短編 | ナノ

高尾の失恋


秀徳高校に進学して出会った緑間と高尾は、面白い。あの二人は本当に見ていて非常に面白い。私は高尾のような性格だから、これまで進んでたくさんの人間と関わってきた。それでも、今まで出会った人間にあんな人は居なかった。そんな二人と過ごした三年間はあっという間で、色々あったけど毎日が楽しかった。

『高尾、あのね、』

卒業式の数日前。同じ日に、緑間と高尾から告白された。私が知らないところで何か話し合ったのかな、じゃないと同じ日にとかあり得ないよね。ちょっと、それは寂しいなあと、自分でもよく分からなかったけどそう思った。二人とも優しいから、突然のことに混乱して、いつもの軽口がたたけなくて、その場で返事が出来なかった私に、返事は卒業までにしてくれれば良いと言ってくれた。返事を貰うその間、とても不安だろうに。

実を言うと二人から告白される前から、私の気持ちは決まっていた。高尾は私とほんとに似ていて、気が合った。一緒にいて楽しかった。私を見るその視線が、他の人に向けるものと違うことにも、何となく気が付いていた。そんな私も彼のことは特別に思っているけど、…でも、その特別は高尾が私に抱いているものと同じなのかなと考えてみると、やっぱり違った。

「、そっか」
『……』
「ちょ、そんな暗い顔すんなよなー。俺も何となく分かってたんだからよ、なまえ分かりやすいし」
『え…ちょ、ほんと?』
「ほんと。…でも真ちゃんはなー、あいつにはちゃんと言わねぇと分かんないだろ、」

だから、な? そう言って突然高尾は向き合っていた私をくるりと後ろに向かせて、 トンと私の背中を押した。いきなりのことに驚いたけれど、一瞬、微かに感じた高尾の手があたたかかったことは、色濃く脳裏に焼き付いている。

「ほら、行ってこいよ」
『……うん、ありがと』
「おう」

高尾に促されるまま、私が扉に手を掛けた為に、がたりと戸から音がした。その音が妙に耳を突いて、頭を変にすっきりとさせる。“このままここを去ってしまって良いのだろうか” そんなことが、頭に浮かんだ。

『っ、高尾!』

何も考えは纏まっていやしないのに、私は振り向いた。何か言わなくてはいけないと、直感的にそう思ったのだ。電気がついていない暗い教室は、外からの日差しで幾分か明るい。それのお陰で高尾が今、どんな表情をしているのかが見ることが出来た。うん、そりゃ驚くよね。

「なまえ…?」
『っ……』

何を言えば言いのか。驚いている高尾、私を応援してくれる人を前にして、どのようなことを言えば、正解なのか。いつもはさして何も考えなくても言葉はこの口から出てくるのに、本当に大事なこういうときは、出てきてはくれない。

『高尾…これからも、友達でいてくれる…?』
「……当たり前だろ」

とってついた言葉は、そんなものだった。何で私はこんなことを言ってしまったんだろう。後悔をする私もいるなかで、あたたかい表情をする高尾に、どうしても安心してしまう私もいて。私も人間だから、安心感の方が膨れてしまった私は、お礼の言葉を彼に述べて教室から出た。高尾の後ろの窓から、満開の桜が舞う光景が見えて、苦しいぐらい綺麗だった。

260817
高尾ごめん……

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