短編 | ナノ

緑間の手


長くて細いしなやかな指。整った形の良い艶のある爪。まさに私の理想を全て兼ね備えたと言って良いくらいの綺麗な手を持つ男の子、緑間 真太郎くん。
始まりは数学の授業中。彼が教師に指名されて黒板に回答を書いているときだった。ぼうっと黒板に書かれた数式を見ていたら、ふと視界に包帯が巻かれた大きな手が入った。
包帯が巻かれていてあまりよく見えなかったけれど、自慢じゃないがいくつもの人々の手を見てきた私だ。一目見て思った。私の理想を全て詰め込んだ素敵な手だと。
それを幼馴染みで仲の良い和成に話したら、それはもう爆笑された。「アイツはやめとけ」そう笑いながら言われたけど、そう簡単に諦められるものではなくて、バスケ部のマネージャーにもなった。



「…何なのだよ、なまえ」
『んー?別にー?』



そんなことがあって、真太郎くんと晴れてお付き合いすることが出来た私。和成には大変お世話になりました。今日は午前中のバスケ部の練習が終わった後、まっすぐ真太郎くんの自宅にお邪魔した。



『あれ、本読むの辞めちゃうの?』
「…全然集中出来ないからな」
『あー、ごめんね?』



読書中の真太郎くんの横に座り、彼に寄り掛かってページを捲る綺麗な手を見ていると、溜め息と共にその手がパタンと本を閉じた。包帯が外された彼の左手はあまり見られるものではないので、なるべく見ていたかっただけなのだが…。



「…なまえ、」
『なあに?ってわっ』



ベッドに放り投げられた本に悪く思っていると、真太郎くんの両手が私の脇にするりと差し込まれた。「あのお堅い真太郎くんが、こんなことをするなんて…」とびっくりしながら顔の温度がどんどん上がっていくのを感じる。



『あ、の…真太郎くん?』
「…疲れたのだよ…」



脇に差し込まれた両手に酷く驚いて、身体を思わず堅く縮こまらせていると、真太郎くんの両足の間に身体を下ろされ胴に両手が回された。頭上で安心しきった穏やかな彼の吐息が聞こえてくるので、何も言えない。



『(……眠くなってきた…)』



いつもより速くなっている自分の心臓の音を感じつつ、時を刻む針の音と真太郎くんの穏やかな呼吸音を聞いていると、窓から射し込む暖かな日光と彼の温もりもそれを手伝ったのか、段々眠くなってきた。
「真太郎くんのお家なんだから、我慢しなきゃ」と睡魔になけなしの抵抗をするも、呆気なく敗れ、「幸せだなぁ」と思いながらゆっくり瞼を閉じ夢の世界へと旅立った。

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -