短編 | ナノ

掠れた声と吐息(赤司)


私と同い年の赤司 征十郎くんは、それはそれは完璧な男の子だ。噂で聞くぶんにも凄い人だったけれど、実際に関わってみると改めて彼の凄さを実感した。

『赤司くん、この書類の確認お願いします』
「ああ。そこに置いておいてくれ」
『はい』

私は今年進学した洛山高校の生徒会に入っているのだが、彼は私と同じ一年生にして生徒会長を務めているのだ。生徒会立会演説会の際は凄かった。彼から威圧感が滲み出ていて、二年生をも圧倒していたのを覚えている。
演説もとても説得力のあるものだった。あまりにも心に訴えかける何かがあったから、迷うことなく私も彼に一票投じておいた。投票結果は二年生の立候補者と大差をつけて、赤司くんが投票数第一位。私も投票数は結構上位の方だったので、現在は生徒会の会計を務めている。
それだけではない。私は知り合いの実渕 玲央先輩の推薦で男子バスケ部のマネージャーも務め始めたのだが、彼は何と生徒会長のみならず主将をも担っていた。それ以上に、上級生から何も不満が出ていなかったことに大層驚いた。とにかく、赤司 征十郎くんは凄い人なのだ。

『(そんな人が何故私の膝に…!?)』

心臓が今にも止まるくらいに吃驚したのにも関わらず、叫び声をあげなかった私を誰か褒めて欲しい。膝上に居る赤司くんのお陰で、朧気だった意識が一気にクリアになった。
昼休みに、そんな大人数は知らないであろう穴場の木陰に、自ら足を運んで来たのは覚えている。多分、そのまま寝てしまったんだろう。だけど、何故ここに赤司くんが居るんだ。しかも私の膝の上。太もものくすぐったさに必死に耐えながら、顔を覗き込む。

『(…本当に、綺麗な顔だな…。容姿も家柄も地位も、学力も申し分無いなんて…)』

赤司くんは、嫌味の固まりだな。完璧だから、隙もないから、誰も何も言えない。…ところで、彼は足音をたてないよう細心の注意を払って背後から近付いても、すぐに気付くほど過敏な人、の筈だ。
何故起きないんだ。疲れているとしたら、どんだけ疲れてるんだ。ふと首元のネクタイに目がいき、「苦しそうだな」と思った。そうっと手を伸ばして、緩めてやる。

「……なまえ、何をしているんだ、」
『っ…はい!!』

いきなり掠れた艶っぽい声が膝元から聞こえて、条件反射でしゃんと背筋を正す。起きてしまった。不意討ちで寝起き独特の掠れた声で名前を呼ばれたものだから、不覚にも少しときめいてしまった。
赤司くんはそんな私を気にする素振りも見せず、憂いがちに吐息をこぼし瞳を伏せた。あまりにも絵になり過ぎるその動作に、思わず見いってしまった。

『あ…の、赤司くん』
「…なんだい?」
『えっと…、何で私の膝の上に居たんです、か…?』

何だか彼を直視出来なくて、視線をさ迷わせながらどうにかそう訊ねた。恥ずかしさからそこら辺の草むらを見ていると、クスリと赤司くんが笑った。その笑みの真意が気になってつい赤司くんへと視線を合わせると、「さあ、何故だろうね」と、そう形のいい唇が紡いだ。

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テーマ「人外ファンタジー」
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