今すぐ食べちゃいたい荒北


靖友の角ばった大きな手が好きだ。細くて長い指に、綺麗に切り揃えられた爪。グローブの形に日焼けしていて男らしいなぁと思うのに私に触れる時はとっても優しくてあたたかくて、そんなに優しくしなくても大丈夫なのにと思ってしまう。
私の頬っぺたを包むように触れて、指先がするすると耳を撫でる。くすぐったくて、だけど気持ちよくて擦り寄るように手に頬を寄せれば靖友の目がスッと細くなる。それはキスしたいって合図だ。
近づいてくる顔に、私も目を閉じれば唇が触れ合う。
その間に頬にあった手は私の後頭部に回る。私も手を伸ばして靖友の首に腕を絡めて、サラサラの襟足をそっと撫でた。


「…くすぐってェ」
「ふふ、ほんと、髪の毛サラサラだよね」
「知らねェ…」


ボスっと私の肩に顔を埋めるようにした靖友にぎゅうっと抱き締められる。

高校生から大学生になるのって、最初はそんなに変わらないと思っていた。だけどそんなことなかった。
高校生のときは学校が同じだったから毎日顔が見れて、会おうと思えばお互い寮を抜け出して会うことができた。こっそり寮を抜け出すことに最初は罪悪感もあったけど回数を重ねればそんなの薄まっていったし、それよりも会うことの方が嬉しくて、2人で見上げた箱根の夜空は星がとても綺麗だったのを今でもはっきりと覚えている。


「なんか、痩せた?ちゃんと食べてる?」
「あー…テキトーに。食べてるよォ」
「…今日は唐揚げつくるね。作り置きもできるだけたくさんつくるから、食べてね」


東京へ進学した私と、静岡へと進学した靖友の距離は今までと比べると圧倒的に遠くなってしまった。
変わらないと思っていたけど、私たちは少しずつ変わっていく。会いたいと思っても電話しかできなくてもどかしい夜が嫌い。東京の夜空は箱根と違って星なんか数えるほどしか見えないし、私の中ではあの日の箱根の夜空が消えてくれない。あの日にかえりたいなぁなんて思ってしまうから、空を見上げるのをやめた。

こうして靖友に会いに来れるのは、頑張っても月に1回くらい。
一人暮らしをしている靖友の部屋に入った瞬間にこうして抱き締められて、キスをして、そうすると私の心は靖友でいっぱいになって満たされる。それはきっと靖友も同じだ。安心する。その分たくさん甘やかしたくなってしまう。
めんどくさい唐揚げだって、自然と口から作ってあげるなんてこぼれちゃうし、頭の中で靖友が好きなお肉料理をぽんぽん思い浮かべてしまうんだ。


「なぁ」
「ん?何か食べたいのある?」
「…沙夜」


名前を呼ばれて顔を上げれば、さっきとは違ってギラリと目を光らせる靖友とバッチリ目が合う。その目で見つめられると、あ、やばい。
こうなるともう動けない。私はピッタリ固まって、されるがまま。
さっきまで優しく触れていた手が嘘のように力強くなり、ガッツリと腰を抱かれてしまった。


「食わせろ」


そのまま、がぶりと噛みつかれるようなキスをされて私の頭の中からは夜空も唐揚げも消えていって靖友でいっぱいになる。


「靖友、好き」
「うるせぇ、オレのが好きだバァカ」


会えない時間を埋めるようにキスをする。

好きって気持ちはあの頃から変わらない。
いや、あの頃よりずっとずっと大きくなってどんどんわがままになっていく。
会うだけじゃ足りなくて触りたい。キスがしたい。

お互いがそう、同じ気持ちなのだから私たちは
まだ大丈夫。





Back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -