あざといってどっちの話


男の子なのに大きくてぱっちりした瞳は青くてキラキラ澄んでいる。
まさに可愛い可愛い年下の男の子って感じで甘え上手な真波はいわゆる不思議チャンってやつで、たまーに何を言ってるかわからないことがある。かと思えば急に真剣な顔したりするんだからそのギャップにきゅんきゅんしちゃって恋をする女の子は数知れず。誰彼構わず愛想を振り撒くのはどうやら東堂さんの教えらしい。「お前は顔がいいからニコニコ笑っていればいい」と言われて、その言いつけをきっちり守っている真波本人も女の子は嫌いじゃなく、むしろ好きだと言っていた。これは確信犯だ。
そして東堂さんは真波のことをよく分かっている。ふわふわ、周りにお花が飛んでそうな男の子がにこにこ笑って手を振ればそりゃあ女の子もイチコロですよ。
男の子っていったって、真波は私の一個下だからもう結構な歳のはずなんだけどな。まだまだ男の人ではなくて男の子って感じだ。なんなら6歳くらいに見える時もあるって言ったら流石に怒るだろうか。怒らなそう。


「夢乃さーん?なぁに?」
「ん?真波って可愛いなぁって」
「なぁにそれ。オレ男だよー」


そう言ってへらへら笑う真波はやっぱり可愛い。というかあざとい。
私の隣を歩く真波は両手で愛車を押しながらこてんと首を傾げてじーっとこっちを見つめてくる。ギュンっと心臓が苦しくなる感覚がして、あー無理、好き!ってなってしまうんだから私も大概ちょろい。
でもまぁ好きってなったところで真波にはこの気持ちが微塵も通じないんだから困ったものである。私がどんなにきゅんきゅんしたところで真波がそれに気づくことはないし、そんな私を意識することもない。
私たちはただの先輩と後輩。マネージャーと選手でしかない。それはきっとこれからもずっと変わらないんだろう。だって相手は真波だし。


「それより、真波今日室内練じゃないの?なんでチャリ押してるの」
「いやー、室内って好きじゃなくて…」
「東堂さんに言いつけるよー」
「夢乃さんなら言わないって知ってるもん」


思わず持っていた洗濯物かごを落としそうになってしまう。
え、だって可愛い。何でそんなこと言うの可愛い。アホかもしれないけど真波に信頼されてるのかなぁなんて思ってしまうんだから私も大概こいつに甘い。たとえこれが真波の策略だったとしても、真波にならハマってもいいかなぁなんて思ってしまうくらいには私はこいつに惚れていれる。


「ね、夢乃さんは今日は洗濯係なの?」
「そうだよ。溜まった洗濯物たくさんあるならね」
「ふーん…なら余計つまんないなぁ」
「そう?私は好きだよ洗濯」
「えー?大変じゃない?」
「大変だけど…洗濯物干してれば室内練習場が見えるでしょ?」


そう。洗濯物を干す場所からは室内練習場がよく見える。
選手のみんなは外で走った方が楽しいかもしれないけど、マネージャーの私は室内の方がみんなが一生懸命頑張ってる姿がよく見えるから好きだ。みんなと一緒に頑張ってるって感じがするし、私ももっともっとみんなのために頑張ろうって思えるから。


「頑張る真波がよーく見れるからね」
「…ずるいなぁ夢乃さん」


まぁ室内練のとき基本的に真波は今日のようにバックれて山に行ってしまったりサボっていたりで全然見れたことはないんだけど。
心の中でそう続けてから顔を上げれば困ったように眉を垂れさせる真波がいた。これはちょっとレアだ。困ってるのかな?直接的にアピールしすぎた?流石の真波でも気づくかなぁ思い今更ながら不安になって恐る恐る真波の顔を覗き込めば、ビックリしたように目を見開いてから一歩後ろに下がった。


「?真波?どしたの」
「…何でもないですよー。もう、オレ行きますね」
「山?山なら早く帰ってこないと私本当に東堂さんに言うよー!」


私だって東堂さんにガミガミ怒られるのはごめんだ。ただでさえ「真波を甘やかすな!」とこの前怒られたばかりなんだから。それに東堂さんのお説教はとてつもなく長い。弁が立つから言い訳もできずに黙って正座をするしかなかったあの時を思い出すと今でもゾッとする。たまたま新開さんが通って救出されたからよかったものの、今度こそきちんと報告しないといけない。そろそろ福富さんにチクられるかもしれないし。福富さんに怒られるのは嫌だ。
なんて思って遠ざかる背中にそう叫べば、クルリと振り返る少しだけムッとした顔の真波。
お、レアだなぁ。真波が怒ってるなんて。


「今日は山は行かない。ねぇ夢乃さん、早くオレのこと見にきてね」


そんな爆弾落として颯爽とチャリに跨って消えていく背中。
またまた私の心臓がギュンっと音を立てて苦しくなる。困った。私いつか真波に殺されちゃうんじゃないだろうか、なんてくだらないことぼーっと考えてから、ヨイショと腕の中にある洗濯物かごを抱え直す。

さて、早くこいつらを干しに行かないと。


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