短編 | ナノ

黄瀬とピアス


『っ……んあ…?』
「あ、なまえっち起きた?」

聞き慣れた声を聞いて、まだ眠りたいと駄々をこねて重くなり、私の邪魔をする瞼を無理矢理開いた。黄色の、良い匂いのするサラサラとした髪が私の前で揺れる。食べたらきっと美味しいんだろうなあ、蜂蜜みたいな色だし。良い匂いするし。食べないけど。

『…起きたくない…』
「何言ってるんスかー、もう午後の二時っスよー」
『…煩いオカン…』

モゾモゾと動き、薄いバスタオルを頭まで被って周りの音をシャットアウトする。まあ、薄いからあんま変わらないんだけど。それよりこいつマジでオカンか。
今年こそ計画立てて計画的にやんぞ! とか最初は思ってたけど例によってダラダラしちゃって例によって夏休み後半で宿題が溜まるとかいう失態を侵した私。
このままではいけない!! と思った私は死ぬ気で徹夜して宿題を終わらせた。確か、寝たのは今日の朝方。数時間寝ただけでは私の瞼は開かないのだよ。

「あ――!!もう!!オカンでも何でも良いっスから早く起きる!!」
『嫌だ嫌だ嫌なのだよ!!涼太止めるのだよ!!』
「何で緑間っち!?」
『面白いからなのだよ!!あ――もう!!男とかマジふざけんな!!何でこんな力強いの!?男女差別だ!!涼太のくせに!!』

今の私は本当に必死だ。何せ私の愛するバスタオルちゃんが涼太に剥ぎ取られつつある。マジで男女の力の差を恨む。マジウザい。







『今日母さん居ないから、ゆっくり寝られると思ったのに…、思ったのに…、思ったのに…』
「あ――、はいはい。繰り返さなくたってちゃんと聴いてるっスよー」

うわ言のようにボソボソと、未練がましく呟く私に見向きもせず、涼しい顔して私から鬼のように剥ぎ取ったバスタオルを畳んでいる涼太。でもコイツ、畳み方の手際さといいさっきのオカン振りといい…マジで出来た犬だな。是非とも私のところに嫁に来て欲しい。

『…涼太、私のとこに嫁に来な』
「婿になら大歓迎っスよ!!」

バカ正直な涼太は、目をランラン輝かしてこっちを見ている。あれ?耳と尻尾が見えるやぁ、めっちゃ嬉しそうだなぁ。って、…ああぁあ!!?

「……なまえっち?」

突然、思考回路が停止した。おそらく今の私の顔はとても間抜けな顔になったまま固まっているだろう。そうに違いない。

『…キ、キセくん、その左耳についてるものナニ?』

涼太が動く度揺れる黄色の髪から、チラチラと左耳についてキラキラと光っているモノが目に入った。ナゼダ。この間まではシテイナカッタノニ。涼太の左耳を指差してる手が、無意識にロボットのように震える。人指差しちゃいけないとか知らないよ?人じゃないもの。耳指差してるんだもの。

「へ…?ああ!ピアスっスよ!カッコいいっしょ?」
『…』
「ちょっ!無言止め…ブッ!」

何かムカついたから、涼太の顔面に側にあったクッションを投げた。え?モデルにそんなことして良いって?モデルって誰のことかなー?

『…涼太、何でいきなりピアス?この間まではしてなかったよね?いつピアスしたの?』
「え…、ちょ…、な、何か怒ってる?なまえ…ブッ!」

「痛いっスよ―!!俺モデルっスよ!?」とか騒ぐ涼太とかは無視だ。今はそれよりも大切なことがある。ぶっちゃけ言ってしまうと、私は涼太が好きだ。大好きだ。惚れた弱みか、どんな涼太もスゴくかっこよく見えてしまう。
そんな私からすれば、涼太+ピアスの合わせ技は本当にヤバイわけで。涼太単体でもあれなのに、ピアスなんてついたらマジでヤバイのだ。第一、涼太+ピアスを他の人に見られるのは、私からすれば非常に宜しくない事態だ。

「さっきやったんスよ。一番になまえっちに見せたくて、そのまま来ちゃったんっス」
『…ふーん。で、何で?』

可愛い女の子だったら、恥ずかしそうに笑う涼太を前にここで真っ赤になったりするんだろうけど、私には無理だ。私がそんなんやったら気色悪いだろうし、何か涼太に負けたみたいでイヤ。惚れた時点で負けてるのかもしれないけど。

「…ピアスつけた理由っスか?」

立っていた涼太は、私の机に近寄って椅子の背もたれが前にくるように座った。マジで絵になるなコイツ、てか足長っ、身長高っ。うわあぁ、涼太と並んだとき私と涼太どう周りから見られてんだろ。そんな呑気なことを考えていた私の耳に、衝劇的な言葉が耳に入った。「だって、なまえっち言ったじゃないスか。ピアスしてる人カッコいいって」
『え…、そ、それだけ?』

言った。確かに言った。スゴく軽い気持ちで。その場だけの気持ちで言った。涼太は、その私の一言だけでピアスをつけたのだろうか。…そうだとしたら。

「それだけじゃないっスよ!俺にはとっても大事なことっス!だって俺、なまえっちのことが…!!」
『アホが!!』
「えぇっ!?」

「寝る!!」そう言って私は涼太がベッドの隅に綺麗に畳んで置いてくれたバスタオルちゃんを頭まで被った。あいにく涼太が綺麗に畳んでくれたものを台無しにしたことにまで気が回る私ではない。自分でもあれだと思うが。「酷いっスよおぉっ…!!」と実に悲痛な声をあげる涼太。本当にゴメン涼太。嬉しかった、嬉しかったよ本当に。
でもさ、私のそんな軽い一言だけで耳に穴開けちゃダメだよ。私もスゴい悪いことを言ったと思うけど、お母さんとお父さんに貰った大切な身体に穴なんか開けちゃダメだよ。それにモデルなんだから身体を大切にしないと。頭グチャグチャしてて身体も熱いけど、あれ?私さっき気色悪いとか言ってたけど、顔もしかして赤い?

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