短編 | ナノ

黄瀬と苺


口に含んだ赤い果実に恐る恐る歯を立てると、ジワアァと口内に独特の味が染み渡る。由美ちゃんとかはこの赤い悪魔のことを甘い甘いと言って美味しそうにぱくぱく頬張るけど、どこが甘いんだ。

『…うええ…不味い…』
「ええっ、苺嫌いなんスか!?」

思いっきり顔を歪め、ゴクンと大きく喉を鳴らして一気に飲み込む。うえ、まだ味が残ってる。噛むのが足りなかったのか少し大きな固形物のまま喉を通っていったが、胃に入ってしまえば噛んでも噛まなくても大体同じようなものだ。

『…だって酸っぱいだけじゃん苺って。甘いとは到底思えない…』
「えー、甘酸っぱいのが良いんじゃないスか」

そう言って透明なボウルの水洗いした山盛りの苺から一つを選んで摘まみ、じっと見つめてからパクリと口に入れる涼太。そんな姿を見ながらミネラルウォーターのペットボトルの蓋を開けて、水を口に含む。
第一、甘酸っぱいという表現自体よく分からない。甘酸っぱい、あまずっぱい、アマズッパイ、甘くて酸っぱい……意味分からん。

「…って、不味いって言ってんのにまた食べるんスかなまえ」
『…いやだって、さっき食べたのがたまたま酸っぱかったってことも十分考えられるし』

ペットボトルをフローリングの床に置いて、赤くて大きな実を摘まんで口を開く。そんな私の姿を見てギョッと目を見開く涼太を横目に、口に含んだ苺に再度歯を立てる。
先程の酸っぱい苺と大して変わらない不味い味が口内に染み渡り、眉間に皺を寄せる。と、涼太に耳元で名前を呼ばれ、肩を掴まれたと思ったら、唇に柔らかくて温かいものが触れた。

『む、』

色気も何もない間抜けな声を漏らすと、それがまるで合図のように、ぬるりとした感触の舌が入ってきて、私の口内を好き勝手に蹂躙する。暫く経ち涼太が離れると、私と彼の唇を銀色の糸が名残惜しそうに繋いだ。
それがプツリと呆気なく切れると、小さく喉を鳴らして液状になった苺と唾液を飲み込む。口端に垂れた液状の苺を親指で拭い、真っ赤な舌を見せてそれを舐め取る涼太が見てられなくなって視線を外すと、「やっぱり甘いじゃないスか」と余裕たっぷり色気たっぷりに言う涼太。

『……この、ませエロワンコめ』
「あれー?そんなこと言っていんスか?また不味い苺食べることになるっスよ?」

モデルスマイルでボウルから赤い赤い苺をまた一つ摘まんで私に見せ、挑戦的に口へと運んで入れる涼太。そんな彼に「はっ、望むところ」と変なプライドで余裕も何もないのに余裕あり気に答える私。何張り合ってんだか。
私のそんな強がりな返答を聴いて、涼太の目が鋭く細められたかと思ったら、私の唇を食べるみたいにキスされた。彼の口内には勿論先程口に入れたあの不味い苺が入っていたけれど、今度の苺は何故か、不味さのなかに少しだけだけど甘さを感じた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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