今までもこれからもね


ぷにぷに頬っぺたを突けば、くるりとこっちを見つめてくる丸くて大きな瞳。太陽の光が入り込んだ瞳は、反射してキラキラ眩しくなる。宇宙を詰め込んだよう…って表現はもう何度もしたことがあるから他に表すとすれば綺麗で澄んだ海の色みたい。光が反射してキラキラした海の色。瞳の中を色んな魚が泳いでいるみたいに、ふわふわしていて綺麗な瞳。

真波のそんな瞳が好き。だから見つめられるとこっちもジッと見つめ返してしまう。


「…夢乃さん、なんか慣れた?」
「んー?何が?」
「前はオレが見てたら恥ずかしい!って騒いでたのに」
「ふふ、そんな時もありましたね」
「…可愛いけど、なんかちょっと寂しいかも」


机に頬杖ついて、至近距離で見つめ合っている真波と私。背後から誰かにトンっと押されれば唇は最も簡単に触れてしまうだろうなってくらいの距離。
確かに、前までの私だったらきっとこんな距離で真波と見つめ合うのは耐えられなかっただろう。可愛い顔を見つめるのは好きだけど、同時に可愛い顔に見つめられるのは恥ずかしい。それが好きな人だったら余計に。

だって、真波は外で自転車乗り回してるくせに肌がふわふわなんだもん。この距離で見つめたって毛穴も見当たらないし…真波って髭とか生えないのかな?全然想像できない。日焼けだってあまりしてないから色も白い。私も真波と同じように外でマネージャー業を頑張っている。真波と同じように日焼け止めもしっかり塗っているし、真波よりも丁寧に時間をかけてスキンケアだってしているのに、どうしたこんなに違うんだろう。そう言うこと考えると、真波に見つめられるのは確かに恥ずかしい。見てもらいたくないものがたくさんある。好きな人には、綺麗なところだけ見て欲しい。真波が私のことを見て、「うわ」って思ったらどうしよう。そう思ったら恥ずかしい。

そしてそもそも好きな人の顔が近くにあったら、色んなことを想像してしまうのも恥ずかしい。
真波の手が私の頬に触れたらどうしよう。真波の顔が近づいてきたらどうしよう。
そういうことを考えると、恥ずかしくなる。顔に熱が集まって、自分がどんな顔をしているのか分からなくて、そんな顔を見られるのも恥ずかしい。
付き合う前とか、付き合ってすぐの頃はそんなことを考えていたから真波に近づくとドキドキが止まらなかった。ドキドキして、そのドキドキが真波に聞こえてしまうんじゃないかって思うのも恥ずかしくて、真波になるべく近づかないようにしていたのが懐かしい。


「昔はね、恥ずかしかったよ」
「えー昔ってことは、今は恥ずかしくないってこと?」
「恥ずかしくないっていうか…」


恥ずかしくない、わけじゃない。今だって恥ずかしいよ。
恥ずかしいけど、それよりも真波の近くにいたいっていう気持ちのほうが大きい。誰よりも真波の近くにいたいから、この距離にいるのが嬉しい。この距離感が許されている女の子が私だけなのが嬉しい。


「嬉しいんだよ。真波と一緒にいるのが」
「えっ」
「ふふ、真波のことが好きだから、恥ずかしくてもいいんです」
「…夢乃さん、ずるくない?」
「いつもの仕返しでーす」
「オレより夢乃さんの方が可愛い…」
「いや。それはない」
「あはは、即答だ」


当たり前じゃん。真波よりも私の方が可愛いなんて絶対にあり得ない。真波の可愛さは世界一だもん。何したって可愛いんだからずるい。
多分私、真波がどんなに悪いことしてもニコリと笑って「夢乃さん」って名前を呼んでくれたら許しちゃうんだろうなぁって思う。浮気とかは嫌だけど…嫌だけど、けど多分許しちゃうんだろうなぁ。しょうがないなぁって思ってしまう。だってこんなに可愛いんだもん。こんなに可愛い真波が私の目を見て、私の名前を呼んでくれたらもうどうでもいいって思っちゃうんだよなぁ。こんなこと、ユキに言ったら「目を覚ませこの脳内お花畑ちゃんが!」って頭を思いっきり叩かれそうだけど。

