短編 | ナノ

赤司とオダマキ


私の家は、日本有数の名家だ。そういう代々続く有名な家筋の人間には、大抵許嫁という存在が居るもの。私にもまた、例にも漏れず親に勝手に決められた、家柄の為だけの婚約者が居る。

「勘違いしないで下さいよ。俺は家の為にきみと結婚するだけで、きみ自体には興味がありません」

「浮気…まあ浮気というのかも分かりませんが、そういうのも覚悟して下さい」そう仄かに笑みを浮かべて、淡々と言葉を紡ぐ婚約者の姿を何度となく見た。
その度に、どうしようもなく逃げ出したくなって、でも逃げられなくて。家柄というしがらみに縛られるばかりだった。
私の存在は一体何なのだろうかと、自問を繰り返した。

『私はどうすれば良いんだろうね、』

「赤司くん」彼の家も日本有数の名家で、私と同じような立場にあるらしい。
彼の婚約者は私の婚約者と違ってとても交遊的らしいのだが、赤司くんいわく、見た目と家柄しか見ていない女性らしい。彼はよく、「俺の中身だけを見て、選んで欲しいんだ」と儚げにぼやいている。

『私の婚約者が、赤司くんみたいな人だったら良かったのになあ…』

同じような立場に居るから、悩みを気兼ねなく打ち明けられて、感情を吐露できる。
…赤司くんみたいな優しい人が私の婚約者だったならば、こんな思いをしなくても良かったのかもしれない。

「俺も、同じだ」
『あか、しくん?』

机を挟んで対峙していた赤司くんが、席を立って、椅子に腰掛ける私の眼前に立つ。ふわりと彼が纏う気品の良い、香り高くも控え目な匂いが、至近距離で鼻を掠めた。
「貴女を必ず手に入れる」そう私を抱き締めて、耳元で優しくも強く囁いた赤司くんの声。頬の滑らかな輪郭に沿って、雫が伝い落ちた。


>>「貴女を必ず手にいれる」
オダマキの花言葉

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