短編 | ナノ

宮地の問題発言


突然だが、二階からバケツの水を捨てるというのは一体何なのだろうか。馬鹿だろう。そりゃあやってみたい気持ちは分かる、現に私もやったことあるし。
でも、やるときには下に誰か居るか確認すべきだろう。やった相手がクソ可愛い一年の女の子だったし、水超綺麗だったから許したけど。ちなみに私二年ね。

「うわ、なまえお前何でそんな濡れてんだよ」
『水遊びですよ、楽しかったです』
「嘘言え」

「今夏じゃねーだろ」と童顔のクセに背が異常に高い宮地 清志先輩、通称清先輩が私を見下ろしてくる。身長差が大分あるので、首が痛い。清先輩の野郎背ぇ縮めば良いのに。そしたら少しは可愛げとかイケメンオーラとか出るんじゃね?

『い、痛い痛い痛いです清先輩…!』
「痛いか、そりゃ良かった。全部口に出てんだよクソ野郎。轢くぞ」
『え、免許持ってるんで痛い痛い…!』

満面の黒い笑みを浮かべる先輩に、両こめかみを曲げた人差し指でグリグリと抉られる。上手く言い表せない痛さに目に涙の膜が出来、視界が歪む。痛い。とにかく痛い。
私が煩く喚くから、清先輩は忌々しげに舌打ちをしてやっとグリグリ攻撃をやめてくれた。改めて真ん前から見ると、「あの金髪ピアスに負けず劣らずのイケメンさんなのに、いっつも不機嫌で勿体無いな」と思った。

『…あ、清先輩、今あんま私見ない方が良いですよ』
「は?何でだよ」
『え、だって、多分透けてるでしょう、』

下ろしている髪の毛先から雫が滴り落ち、渡り廊下のコンクリートの色を変える。別に私は、清先輩になら見られても大して問題は無いので、キョトンと間抜けな顔をして答えた。
先輩はというと、私の言葉の意味が理解出来なかったようで一瞬眉間に皺を寄せたけど、改めて私の頭の先から足の先までを見て、みるみるうちに真っ赤になった。わ、男のクセに可愛い。

『清先輩かわ…うわっぷっ』
「それ着てろバカが!!」
『バカ!?』

バサッと何かが翻る音と、清先輩の怒声。それを耳にしたのとほぼ同時、私の視界が暗くなり、突然清先輩の甘い良い匂いに包まれた。手を動かしてもがくと、先輩が私にほん投げたのが学ランだったということが分かった。
驚いて清先輩を見上げると、柔らかそうな髪をガシガシと乱雑に乱し、チラチラと横目で私のことを見ていた。「あー、クソッ」って真っ赤になりながら言うその姿も、苛虐心をそそられる。
良からぬことを考えていたことが、勘の鋭い先輩には分かったのか、私が口を開くその前に、先輩が早く着ろと珍しく焦りながら急かした。不本意だったが、私は清先輩の学ランを有り難く着させて貰った。寒かったしね。

『…やっぱり大きいですね』
「そりゃあそうだろ。我慢しろよ」

やっぱりというか何というか、予想はしていたが先輩の学ランは私にはダボダボで、手を出すのにも一苦労だ。手足長いとか本当羨ましい。そういえば、学ラン少し濡れてしまうけれど、大丈夫なんだろうか。

「ほら、どうせ更衣室行くんだろ、行くぞ」
『あ、はい!あの、清先輩!』
「…何だよ」

さっきまでの可愛い可愛い真っ赤な清先輩は、一体どこに行ったのか。いつもの仏頂面な少し恐い表情に戻ってしまった先輩を見て、少し残念に思いながら、おずおずと学ランが濡れてしまって平気なのかと訊ねた。

『学ラン、多分少し濡れると思いますけど、大丈夫ですか?濡れるようなら私、』
「バーカ、家にもう一枚あるわ。そんなこと気にせずにしっかり着てろ、風邪ひくだろ」

一回着て少し濡れてしまった学ランを、申し訳なさそうな顔をして脱ごうとする私の手首を掴んで、脱がさせまいとする先輩。わあ、男前。でも、私の姿を改めて見てすぐに真っ赤になってそっぽ向いちゃったけどね。

『ふふ、先輩可愛いですね』
「黙れ単細胞が。抱くぞ」
『あれ、いつもと何か違くな…抱くぞ!?』
「ギャーギャーうっせぇよ、行くぞ」

赤くなってたクセにもう元に戻り、ニヤリと余裕そうに笑って私を肩越しに見下ろす清先輩。ギュッと手を握られて、私の歩くスピードなんて一切気にせずに強く引かれる。んー、あー、やっぱ好きだなぁ。ちょっと強引だけど。

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テーマ「人外ファンタジー」
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