涼太お兄ちゃん
「えー!なまえにはこっちの方が似合ってるっスよ!」
『えぇ…』
「嫌がる前にまず着てみる!絶対似合うから!」
くっそ甘い可愛い系の服を押し付けられ、背中をグイグイと試着室の方へと押される。私とお兄ちゃんの服の趣味は真逆である。まあ、お兄ちゃんはモデルをやっているので、私なんかよりも数倍センスが良いのだけど。根本的な趣味が違うのだ。私は大人っぽいクール系の服が好みだけど、涼太お兄ちゃんは真逆。
『…』
「なーに嫌そうな顔してんスかなまえ。スッゴく可愛っスよ?すいませーん、この服くださーい」
溜め息が出る。スポーツに力を入れている海常高校。そこのバスケ部に所属している涼太お兄ちゃん。強いとなるとやはり練習量が半端無いわけで。しかもお兄ちゃんはあの「キセキの世代」で一年生にしてスタメン。そんなお兄ちゃんとの数少ないお出かけ。好きだけど、私は毎回お兄ちゃんと洋服店に足を運ぶのを嫌がる。
『またヤダって言えなかったよ…』
「ん?何か言ったっスか?」
『…べつにー』
会計を済ませたお兄ちゃんのその手には、洋服店の袋。この中には私が今日家から着てきた服が入っている。私としては元の服に着替えたいのだが、「着替えるのメンドイじゃないスか。それにその服の方が可愛いし、似合ってる」という言葉で私の意見は却下されてしまう。はっきり断ればそれで済んでしまうのだが、そんなの無理なのだ。
「また、俺に服選ばせて貰えないっスか?」
そんな言葉を、毎度毎度心底嬉しそうな笑顔で言われてしまうのだから。