君のおかげで毎日楽しいね


休み時間、書ききれなかったさっきまでの授業の板書をのそのそとノートに書き写していればガンッと後ろから椅子を蹴られて書いていたアルファベットがぐにゃりと歪んでしまった。
誰だよ全く。ひどい奴めと思いながら振り返ればそこにいたのやっぱりと言うか、当たり前にユキだった。そりゃそうだ。私の後ろの席はユキの席だし。


「痛いんですけど」
「お前んとこ今日の部活の連絡きたか?」


こっちの訴えなんて聞きもせずに自分の聞きたいことだけバッサリと聞いてくるユキは性格悪すぎると思う。スポーツ万能だからって偉そうだ。コイツはいっつも私を見下すように見てくるし優しさのかけらもない。真波の可愛いふわふわした空気を分けてもらったらいいのに、なんて思ったけどふわふわしたユキなんて気持ち悪いか。
そんなこと考えつつスカートのポケットに入れていたスマホを確認したけど、特に先輩からの連絡は来ていなかったので首を横に振ればなぜかチッと舌打ちをされた。コイツほんと腹立つな。


「まだ3時間目だし。連絡来ないでしょ」
「早く知りてぇんだよ。それによってオレの昼飯が変わる」
「そうなの?」
「そりゃそうだろ。テンションがちげーんだよ」


なるほど、身勝手な奴だなんて口には出してなかったはずなのに何かを察したのかまた椅子をガンッと蹴ってくるユキは本当に嫌。心の中で今日一日ユキのことはクソエリートチャンと呼ぶことにする。
クソエリートチャンは暇なのか席についたままだ。普段休み時間はクラスメイトに囲まれて話してることが多いのに珍しい。チャリ部以外にも友達がたくさんいる人気者のくせに。


「なぁ、お前さ」
「なに。私まだ全然ノート取り終わってないんだけど」
「真波と付き合ってんの?」


シャーペンを動かす手がピタリ止まる。

付き合ってる?真波が?私と?

一体全体何でそんなことになっているのか気になって振り返ってみれば、クソエリートチャンはなんてことない顔してじっとこっちを見つめている。


「…なんで?」
「なんでって…あんだけ一緒にいりゃそう思うだろ」


そんなふうに思われるほど私って真波と一緒にいたっけ?
我ながらそこそこ仲が良いとは思う。それに真波も割と私のことを慕ってくれているし、私を見つけると「夢乃さーん!」って言いながら走って来てくれるのがすごい可愛い。私の目の前に来るとニコニコ笑ってくれるから、ちょっと背伸びして頭を撫でれば恥ずかしそうにしつつもどこか嬉しそうに「えへへ」って笑ってくれるからこっちも嬉しくなって笑ってしまう。
真波の周りはふわふわしててあったかくて幸せなオーラが溢れてるから、あの子本当に天使なんじゃないの?なんて思ってしまうくらいだ。目の保養だしとにかく顔がいい。後輩力が高くて甘え上手なんだよなぁ。されるがままに甘やかしたくなってしまうから困っちゃう。


「私そんなに真波といる?」
「自覚なしかよ。荒北さんたちお前のこと真波係って呼んでんぞ」
「なにそれ可愛い」
「…女子の可愛いってわかんねー」


で?付き合ってんの?と続けてくるクソエリートチャンに首を横に振って否定すればビックリした顔をした。何だその顔。


「は!?付き合ってねーの!?」
「真波が私なんか相手にするわけないでしょ」
「はぁ?」
「私が勝手に真波を好きなだけなの」


そう言えばさらに目をまん丸にしたクソエリートチャン。こっちが見えてんのか見えてないのか分からないからヒラヒラと手を振ってみればその手をバシンとはたき落とされる。
あーもうノートはあとで写させて貰えばいっか。確かコイツは勉強もちゃっかり出来たはずだから責任は取ってもらおう。諦めてノートは机の中にしまうことにした。次の授業は日本史か。眠くなりそうだなぁ。ちょっと憂鬱。


「意味わかんねーお前ら」
「ユキに分かってもらえなくて結構でーす」
「可愛げもねぇ」
「ユキに可愛くしてもね」


呆れたようにわざとらしくため息をついたユキを見ていれば、どこからか真波の声が聞こえるような気がして来た。可愛らしい声で、いつも私を呼んでくれるんだ。「夢乃さーん」って。あれ、そう言えば真波はいつから私のこと名前で呼んでるんだっけ…そういうとこも付き合ってるように見える原因なのだろうか。ちょっと嬉しいかも。
そんな小さな優越感で幸せな気持ちになれちゃうんだから真波ってやっぱりすごい。


「…呼んでんぞ」
「え?」
「ほら、外」


ユキが指さしたのは窓の外。開いた窓からは風が入り込んでいてカーテンがゆらゆら揺れている。そんな中、窓からひょっこり顔を出して校庭を見てみればそこには真波がいた。
あらま。さっき聞こえたのは幻聴なんかじゃなかったらしい。

こっちを見上げて、ぶんぶん大きく手を振る真波はやっぱり可愛い。体操着きてる。レアな姿見ちゃったな。得した気分になってひらひらと小さく手を振ればそれに気づいたのか、今度はぴょんぴょん飛び跳ねてさらに大きく手を振ってくれる。なにあれ、可愛い。


「夢乃さーん!」
「真波、体育がんばれー」
「うん!がんばるね!」


クラスメイトに背中を押されながら校庭の中心へと向かう真波は最後までこっちを見て手を振ってくれていたから、私も手を振り返す。
うん、やっぱり可愛いなぁ。好きだなぁ。相変わらずちょろいな私。
なんて幸せに浸っていたら、後ろからユキの「青春か!」なんてシンプルなツッコミが聞こえてきた。


「まぁとにかく、可愛い後輩ですよ。真波は」
「あっそ」


そんな興味ないなら聞いてこないでよって文句を言えばノート貸さないぞなんて意地悪言うんだから、やっぱり私は今日一日あんたをクソエリートチャンって呼ぶことにするよユキ。


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