50000打企画 | ナノ
黒子のバスケ×警察
カツカツと高くも低くもない高さのヒールの音を響かせ、もそもそとまいう棒を口に入れながら両手を白衣のポケットに突っ込んでいる広い背中の紫原検視官について行く。
前を歩く彼が止まったと同時に視線を上へと持ち上げ、捜査一課とレタリングしてあるプレートを見て口がつい緩まった。扉が開く静かな音と共に高くて大きい声が耳をつんざき、思わず片目をつぶった。

「青峰っちいいぃっ!!自分の始末書ぐらい自分でやってっスよおおぉっ!!」
「嫌だね、今スッゴく疲れてんの俺」
「堀北マイの写真集見てる奴が!?」

ギャーギャーと騒ぐ黄瀬巡査が青峰警部補に突っ掛かるのはもう見慣れたもので、苦笑いしながら慣れた素振りでソファへと深く腰を下ろす。「どうぞ」と物腰柔らかに緑茶を注いだ湯呑みを目の前のテーブルに置いてくれた黒子巡査部長に礼を言い、ズズッとすする。
私はこの穏やかな瞬間が好きなので、湯呑みを両手で持ち膝の上で固定して、ソファに背中を預けて目をつぶる。と、いきなりガバッと何かが私の首元に張り付いてきた。サラサラとした感触がくすぐったい。

『あぶな…っ』
「なまえっち聴いてよぉっ!!青峰っちが自分の始末書俺に押し付けるうぅ…!!」

黄瀬がソファの背もたれを挟み首元に顔を埋めてきた反動で、湯呑みのお茶が溢れるところだった。湯呑みをコトンとテーブルへと置きよしよしと泣き付いてきた黄瀬の頭を撫でながら、椅子に座り下品にも机に足を乗せて堀北マイちゃんの水着写真集を悠々と眺める青峰へと目を向ける。

『うわ…またスゴい量の…』
「拳銃の弾丸使い過ぎ、無断発砲、犯人を失神させたり怪我させたりと、色々問題起こしてますからね青峰くんは」
「お、このアングルエロい」

お盆を胸の前、両手で持ちながら、呆れた表情で青峰を見て溜め息を吐く黒子。そんな黒子と同じ様な視線を青峰に向けながら、「うわぁ…」と呟いて黄瀬を引き剥がし、青峰の椅子の後ろに仁王立ちする。

『青峰警部補』
「あ?なまえか。…ってえ、その格好…」
『いや、格好とかどうでも良いんで。青峰警部補、自分の始末書ぐらい自分でやりましょうよ』
「……良い」

私の話なんてどこ吹く風。青峰は読んでいた写真集を片手で持って、私に向かって拳の親指を立てた。その日に焼けた指をへし折ってやろうかとは考えたが、バシッと額を叩いてやっただけで勘弁してやった。感謝して欲しい。

『…黄瀬巡査、私も手伝いま、』
「なまえっちそのかっこ…!!」

青峰に対して盛大に溜め息を吐き、ソファに足を組んで再度腰を下ろすと、黄瀬が頬を朱くして私に詰め寄って来た。青峰といい黄瀬といい、何にそんなにも反応しているのか大変意味が分からない。
今の私の服装は、先程まで検視官の仕事、検視を行っていた為白衣を普通の服の上から着てはいるが、それ以外特に変なことはない筈だ。うっとりと私の方を見る残念なイケメンから少しずつ距離を取っていると、離れたところにあるソファに横たわる緑間警部の存在に気付いた。

『…黒子巡査部長、緑間警部は如何したんですか?』
「ああ、つい最近カタがついた殺人事件あったじゃないですか」
『…あれですか』
「ええ、あれで最近あまり睡眠を取っていなかったそうで、仮眠だそうです」
「……煩くて眠れるものも眠れないのだよ」

そう横たわりながら低く呟いた緑間が、ゆっくりとした動作で起き上がった。「起きたんですか、緑間くん」とそれを見てコメントした黒子に、「アイツ等がうるさ過ぎるのだよ」と返答した緑間が恨みがましく青峰と黄瀬を睨む。そんな緑間の視線から逃げる様に私の腰に抱き着いてくるお気楽金髪野郎。非常に暑苦しいことこの上ない。しかも、青峰の方は反省の色を微塵も感じさせずに引き続き堀北マイちゃんの水着姿を悠々と眺めている。
この個性派揃いの捜査一課のメンバー達を若いながらも見事にまとめあげている赤司警視は、騒いでいる彼等に気にした素振りの一つも見せず、先程から平然とパチンパチンと将棋の駒を将棋盤へと置いている。
ああちなみに、検視官である私の同僚の紫原検視官は、先程から大量のお菓子を美味しそうに頬張っている。先程あんな状態の遺体を見たにも関わらず、胃がおかしくなりそうな程の甘いものを口に出来る彼に、尊敬の念すら抱く。
同じく検視官であるさつきちゃんもこの捜査一課に来たがっていたが、検視結果を上に報告しないといけないとのことで泣く泣く断念した。“白衣の女神”と謳われる彼女は、黒子巡査部長に好意を抱いているらしい。

「なまえっち好きっスぅ…!」
『あーはいはい。ありがとうごさいます、黄瀬巡査』
「もーまたそうやって流して!本気なんスよ!?」
私もさつきちゃんと同じく“白衣の女神”と呼ばれているみたいで、毎日の様に冗談じゃなくて本気らしい黄瀬巡査に口説かれてはいるが…自分的にはさつきちゃんと同じ呼び名で呼ばれる資格がある程の魅力はないと思うのだが。
抱き着くだけでは飽きたらず、スリスリと頬づりしてくる黄瀬巡査の女性みたいなスベスベな肌に疎ましく思っていると、白衣のポケットに入れてあったケータイが震えた。私が「はい」と言って電話に出ても巡査は気にした様子もなく引き続き頬づりを続ける。ウザい。

『え…殺人?…はい、はい。…分かりました』

私の口から物騒な単語が出た為に、皆の視線が私へと集まる。電話の主はさつきちゃんで、どうやら既に事件現場に居るらしい。彼女が言うには、とあるビルの側で男性が遺体となって発見されたらしく、丁度捜査一課の部署に行った私に電話したらしい。
そのことを皆に伝えると、待ってましたという感じにすぐさま青峰が部屋から出て行き、その後に黒子、私から離れた黄瀬、寝不足の緑間がフラフラと出て行き、残った紫原に「私達も行くんですよ」と声を掛けやっとの思いで背中を押して、無理矢理部屋から出した。
『…赤司警視、お邪魔しました』
「ああ」

私の憧れであり、幼馴染みであり、検視官になったきっかけでもある赤司警視に頭を下げ、パチンと彼が駒を将棋盤に置く音を聴きながら、静かに扉を閉じた。






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