真波の手が伸びてきて、私の頬に触れてくれたらいいのになって思う。真波の手が頬に触れた時の熱が私にうつってくる瞬間、真波の目を見つめるといつもとは少し違った目になる。ぱちりと一度瞬きをしたら、真波の目をが変わるのが分かる。まんまるのキラキラした瞳が、ちょぅとだけ細くなって、ギラギラとしたものに変わる。
どっちの真波も好き。可愛いだけじゃなくて、かっこいい男の子の顔した真波のことも好き。
好きになる前は真波がそんな顔をするなんて知らなかったけど、知ったらもっともっと好きになってしまった。あれだ。セクシーなのキュートなのどっちが好きなの?ってやつ。結論どっちも好き。どっちも別の良さがあってたまらないんですよ。


「夢乃さんって、本当にオレのこと好きだよね」
「ふふ、うん」
「嬉しいんだ。夢乃さんがオレのこと好きって言ってくれるの」
「そうなの?」
「うん。オレも夢乃さんのこと好き」


目の前の椅子から立ち上がったかと思えば、真波は私の隣へと椅子を持ってきてそこに腰をかけた。そのまま、真波が両手を広げてこてんと可愛らしく首を傾げてこっちを見つめてくる。言葉にはしていなくても、どうして欲しいのか分かってしまって、私は吸い寄せられるように真波の腕の中へと歩みを進めた。座っている真波と、立っている私。私の胸元に顔を埋めるようにしてぎゅっと抱きついてくる真波が可愛い。甘えられると嬉しい。

別に私、年下が好きとかそんなことないんだよ。どちらかといえば引っ張ってくれそうな人が好みだし。私もいい子じゃないから、どんなわがまま言っても許してくれそうな大人な人に憧れもある。部活がない日にはデートだってしてみたいし、おしゃれなカフェでクリームソーダとか飲みたい。手を繋いで歩いて帰りたい。

そういう普通の女の子みたいな願望も憧れもあるけど、そういうの全部吹っ飛ばすくらいには真波と過ごす毎日の方が楽しい。
毎日毎日部活ばっかりで、真波のことを送り出してばかり。「出かけよう」って誘われたかと思えば自転車で山に登ろうと言われて、可愛くないジーンズを履いて汗だくになって山に登ることになっても。
私は真波のキラキラした笑顔を見たら、真波のこと好きだなぁ。好きになってよかったなぁ。これからも真波のこと好きでいたいなぁ。って思っちゃうんだもん。

そんなことを考えながら、真波のふわふわした髪の毛を撫でる。気持ちよさそうに目を細めて、もっともっとと擦り寄ってくる真波は猫みたい。


「ねぇ真波。にゃーんって言ってみて」
「え、なんで?」
「なんでも」
「にゃーん?」


こちらを上目遣いで見上げながら不思議そうに首を傾げて猫の鳴き声を真似する真波の可愛さたるや。めちゃくちゃに最高に可愛い。心臓ズキュンと撃ち抜かれて胸が苦しい。真波可愛い。真波好き。とにかく可愛い世界一可愛い。語彙力の欠如。頭の中で真波可愛いって弾幕が右から左へと流れていく。


「私、真波と付き合ってからアホになったかもしれない」
「オレ、アホになった夢乃さんのこともだぁいすきー」


またまた可愛いこと言って、ふにゃりと笑って唇にちゅっと可愛らしいキスを落としてくる真波。
そんなこと言われたら、まぁアホになった私のままでもいいかなぁと思ってしまう。


真波で頭がいっぱいだけど、そんな私のことも好きでいてね。




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