甘い匂いの邪魔しないでね



真波に借りたカーディガンはありがたいことにあったかいもののクラスに戻ったらなんだか色んな人の注目を浴びてしまった。そりゃそうか。サイズ合ってないもんねこれ。よいしょと少し腕まくりをしないと指先すら出てこない。
真波ってやっぱりおっきいんだなぁ。こういう時だけなんか男の子って感じがするから不思議。そういえば意外と背も高いし、実は脚とかも筋肉ムキムキ。そりゃ毎日毎日あんな激坂登ってるんだからそうなるだろうけど。顔と合わないよなんて言ったら流石に怒るかな。怒らなそう。へらへら笑って「なんですかそれー」っていうのが想像できる。可愛いなやっぱり。好きだちくしょう。こんな不毛な恋をするなんて、不覚。


「うぉ!椎名、何だそれ!」
「お、彼シャツってやつか?やるね」


動きづらいのでカーディガンを腕まくりしながら部室へと小走りしていれば、廊下の角から現れた荒北さんと新開さんに出会した。
お疲れ様ですとお辞儀をしてから、2人とも私と同じく部活へ向かう途中だったのか自然と並んで歩き出す。この2人に並ぶのはちょっとおこがましくて私はさりげなく一歩だけ後ろに下がることにした。チラリと荒北さんが私を見たけど、特に何も言われることはない。


「で、おめさんそれどうしたんだ?」
「…?あ、これですか?」


多分新開さんが聞いてるのは今私が着てるこのカーディガンのことだろう。明らかにサイズ合ってないし、そう言えば彼シャツなんて言ってたなさっき。シャツじゃないけどねこれ。カーディガンです。


「借りものですよー」
「デカすぎんだろ!男カヨ!」


いちゃついてんじゃねーヨ!と言って大声出す荒北さんにはもう何となく慣れたので声量と乱暴な口調にいちいち驚くことはしない。この人はこういう人なんだと思えるようになった私は1年前に比べたらちょっとは成長したのかも。
入部した当初はすっごい怖かったもんな荒北さん。口悪いし他人にも厳しいし、鬼だとおもってたらまさかの隣の優しそうな新開さんが鬼だった。普段はとってもおっとりしてるイケメンなのに、走ってる時は怖いなんてギャップすぎる。いいギャップなのか悪いギャップなのか分からないけど。


「男っていうと生々しいですね」
「うわ、椎名すんげー不思議チャンの匂いするわ」
「荒北さんって犬みたいですね」
「ヒュウ!真波か!」
「今日貸してくれたんです。寒かったんで助かりました」


あーそうかヨなんて興味なさそうに言う荒北さんと、パワーバーを食べながらニコニコ笑う新開さん。
そういえば荒北さんだっけ、私のこと真波係って影で呼んでるの。


「荒北さん、私別に真波係じゃないですよ」
「あぁ?合ってんだろーが。真波関係はオメーに任せときゃいーんだヨ」
「私言うほど真波のこと知らないですよー」
「オメーが知らなくても真波が知ってんの。それに、真波いねーなって思った時は椎名探せば大抵周りにアイツもいんだヨ」


そんなことないと思うけどなぁ。だいたい真波係なら先輩で面倒見てる東堂さんの方がふさわしい気がする。なんやかんやで東堂さんも真波のこと気にかけてるというか可愛がってるのは私が見てても分かるし。まぁ東堂さん曰くビジュアルも被ってるらしいし。確かに2人とも女子ファンがすごい。


「あ!良いこと考えた」


急に前を歩いていた新開さんが立ち止まってこちらを振り返ってくる。手に握られていたパワーバーはもうゴミだけになってしまったようで、マネージャーの習性でサッと手を出せば「お、ありがとさん」とゴミを渡された。いや、手を出したのは確かに私だけどね。そんな普通に渡されるのはなんか微妙です。


「椎名、脱いで」
「は?」
「あ、悪い言葉間違えた。カーディガン脱いでくれよ。オレのと交換しようぜ」
「嫌ですよ」


なんで私が新開さんのカーディガンを着なきゃいけないの。
新開さんだって東堂さんに負けず劣らずの女子ファンがいるのを知っている。しかも実は東堂さんよりタチが悪い。新開さんのファンはほとんどの女の子がガチなんだから。しかもなぜかギャルっぽい子が多くて怖いし。無理でーす。私は平穏な学園生活が送りたい。
断ったのに新開さんは聞く耳持たず。自分はカーディガンを脱いでんっと差し出してくる。えーこの人全然話聞かないじゃん。


「てめ、新開余計なことすんな!めんどくせェ!」
「いや靖友、珍しいもんが見れるかもしれないぞ」
「うっぜっ!興味ねーヨ!ぜってぇめんどくせーことになるからやめとけ!」


私のことなんかお構いなしに話を進めていく2人にどうするべきか分からず何のリアクションも出来ないまま立ち尽くす私。流石に先輩だし、レギュラーだし、この場で無視して置いてくこともできないなぁなんて思ってる私はやっぱり真面目ちゃんなのかも。
あーもうすぐそこが部室なのになかなか辿り着くことができない。
早く部活行きたいな。今日は記録係を任されてるから、外周から帰ってくるみんなを見れるので楽しみにしてたのに。それに今日の外周組には真波もいる。きっとまた楽しそうにニコニコ笑って自転車に乗って行っちゃうんだ。物凄いスピードで。だけど帰ってきた時には1番に私のところに来てくれて、「オレ速かった?」って聞いてくれるのが可愛い。まぁ1番に私のところに来る理由は私が記録係だからなんだけど。

会いたいなぁ真波に。


「夢乃さん?」


頭の中で再生していたのと、おんなじ声がする。
振り返れば、きょとんと不思議そうにこっちを見つめる真波が立っていた。もうジャージに着替えてるってことは、今日はちゃんと急いで部活に来てくれたみたい。


「真波、もう準備できてるね。偉い」
「うん。だって今日夢乃さんが待っててくれるんでしょ?」
「わぁ!嬉しいな」


真波が私が待ってるから、って言ってくれた。
なんて可愛いこと。こんなに懐いてくれる後輩今後真波以外には絶対現れないと思う。
私とは違うけど、きっと真波も私のこと好きでいてくれてるんだろうなって思うととっても嬉しい。まぁ真波の場合ほとんどの人のことが好きだと思うけど。


「ヒュウ…やるな、真波」
「うっぜ!椎名!オメー今日から真波ホイホイって呼んでやんヨ!」
「え!ちょっとなんですかそれ!嫌です!」
「アハハ、それはちょっとオレも嫌ですよー」


私と真波を置いてズカズカ歩いて行ってしまう荒北さんの後を慌てて追いかける。もともとはこの人のせいで私も足止め食ってたのに!置いてくなんてひどい!


「夢乃さーん!待ってるから早く来てねー!」


ブンブン手を振る真波が可愛すぎてもう私は死ぬんじゃないかと思う。いつか真波に殺されるかもってくらいには真波のことが好きだ。
後ろ髪引かれるように、私も手を振り返せば真波の後ろに忍び寄る影。


「先輩には敬語を使わんか馬鹿者!」
「わぁ!東堂さん!静かに近づくのやめてくださいよー」


確かに、真波って私にタメ口。だけどそれも可愛いし特別感あるからオールOK!






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