私が1番好きなのに! バレンタインデーの小話


料理をするのは嫌いじゃない。いろいろ調べて美味しい食べ物を自分で作るのは好きだし、作った食べ物を大好きな人が「うめぇ」と言いながら物凄い勢いで食べるのをみるのも好きだ。大盛りでよそったご飯が瞬く間になくなっていくのを見るのも、たくさん揚げた唐揚げがどんどん口に運ばれていくのを見るのも好きで、それを見るためなら料理を頑張ろう!もっともっと喜んでもらえるものを作ろう!美味しいものをたくさん作ってあげたい!って、そう思ってたけど…


「うまいじゃナァイ!」


荒北くんの手に握られている、私がとってもとっても心を込めて作ったチョコレートブラウニー。
あぁ…あのブラウニーはバレンタインデーの何日も前から改良に改良を重ねて1番美味しくできた特別なやつを渡したのに!あんな手づかみで食べるなんて!わざわざおしゃれなお店で紅茶の茶葉も買って来たし2人でゆっくり紅茶なんて飲みながら「これ、頑張って作ったんだよ」とかなんとかお喋りしてイチャイチャくっつきながら、フォークでお上品に食べて欲しかったのに…!
しかも!テーブルの上に散らばった包装紙やリボンやビニールや緩衝材。これだってわざわざ、百貨店まで行って可愛いやつを選んだのに!ちょっと高かったのに!しかも荒北くんにピッタリのチェレステカラーがなかなかなくて(この時期はピンクとか赤ばかりがお店に並ぶので仕方ない)何件もハシゴをして、やっと、やっと手に入れたラッピング用品をこんな…こんなに散らかしてビリビリ破くなんて…ひどい!あんまりだ!なんかもっとこう、ありがたみを感じて欲しい!せっかくのバレンタインなんだからこう…いい感じのムードとか欲しい!


「っ、荒北くん!」
「うめぇ。苗字、お前ほんと料理はうめぇのな」


ブラウニーを口いっぱいに頬張りながら、いつになくキラキラした目をする荒北くん。しかも荒北くんが私を褒めている。なかなか褒めてくれることなんてないのに。素直に!褒めてくれてる!


「うっ…えっ…そ、そんなに…?」
「うまい。おかわりねぇの?」


本当に、幸せそうな顔して食べながらそんなこと言われたら私の中にあった怒りはしゅるしゅると萎んでどこかへ飛んでいってしまった。代わりにむくむく、頭の中も心の中もハートでいっぱいになってしまう。さっきまでほっぺた膨らませて怒っていたくせに、ふにゃふにゃニヤけてしまう顔。あぁ、私って、ホントバカ。


「ラッピングしてないやつなら、ま、まだ冷蔵庫にあるけど…食べる?」
「食う」
「待ってて!すぐとってくる!」


紅茶を淹れる手を止めてダッシュで冷蔵庫へ向かう私はやっぱり、荒北くんが大好きで荒北くんに弱い。そして荒北くんはずるい。かっこいい。そんな荒北くんが大好きだ。
そんな美味しそうに食べてくれるなら、来年は何を作ろうかなぁなんて。
来年も変わらず私の隣にいてよね荒北くん。


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