短編 | ナノ

ネクタイを解く手(黄瀬)


今日は春休み明け初の登校日。まあ、昨日もバスケ部の練習があって学校に来たから、イマイチ実感がわかないのだけど。何はともあれ私達二年生は、今日三年生に進級した。
朝のクラス替えでは、さつきが黒子くんと同じクラスになれなかったと大層嘆いていた。ああそうそう、緑間くんも綺麗な顔を不機嫌そうに歪めていた。そんなに青峰くんと同じクラスが嫌なのか。



「ちょっ、なまえっち待ってよ〜!」
『黄瀬くん、早くしてよ。紫原くん行っちゃったよ?』
「ううっ、分かってるっスよ!」



私は黄瀬くんと紫原くんと同じクラスになった。緑間くんみたいに特に嫌って訳でもないけれど、取り合えず「紫原くん」って呼ぶのめんどくさいなと思った。私ちゃんと噛まないで呼べるかな。
そう思うと緑間くんって凄いよね、紫原くんが練習中お菓子食べてると、凄い剣幕で捲し立てるもの。っていうか緑間くんって呼ぶのも少しめんどくさい。そんなことを考えながら、わたわたと慌てて帰り支度をする黄瀬くんを見ていた。



「ゴメンなまえっち!行きましょ!」



えへへと照れたように笑って、黄瀬くんが小走りで私の元へとやって来た。イケメンズルい。てかワンコかお前は。「コンビニで何か奢ってくれるなら許してあげる」揃って教室から出て、廊下を歩きながら笑顔で黄瀬くんにそう言ってやった。



「えぇ!?」
『モデルでしょ。私アイス食べたいの』
「まだ春っスよ!?」
『知らん。アイスはオールシーズン食べられんのよ』
「えぇ…腹こわすっスよ?」
『こわしません』



私の言葉にぶつぶつと文句を言いながら、ネクタイに手を掛ける黄瀬くん。いつもは息苦しいのか付けていないけど、今日は始業式があったから付けていたみたい。黄瀬くんのネクタイを締めている姿なんてあまり見たことがないから、物珍しさから彼の首元を見つめた。彼が何か呟く度に動く喉仏。
横から見ているからよく分かる。黄瀬くんの長くてしなやかな指が黒い布を掴んで、器用に動かす。シュッとネクタイを首から引き抜いたとき、シャツの隙間からしっかりとした鎖骨がちらりと見えた。スポーツマンとは思えない程白い肌と、水色のシャツとのコントラストが、また…。



「なまえっち?」
『っななな何!?』
「どうかした?何か顔赤いけど…」
『どうしもしないしない!!』



「変態か私は!!」両手を左右に振って否定の感情を示しながら、心のなかでは軽い自己嫌悪に陥っていた。いっそのこと壁に頭を打ち付けたい。
顔を朱に染めて乾いた笑みを浮かべる私を、黄瀬くんはきょとんと首を傾げて見つめていた。はは…こんな純粋な黄瀬くんを見て一体何を考えているんだ、私は。でも、黄瀬くんが悪い。

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