私が1番好きなのに! 荒北とチア部の話


最初は、ふーん、まぁいいんじゃない?って思ったのが始まり。よく見ればまぁ、身長も高いしそこそこ筋肉もあるし運動も出来る。インターハイ出場選手ってこともあって学内では有名。いや、もしかしたら雑誌に載ることもしばしばあるので学内だけじゃなくて学外でも有名なのかもしれない。自転車競技については詳しくは知らないけれど。東堂くんや新開くんはちょっとハードルが高いし、それに敢えて人気者じゃなくて私だけが知ってるカッコいい人を彼氏に出来たらいいなっていう女の計算もある。だってしょうがないでしょ?どうせ付き合うなら周りからチヤホヤされたいし、可愛い私の隣に立つならそれなりの人がいい。


「靖友」
「ナニ?つーかその呼び方やめてくんネ?」
「今更じゃない?」


短い休み時間、彼女の目を盗んで靖友の席へと近づいて名前を呼んでみる。相変わらずつれない反応でつまんない。スマホいじるのやめて顔くらいこっちに向けろバーカ。

本当なら私が彼女になるはずだったのに、こんなことになるなんてダサすぎる。だから名前で呼ぶのはやめてあげない。別に彼女から何か言われたわけでもないし。あ、でもそう言えば靖友たちが付き合う前に彼女の目の前で名前を呼んでマウント取ったらあの子目をまん丸にして泣きそうな顔してたっけ。
顔もまん丸だし目もまん丸。スカート丈だって普通。顔も普通。強いて言うなら素直そうだし、友達も多そう。ほのぼのしてるというか、とにかく普通。多分、そこら辺に歩く男子にどっちが可愛い?って聞いたら10人が10人私を選んでくれると思うのに。靖友は趣味が悪い。


「ねぇ、遠距離するんでしょ?」


そう言えば、靖友がピクリと眉を顰めて反応した。やっとスマホから顔を上げてこっちを見つめてくる。細くて悪い目つきも、別に睨んでるわけじゃなくて靖友が生まれ持ったものだと知っているし怖くもなんともない。伊達に好きだったわけじゃないのだ。きっかけはなんにせよ、好きだった気持ちに嘘があるわけじゃない。そんなこと言っても靖友が信じるかどうかは分からないけど。


「…それがナニ?」
「続ける気なの?本気で?続くと思ってんの?」
「ハァ?」
「だって大学生だよ?サークル入ったら飲み会だってあるだろうし、バイトもするでしょ?出会いなんてたくさんあるし」
「…」
「会えない人より会える人の方が良いに決まってるし。仮に、会えなくて寂しい時につけ込まれたら、どっちが悪いとかないじゃん」


靖友の前の席を借りて足を組んで腰掛ける。


「いつまで続くかわかんないのに、続ける意味ってあるの?」


あの子と靖友が付き合ったのを知ってから、私はすっぱりと靖友のことを諦めたつもりだ。彼女持ちを好きでいるのなんて時間の無駄だし。選ばれなかったなんて思いたくもないし。別に、靖友の趣味が悪かっただけ。私は何も悪くない。多分靖友とあの子だって、タイミングが良かっただけだから。たかが高校生の恋愛で、そこまで熱くなったり、私は出来ない。もし、万が一靖友と付き合うことができてたとしても、遠距離になることが分かったら別れてたかもしれない。一緒にいれないなら意味がないし。人生で1番楽しそうな大学の4年間、離れ離れになるなんて耐えられない。それならもっと有意義に、理性的な恋愛をした方が効率的だし現実的。だって高校生で付き合った2人が生涯を共にする確率ってどのくらい?ほとんどの人たちが別れるでしょ。結婚までするカップルが何組いるんだろう。
運命とか、今が楽しいからとかそんな子供じみた恋愛はバカらしいし時間の無駄。そんなことも分からないなんて、あの子も靖友もバカなんじゃないの。


「別に意味なんて探してねぇヨ」
「は?」
「意味なんてねぇし、そんな深く考えてネェ」


そんなの、本気で意味分かんない。だけど靖友は真っ直ぐな目をしていて、本気でそう言ってるんだってことは分かる。
意味がないことをするなんて、意味が分からない。無駄じゃんそんなの。なんでそんなことに時間を使うの?もっと頭を使って恋愛しなさいよ。効率良く生きていけばいいのに。あの子のことをそこまでする相手って思ってるの?なんでそう信じてるの?根拠は?アテもないものを信じてるなんて、そんな馬鹿な話はない。


「いつか絶対後悔するよ」
「そんなの考えたこともねぇし」
「…なにそれ」
「いつまで続くか、なんて多分アイツも考えてないだろーな。バカだし」
「じゃあなんで別れないの?続くって思ってるの?」
「ウン」


靖友の口からすんなりと出てきた肯定の言葉。自分に対しても、あの子に対しても疑いなんて一つもない。本気で信じてる。あの子のことを。あの子が靖友を好きってことも、靖友自身がが今後離れてもあの子のこと好きでいるってことも。


「随分自信家なんだね」
「ハァ?そんなんじゃねーヨ」


会話に飽きたのか、靖友は視線をスマホへと落としてしまった。


「寂しがってようが泣いてようが、俺がアイツにいてほしいだけだからネ」


なにそれ。なにそれなにそれなにそれ!

私が好きだった荒北靖友がこんな人だったなんてガッカリ。もっとまともな人だと思ってた。私と同じ理性的で、現実的な人だと思ってたのに。
やっぱり、こんな人と付き合わなくて正解だわ。私にはそんな恋愛出来そうにない。不確かな人の気持ちを信じるとか、愛するとか。自分を忘れるほどに人を好きになるとか。そういうの向いてないし。信じてもない。私はもう少しまともな恋愛をするわ。あんたより素敵な人を見つけて、堅実な恋をする。


「ま、せいぜい頑張れば?」


席を立って靖友に背中を向け教室を出た。

別に羨ましい訳じゃないから。私は私をあんたたちはあんたたちで、いつか同窓会で会った時にでもバカにしてやるわ。ほら、時間の無駄だったでしょってね。








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