テツヤお兄ちゃん
「そろそろ行きましょうか、なまえ」
『…あ、はいっ』
テツヤお兄ちゃんに声を掛けられて、慌てて本を閉じ椅子から腰を持ち上げる。その慌てっぷりにクスリと笑われて、自然と顔が熱くなる。恥ずかしさから俯き気味になっていると、「スゴい入り込んでましたね。借りるんですか?」と問い掛けられた。
『は、はい』
「そうですか。じゃあ、待ってますね」
そう柔らかく笑い掛けられて、優しく頭を撫でられる。テツヤお兄ちゃんは、スゴく優しい。お兄ちゃんの部活仲間である火神先輩に前、「黒子のヤツ、俺のこと殴りやがったんだぜ」と聴いたときには、スゴく驚いた。だって、私はお兄ちゃんが人に手をあげるところなんて見たことが無いし、怒ったところでさえ見たことが無い。
「その本面白いですか?」
『はい。あっお兄ちゃん、マジバ行きませんか?私シェイク飲みたいです。新しい味出たみたいなんですよ』
自動ドアの前に立つと、外の熱気と共にドアがゆっくりと左右に開く。セミの鳴く騒がしい声もどこからか聞こえてくる。もう夏だなあ。笑顔でシェイクのことを話す私にお兄ちゃんは再度柔らかく微笑んだ。テツヤお兄ちゃんの思ったより大きな右手が私の手に優しく重なり、弱く引かれる。
「良いですよ、行きましょうか」
『はい!』