ話が早いっス」

そう楽しそうに言って、涼太くんは一旦遠ざかった。でもすぐに私の上に馬乗りになってきたので、ああこれはもう逃げられないな、って諦めた。

「…っさ、夜はまだまだ長いっスよ、なまえちゃん」

そう目を細めた涼太くんの髪が、さらりと揺れて、きらりとピアスが光った。


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