私たちだけのおそろいだよ


君がいない日々なんて…とかそんなようなありきたりな歌詞に共感する日が来るなんて思ってなかった。
昨日、先輩たちに真波の半径1m以内に近づくの禁止令を出されてからの私のテンションはガタ落ちだ。正しくは真波が私に近づくのが禁止なんだけど私から近づくことも禁止されてしまったので真波との接触は全くできなくなってしまっている。
ミーティングの後に先輩の目を盗んで真波に声をかけようともしたけど、そんな考えはお見通しらしく私のお目付役になったユキがいつだってギラギラと目を光らせているのだ。ちょっとでも真波がいる方へと視線をやればユキがやってきて私の頭をスパンと叩く。ユキのせいで私の細胞がどれだけ死んだだろうか。ひどすぎる。

昨日の帰り際、チラリと見えた真波はやっぱりしょんぼりとしていて寂しそう。真波があんな顔するなんて驚きでもある。誰にも執着なんてしなさそうなのに。まぁあれも本気なんだかおふざけなのかは分からないけど。私は割と本気で寂しい。これじゃ真波へのペナルティーではなく私へのペナルティーみたいだ。

家に帰ってから、電話ならバレないんじゃ?なんて思い立ったもののそもそも私は真波の連絡先を知らないことにそこで気づいた。いや、だって電話とかしなくてもいつでも話せたし、交換する必要性を感じてなかったもの。それに真波ってあんまりスマホいじってるイメージもないし、連絡もマメじゃなさそうだ。

はぁっとため息ついて、枕に顔を埋める。あと一日我慢すればいいだけだから、頑張れ私。





「…無理なんですけど」
「なんでお前がそうなるんだよ」


次の日、学校に着いてもいつもよりやる気が出ない。机にべったりと頭をつけて項垂れていればユキが呆れたようにため息をついた。


「癒しが足りない…真波が足りない…」
「…ホントなんでお前ら付き合ってねーの?」
「これ、真波への罰じゃなくて私への罰だよね?私何かした!?」


ユキの疑問は華麗にスルー。
何回も言ってるけど、付き合ってないし。私が真波のこと好きなだけで真波の気持ちなんか知らないし。
真波はどうしてるだろうか。今日は遅刻してないかな。というかこのまま遅刻が続いたら私ずっと真波と話せないってこと?そんなの無理だ。つらい。私は「夢乃さーん」って真波が呼んでくれないと何もやる気が起きないくらいには真波のことが好きだし、真波からたくさんの元気と癒しをもらってたのに。


「あー…ホントつらい。無理でーす」
「…ったぐ…しょーがねー奴らだな」


トントンとユキが私の机を叩いたせいで、机に乗せていた頭も揺れる。文句を言おうとのそのそ顔を上げれば、ユキがんっと指差したのは教室の外の廊下の方。
指の先を追うように視線を向ければ、廊下から教室の中をひょっこり覗いている真波がいた。チラチラとアホ毛が揺れていて、私と目が合うと嬉しそうにパァッと笑顔になる。


「夢乃さん!」
「真波!真波だー!」
「あ、夢乃さん動かないでね。近づいたら黒田さんに怒られちゃうから」


椅子を立ち上がって駆け寄ろうとしたけど、真波にそう言われてハッとする。
なるほど。確かに先輩たちから言われたのは1m以内に近づくのが禁止ってだけで話すのは禁止されてなかった。
少しだけ距離があるけど、ラッキーなことに私の席は廊下に近い方だからそこまで声を張らなくても真波との会話はできそうだ。


「夢乃さんに会えないと、生きてるって感じしなくてつまんないや。だから会いにきちゃった」


そんな恥ずかしいセリフもハッキリと口にする真波に私の心臓は握りつぶされたように苦しくなる。
真波って良い意味でも悪い意味でも嘘は言わないし、思ったことをちゃんと言う人だからそう言ってもらえるのは嬉しい。
思わずにやけてしまった顔を隠すように両手を頬っぺたに当てて、誤魔化すようにえへへと笑う。すると真波もおんなじようにえへへと笑うから、そんなことだけでもさらに嬉しくなってしまう私はちょろい。


「オレ、今日は遅刻しなかったよ」
「ほんと?偉いね。やればできるじゃん!」
「うん。これからは遅刻しないように頑張るね」
「そうして!私、真波と会えないの結構寂しいから」
「…そうなんだ。ね、夢乃さんの結構ってどのくらい?」


あざとく首を傾げた真波がそう聞いてくる。さっきまで笑っていたはずの顔はどこか真剣な顔をしていて、目が逸らせなくなる。
たまに真波はこうやって真面目な目をして私を見つめることがある。それがどんな時なのか、どんな意味があるのかまでは私には分からないけど。そんな目をされると色々と誤魔化せなくなるからやめてほしい。


「生きてるって感じないくらい」
「…え?」
「真波がよく言ってるでしょ?生きてる!って。真波がいないと、私も生きてないくらいつまんないな」


思わず伝えてしまった正直な気持ち。

真波と会ってから私の世界はキラキラと色づいて見えるようになった。
もちろん部活だって学校だって前から好きだったけど、真波に会ってからはもっともっと好きになったし、真波がいるから頑張ろうと思えた。真波に会いたくて学校に来てるだなんて、そんなの重たいと思うから絶対言わないけど。

真波は大きな目をパチクリとさせてから、ズカズカと教室に入ってくる。あれ、近寄るなって言ったの真波じゃなかったっけ?なんて思っていたのも束の間、すぐ目の前に来た真波が思っていたよりも大きな両手でぎゅっと私の両手を包み込む。


「オレもおんなじ。夢乃さんがいないとダメみたいだ!」


握られた手があったかい。だけどそれよりも本当に嬉しそうにニコニコ笑う真波が眩しすぎて私は直視できそうにない。
目を逸らせば、目があったのは鬼のような顔したユキ。


「椎名!真波ィ!」
「アハハ、黒田さん内緒にしてくださーい!じゃあね夢乃さん。また会いにきていい?」
「えっ、うん。もちろん!」


ぎゅっと握った手に力を込めてから、パッと離された。寂しいなんて思う間も無く、真波は私に背を向けて廊下を走り去っていく。たまに振り返って手を振ってくれるのを呆然と見つめるだけの私。


「ユキ、後輩って可愛すぎない?」


真波ってなんなんだ。可愛すぎない?後輩ってこんなに可愛いものなのか?こんなに可愛い後輩に出会うことなんてもう二度とない気がする。


「真波のアレはお前にだけだよ」


あの女の子大好き不思議チャンがそんなわけないじゃんか。きっと真波は誰にだってあんな感じだよ。ユキはバカだなぁ。
そんな私の頭の中なんてお見通しかのように、ユキがため息をついた。





















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