短編 | ナノ

赤司と手を繋ぐ


赤司という男は、完璧だ。飾り気のない簡潔なその単語で表現出来るほど、彼には非の打ちどころがない。


『……』
「…何なんだ。さっきから人の顔をじろじろと、」
『…いや、特に意味はないよ』
「意味がない訳ないだろう」
『……驚いた』
「……、お前は言葉のキャッチボールとやらをする気があるのか。ちゃんと意味の通った会話をしてくれ」


彼の不機嫌な姿を目にして、またもや驚いた。完璧な赤司のことだから、私の考えていることなんてお見通しで、完璧でいる為に邪魔な感情なんて、てっきり持ち合わせていないものかと思っていた。感情を持ち合わせていないなんてあり得ないが、それほどまでに彼は理性的なのだ。


『赤司も不機嫌になったりするんだね』
「また何だ唐突に…。俺を一体何だと思っているんだ」
『……、ロボット?』
「何故そうなる」
『んー、分刻みのメニュー作るし、何でも出来るから? 何か人間味が感じられないんだよね』


「赤司って人間なの?」この際だからと、前から気になっていたことを訊ねてみた。目の前の彼は問いに答える代わりに、目を丸くした。そんな行動にさえも、ああ、赤司も目を丸くしたりするんだなあ、と当たり前なことを思ってしまう。頭では当たり前だろうと思っていても、どうしても赤司は人間じゃないんじゃないかという思考へいってしまう。我ながら呆れる。


「例えばもし、俺が自分のことをロボットだの宇宙人だの言ったら、なまえはそれを信じるのか?」
『信じるだろうね』
「…、即答だな」
『うん』
「……、」
『うん? 何だいこの手は?』
「お前も手を出せ」
『え、なんでま』
「早くしろ」
『、わ』


ぐい、と無理やり手を引かれて、赤司の手にすっぽり包まれる。こんな光景を目にしての私の感想は、思ったより赤司って手ぇ大きいんだなあ、だ。それと、


『…嘘だ、何か赤司の手あったかいんだけど、何で』
「何でも何もあるか、俺は人間だ、そんなこと当たり前だろうが」
『うっそだあ、ないないない』
「……全否定なんだな」
『(…あれ)』


ぎゅう、と重ねた手に力を込めて、苦しそうに眉を寄せる赤司。珍しいそんな行動に、あれ、言い過ぎたかな、と自分の言葉を悔いる。どんな表情をしているのか気になるが、前髪が邪魔だ。


『…えっと……、あか』
「お前には、…なまえには、一人の人間の男として見て欲しいんだけどね」
『………へ?』


意味深な笑みを浮かべる赤司に、ぱっと手を離される。…不覚にも、先程の言葉にときめいてしまった私がいた。手にはまだ、彼の体温が残っている。


『え、ちょ、まって、え? 赤司?』
「なんだ、そんな顔をあかくし」
『うわああぁ!! 自分で分かってるから言わないで!』
「……俺は本心を言っただけだが」
『ほ、本心って…!!』


クスリと意地悪く笑う彼に、私は羞恥から押し黙ることしか出来なかった。

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