短編 | ナノ

黄瀬のお姉ちゃん


「黄瀬、お前って姉ちゃん居るんだよな?」
「あ、よく知ってるっスね、森山先輩」
「そりゃあ女の子のことはな」

肩に掛けたタオルで汗を拭いながら、ドリンクを飲んでいたら、森山先輩に声を掛けられた。
そのまま先輩の腕が肩に掛かって、内密な話をするかのように声がひそめられる。

「で、だ。お前の姉ちゃんなら美人だよな? てか、美人に決まってるよな?」
「え、…あ――、美人っスよ、一応…。モデルにもスカウトされたことあるし…」

俺の返答に目を光らせる森山先輩。
あ――…これはもしかしなくても期待しちゃってるな…。

「…先輩、姉ちゃんはやめといた方が良いっスよ」
「なんだよ黄瀬、お前シスコン?」
「じゃなくて…」
『涼くん』

今聞こえる筈のない声が聞こえて、バッと声のした方を向く。
そこに居たのは、やっぱり俺の姉ちゃん。…何でここに居るんだ。あ、今日大学休みだっけ。

「姉ちゃん…?」
『涼くん、忘れ物したでしょ。気を付けないと駄目よ、もう』
「あ、ありがとうっス」
『どういたしまして。…あら、そちらは森山くん? いつも弟がお世話になってます。涼太の姉です』

にこりと姉ちゃんが微笑むと、森山先輩はいきなり姉ちゃんの手を取って自己紹介し始めた。

「森山由孝です。いえいえ、こちらこそいつも黄瀬には世話になってます。
いやあ、それにしても黄瀬が羨ましいですね、こんな美人なお姉さまが居て」
『まあ…』
「もう少しで部活も終わるので、どこかでお茶でもしませんか?」

お、森山先輩珍しく赤い糸がどうのこうのとか言わなかったな…、じゃなくて!!

『有難う、でもごめんね。三次元の男性には興味ないんです』

自分でツッコミをいれていると、そんな声が聞こえてきてすぐに姉ちゃんと森山先輩を見上げた。
にこりと微笑む姉ちゃんに対し、ぽかーんと呆気にとられている先輩。

『涼くん、私これから美咲ちゃんとちょっと“お買い物”に行ってくるから、帰り遅くなるって母さんに伝えておいてくれる?』
「へ、あ…分かったっス」
『お願いね』

楽しそうに笑った姉に、これは大分遅くなるなと今までの経験から思った。
それから姉ちゃんは先輩に笑顔で会釈をして、去って行った。

「……俺、あんな断られ方初めてなんだけど…」
「あ、あ――…、それはまあ、そうっスよね」

俺の姉ちゃんは、二次オタなのだから。

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