短編 | ナノ

軍パロ


※血とか少しグロい表現が出てきます。黄瀬くんがちょっぴり黒いというか、最低というか…。





月は妖雲に覆い隠され、星すら瞬かない夜更け。
夜に栄える吉原のような店が、こぞって軒を連ねている大通り。そこから少し外れた粗末な路地には、一筋の光すら射していない。
完全なる暗黒の中に、すらりと一際異様に輝くものがあった。


「ひ……っ、やめ…!!」
『……、ごめんなさい』


刀をズプリと肉に突き刺すと、嫌な感触が肌を伝い頭を刺激する。
同時に、耳を塞ぎたくなる悲痛の叫びが耳をつんざいた。
もしこの鼓膜が破れたとしても、私はこの声を、己が与えた痛みを聞かなければならない。これから耳を背ければ、私は本当に人間ではなくなってしまうだろう。
…例え人として許されない行為をしているとしても、私は人でありたい。

ぐいと手の甲で返り血を拭い、刀を鞘に収める。
黒ずんだ紅に染まる死体を一瞥し、くるりと踵を返すと、薄ら笑いを湛えた男が一人。
彼が持つ二本の刀には、べっとりと血が付着していた。


「…なまえっちって、いつも人を殺めるとき謝るよね」
『……それが、なに?』
「俺達がヤッてんのは、殺されて当然の奴等なのに、何で謝ったりするの? 俺にはそれが分からない」


刃先からぽとりと鮮血が滴り、じわりと地面に滲む。
その光景に、汚らわしいものを見るかのように視線を注ぎ、彼は顔を歪めた。
…涼太は決して、正義感で人を殺めているのではない。否、正義感なんてものだけでは、到底人なんて殺せない。
彼は只、嫌悪感により汚らわしいものを排除しているだけ。
清々しいくらい、私より人間らしい人だな、と思う。


「死体とかの後始末は、紫っちがやってくれるっスよ」
『…分かってる、』


目の前の男は、一度刀を薙いで血を払うと、ちん、と小気味のいい音を鳴らし二本の刀を鞘へと収めた。
冷風が凪ぎ、厚い雲間から痩せ細った月が顔をのぞかせる。

ぼんやりと妖しい月明かりに照らされ、微かに微笑んだ彼がこちらに手を差し出したのが見えた。
純白だった筈の手袋は、生々しい深紅へと姿を変え、この組織の非情さを改めて感じさせた。
…一歩間違えば、この血が私のものだったかもしれないのだ。


「帰ろ、なまえっち、」
『…はい』


…あちら側じゃなくて、こちら側の人間で良かったと、どうしようもなく安心してしまう自分が怖かった。

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