ぼくのひみつをきみにあげるよ


放課後、教室むかえにきてください


昨日の夜、珍しく真波からきたLINE。連絡先は交換したものの私から送ることもほとんどないし、真波から連絡が来ることもほとんどないので貴重なメッセージだ。
私も真波も、付き合ったからといって何かが大きく変わることはなかった。だから連絡を毎日取るなんてこともない。そもそも部活で毎日顔を合わせているし、わざわざ家で真波に何か連絡したいなって思うこともない。どうせまた明日会えることが分かっているし、私はメッセージよりも実際に真波に会って、キラキラ輝く笑顔を見ながらお喋りする方がずっと好きだ。大きな青い瞳に私が映るのが好き。だから私は嬉しいことも、悲しいことも全部直接真波に伝えたいなぁって思う。
まぁ、真波がメッセージをしてこないのは多分別の理由だと思うけど。面倒くさいとか、スマホを持ち歩かないとか、そんなとこだろう。別にそれに対して文句とかはない。それが真波だって分かってるし。
そんな真波から送られてきたメッセージ。一方的だし、この後私が断るなんて微塵も思ってないんだろうね。断るメッセージを送ったところで真波はそのメッセージを見ないし明日の放課後はずっと教室で私を待っているんだろう。自分勝手だなぁと思うけど、そんな真波に慣れてしまい、そんなところも可愛いなんて思ってしまう私はやっぱり真波に甘い。


「呼び出しといて…寝てるってどういうことなの」


次の日、呼び出しに応じて真波の教室へと向かった。1つ学年が違うので階段を登る。同じ学校内なのに学年が違うと不思議と空気も変わるせいでなぜか緊張してしまい、廊下を歩く速度が思わず速くなってしまう。真波の教室を目指して早歩き。ドキドキする心臓を押さえてやっと辿り着いた教室を覗き込めば、夕焼けのオレンジが差し込む光の中、机に突っ伏している青い頭。


「…可愛い顔」


むにゃむにゃ言いながら夢の世界へと旅立っている真波。
はぁっとため息をついて、真波の隣の席へと腰を下ろして、じっと寝顔を観察してみる。
長い睫毛に、女の子みたいなつやつやの頬っぺた。思わず指で突けば弾力もあって羨ましい限りだ。すっぴんでこんなに可愛いなんて、ズルすぎやしないか。きっと手入れなんて何もしてないんだろうなぁ。こっちはお風呂あがりに化粧水をつけて乳液をつけて、パックまでしてこの肌をキープしているというのに。女の敵だぞ真波。


「まーなーみー。起きてー」


ほっぺたを摘んでびろーんと引っ張ってみたけど、真波は少し顔を顰めただけでまだすやすやと眠りの中にいる。
ふと思う。いつもこの席に座ってるのは、女の子なのかなぁ?それとも男の子だろうか。女の子だったら、ちょっと嫌かもしれない。どうせ真波って授業中も寝てるだろうし、この席の女の子はいつもこんな可愛い真波を見てるのかもしれない。こんな可愛い真波をこんな間近で見てるなんて、この女の子は絶対真波のことが好きになっちゃってるだろうな。


「…いいなぁ」
「なにが?」
「へ、うわ!」


思わずこぼれてしまった言葉に返事が返ってきてビクッと体が揺れる。ぱっちりと目を見開いた真波と目があったと思ったら、ガタリと座っていた椅子のバランスが崩れた。まるでスローモーションみたいに体が後ろに引っ張られる。あ、ひっくり返るかも。


「危ないよ夢乃さん」


グッと手首を引っ張られて、なんとも言えないバランスで椅子の動きが止まった。「よいしょ」と言って真波が優しく私を引っ張って、椅子が元の位置に戻る。セ、セーフ。


「…ありがと」
「いーえ。あー、よく寝た」
「もう、人呼んでおいて寝てるって何よ」
「えへへ。ごめんなさい」


それはそれは可愛い顔をして、コテンと首を傾げて上目遣いで謝ってくる真波はあざとい。
例えば教科書を忘れた時とか、この席の女の子にその顔を見せてるんだろうか。同じような顔して、同じような甘い声でその子の名前を呼ぶ真波を想像すると頭がくらくらする。
前は、こんなことなかったのになぁ。真波はみんなのものだって割り切ってたし。今だって真波は私のモノではないんだから。どこで何してようと私がどうこう言えるわけがない。うーん、まさか自分がこんなめんどくさい彼女になるなんて思ってなかった。もっと余裕があって、真波を受け入れられると思っていたのに。


「夢乃さん」
「んー?」
「オレさ、夢乃さんと同じクラスの黒田さんが羨ましいな」
「…は?」


そう言って席を立った真波は私の後ろの席に座る。振り返って向かい合わせになろうとしたけど、真波がスッと前を指をさしたので仕方なく前を向いた。私たち2人しか教室にいないのに、どうして前後で座らなくちゃいけないんだろう。訳が分からなくて、右手で頬杖をつき窓の向こうの夕陽を見つめていたら、そっと背中に何かかが触れる。
背骨をなぞるように、上から下へ。何とも言えない力加減でするすると滑るように移動する真波の指に、ピクリと肩が跳ねた。


「っ、まなみ、」
「いいなぁ黒田さん。授業中ずっと夢乃さんのこと見てられるじゃん」
「真波は、どうせ寝てるだけでしょ?」
「夢乃さんが前の席だったら寝ないもん」


嘘ばっかり。絶対寝るに決まってる。
文句を言おうと、今度こそ振り返ればなぜか視界いっぱいに真波の顔がある。
近い。あっ、と思った時にはもう遅い。大きな手が私の後頭部に伸びてきて引き寄せられれば、ぱっくり空いた真波の口がそのまま食べるかのように私の口を覆ってしまう。


「ん、!」
「…ん」
「む…ちょ、真波!」
「あはは、流石にこれやったらセンセーに怒られますね」
「当たり前でしょ!」
「じゃあやっぱり近い席じゃない方がいいかも。オレ、夢乃さんと目が合うとすぐチューしたくなっちゃうし」
「…そうかもね」


キスをするときの、真波の優しい顔が好きだ。普段のへらへらしてる顔とは違う、柔らかくて目を細めて笑うあの顔が、見れるのは私だけがいい。隣の席の女の子は絶対に見ることができない、私だけの秘密の真波。






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