ひとりじめさせてくださいな


恥ずかしいなんて気持ちも忘れるくらい、何度も何度もキスを繰り返していると頭の中がふわっとして何も考えられなくなる。
なんとなく、少しだけ目を開ければパチリと真波の青くて大きな瞳と目が合ってしまった。まさか真波も目を開けてるなんて思わなくてビックリして、さっきまで忘れていたはずの恥ずかしい気持ちが押し寄せてくる。あまりの恥ずかしさに、真波の肩に置いていた手に力を込めて距離を取ろうとしたものの真波の左手はスルリと私の腰をなぞるようにして触れてくるのがくすぐったいし、なんだかそこから感じる真波の温度が私の身体に移ってくるような不思議な感覚で触れられた部分が熱い。右手は私の左手を捕まえるとギュッと指を指を絡めるよう繋がれてしまった。そうして、ペロリと唇を舐められれば驚いて思わず口を開けてしまいその舌の侵入を許してしまった。


「ふ、んぁ…」
「はぁ…可愛いなぁ、夢乃さん」


そんなこと言われても今はそれどころじゃない。自分のじゃないみたいな甘ったるい声にも、熱のこもった真波の息も、全部が私の身体を熱くさせてくる。こんなの、知らない。
初めての感覚にどうしたらいいかわからなくて、されるがままの私とぐいぐいと距離を詰めてくる真波。ぬるりとあったかい真波の舌が歯列をなぞり、私が引っ込めていた舌を引っ張り出すようにして絡め取られてしまう。
静かな、2人しかいない保健室で聞こえるピチャリという水音も相まって、完全に私はキャパオーバーだ。身体中の力がふにゃりと抜け切ってしまったタイミングで、真波がそっと唇を離した。うっすら目を開けば2人の間を繋ぐように銀の糸があって、あまりの恥ずかしさにそのまま目の前の真波に抱きついた。こっちの方が恥ずかしいなんて気づく余裕もない。


「わぁ、夢乃さんってば大胆」


こっちは息も絶え絶えで、頭の中はふわふわして真波でいっぱいだっていうのに。抱き着いてしまったせいで顔こそ見えないけど真波の声はいつもと変わらないのが悔しい。大きな手がぽんぽんと、まるでなだめるかのように私の背中を優しく叩く。

あぁ、もう訳がわからない。いろいろ、すっ飛ばしすぎなんですけど。
可愛い可愛い真波なんて、どこにもいないじゃないか。
まぁそんな恨言を言ったところで、目の前のこの男はヘラヘラ笑うだけだろうって、そう思ってたのに。


「…何その顔」
「ちょっ、見ないでよ!」


そっと真波の腕の中から抜け出して顔を上げてみれば、見たことないくらいに顔を真っ赤にして余裕のない顔をした真波がいた。珍しいその顔をもっとじっと見つめたかったのに、大きな手が私の顔を覆ってしまった。

なんかもう、やっぱりずるいなぁ真波。さっきまでは真波のことを男の子って痛いくらいに思い知ったというのに、今度はそんな可愛い顔をするなんて。


「可愛い、真波」
「やめて」
「やだ」
「夢乃さん、だぁめ」
「なにそれ、可愛い」
「…あーもう、急に何?」
「もう我慢しなくていいんだって思ったら、なんかラクになっちゃった」
「…それはオレが困るなぁ」
「なにが?」
「オレ、夢乃さんがのオレこと好きなのに必死に我慢してる顔とか結構好きだったんだもん」


そんなストレートに物を言われるとこっちが困ってしまう。私が思ってた以上に私たちってお互い様なんじゃないだろうか。私も大概だとは思うけど、真波だってそれっぽいこと匂わせてたくせに肝心なことは口にしなかったじゃない。
まぁ私は真波のどんな行動だって私だけに向けられたものじゃないって、勝手にそう思い込むようにしていたせいもあるけれど。今までの真波のそれっぽい行動が全部私だけに向けられた感情からの行動だったとしたら、私はなんて勿体無いことをしてしまったんだろう。素直に、受け取っておけばよかったってただそれだけだったのに。
馬鹿だなぁ、ほんと。ユキが呆れるはずだ。今まで散々、真波が私を好きになるはずがないだとか、付き合ってる訳ないとかそんか私の小さな抵抗を受け止め続けてくれたユキにはキチンと報告しなければならないかもしれないなぁ、なんて、考えたところでふと気づく。

そう言えば、真波の口からは肝心なことを何も聞いてないような。

だけど今更そんなのを言うのも恥ずかしい。それに、言葉にしなきゃ伝わらないよなんて、そんなドラマみたいなセリフを自分が言うのはちょっとどうなんだろうか。
もう、今のこの状況だけで十分じゃないと自分に言い聞かせる。これだけでいい。言葉なんかなくたって、今私の目の前には真波がいる。ちゃんとこの人は私を見てくれるって分かったんだから、これ以上のことを望むのはやめようって、そう思ったのに。


「好きだよ」


ベットに落ちていた私の手に、また指と指を絡めるようにして握り締めた真波は今まで見た中で1番に可愛い顔をして、私が欲しい言葉をくれる。


「夢乃さんのこと、好き」


今、そうやって私の心の中を覗くのは卑怯だ。どうして真波には私の気持ちが全部丸見えなんだろう。この人はいつだって、私が望んだ言葉をくれる。私が真波に甘いってみんな言うけれどそんなことはない。真波の方が、私に甘いんだよ。
そんなの私だけが知っていればいいから、誰にも教えてあげないけどね。


「もう一回ちゅーしていい?」
「…早く部活に戻りなさい。私も戻るから」
「ちゅーしてからにしようよ」
「だめ!」
「なんで?嫌だった?」
「嫌じゃない、けど…」
「けど?」
「その…わけわかんなくなっちゃうから、だめ」


ちょっと、こんなこと言ってる自分が恥ずかしいんだけど。もう本当に勘弁してほしい。
ただでさえファーストキスだっていうのにあんなことされて、いや、そりゃ嫌ではなかったけど。それどころじゃなくなっちゃうというか、まだ準備できてないというか。真波からの告白も信じられないっていうのにそんな、もう一回なんて耐えられない。もう少し甘い告白の余韻に浸らせてほしいと願いを込めてチラリと見上げてみれば、ギラギラした瞳がこっちを見つめていた。

あ、やばい。


「夢乃さん、可愛い。大好き。好き」
「まな、んむぅ」


真波が人の話聞かないのは、好きな子相手でも変わらないんだなぁなんてどうでもいいこと考えながら諦めて目を閉じた。




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