短編 | ナノ

征十郎お兄ちゃん


『お兄様、ちょっと宜しいですか?』

元へと近付く際に、ちらりと机へと視線を向けると、そこにはデータなどが書かれたプリントと文房具。どうやら、お兄様がバスケ部の主将としての仕事をこなしている最中に、私がお邪魔してしまったらしい。眉間に皺が寄る。

『ごめんなさいお兄様、バスケ部のことをしている最中にお邪魔してしまって…』
「構わないよ、丁度休憩を取るところだったから。用件はなんだい?」
『えっ、と…英語で分からないところがあって。ここなんですけど…』

机に教科書を置いて、分からないところを指でなぞって示す。教科書を見る為に、自然と近くなったお兄様との距離。ドキドキと跳ねる心臓の鼓動を感じていると、「ああ、ここはね…」と、懇切丁寧に説明を始めてくれる。
征十郎お兄様とは、一歳の年の差がある。彼が中学三年生だから、私は二年生。妹の私から見ても整っていると感じる彼の顔が側にあると、自然と見てしまう訳で。お兄様の説明の声も頭に残らず、ただただ右から左に流れてしまう。

「…と、いうことなんだが、…ちゃんと聴いていたか?」
『えっ……、す、すみません、考え事を…』

窺うような視線でこちらを見てきたお兄様に、眉を下げて聴いていなかったことを素直に謝ると、突然じっと見つめられた。鮮やかな赤色の瞳から目線を逸らすことも出来ずに硬直していると、今度はお兄様の端正な顔が近付いてきた。
咄嗟に驚いて身を引くと、腰に腕を回されて逃げられなくなる。せめて目線だけでも逃げようと瞼をきつく瞑ると、直後、額に暖かいものがくつけられた。暖かいというか、ぬるいという表現の方が適切だろうか。
暫く目を瞑っていたけれど、額にくつけられたものの正体が気になったので、そうっと瞼を開く。すると、お兄様の端正な顔が本当に間近にあった。目を見張って身じろぐが、彼はそれを許してはくれない。
閉じられた瞼のお陰で、先程のように宝石のような赤い瞳に見つめられることはないが、何せこの距離だ。息が上手く出来ない。彼の睫毛の長さを少し疎ましく思っていると、征十郎お兄様がやっと離れてくれた。瞼が開かれる。今気付いたが、どうやら前髪を上げられていたらしい。

「熱はないみたいだな」
『え…』
「いや、顔が少し赤かったみたいだから、てっきり熱でもあるのかと思ったんだ」
『ね、つ…ですか』

「ああ。大丈夫なら説明をもう一度繰り返すが…、どうする?」と教科書のページを捲りながら訊ねてくるお兄様に、肯定の返事を返した。今度は勉強に集中しよう。


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -