その日の部活では絶好調だった新開


君の行動ひとつひとつで俺のテンションが上がったり下がったりしてるなんて、そんなこと気づいてないんだろうな。
「新開くん」と名前を呼んで笑ってくれれば、俺はその日1日幸せでいられるし、他の男の名前を呼んで笑っているところを見てしまえばその日は1日調子が悪い。心がモヤモヤして、自転車にも集中できず靖友にダメ4番だなんて怒られちまう。


「新開くん、これ私もいいの?」
「あぁ。一緒に食おうぜ」
「ありがとう!」


女の子なのに俺の前でも思いっきり食べてくれるのが可愛くて嬉しくて、ついつい自分のために持ってきたお菓子を与えてしまう。
気がつけば彼女のためにコンビニで新発売の美味しそうなお菓子を調べたり、教室で他の子とお菓子を食べているのを盗み見て、あ、チョコが好きなのかななんて思ってチョコのお菓子を多めに持ってきてしまう単純な俺。
案の定、江戸川は嬉しそうに笑って新発売のチョコをひとつ手に取って口へと運んだ。


「美味しい!」
「気に入ってくれた?」
「うん、新開くんがくれるお菓子っていっつも美味しいよね」
「なら良かったよ」


ニコニコ笑う彼女を見てると、俺って脈アリなんじゃないか?って思うこともある。
俺以外の男子とも話すは話すけど、こんなに笑ってくれるのは俺だけじゃないか?なんて思うのは自意識過剰だろうか。
椅子を持ってきて隣に座って、俺の机のお菓子を物色する彼女のつむじをじっと見つめる。つむじすら可愛いと思えるくらいには俺は江戸川のことが好きだけど、想いを伝えるには少し勇気が足りない。

それに、フラれるのは怖い。俺は自分が思っていたよりもずっと慎重なタイプだったらしい。


「新開くんはチョコが好きなの?」
「あぁ。うまいよなチョコ」
「私も好き!」


俺に向けられたわけじゃないのに「好き!」の言葉にドキリとする。
不思議なもんだよなぁ。こう言っちゃ失礼かもしれないが江戸川は別に俺のタイプって訳じゃない。
それなのにどうしてか気になって、目で追って、あぁ好きだなぁって思っちまう。
うかうかしてると他のやつに取られちまうんじゃないかとも思うけど、俺と江戸川はこうして俺が与えるお菓子でしか繋がっていない薄っぺらい関係だ。ただのクラスメイトよりは少しだけ仲が良いかもしれないが、まだまだ。もう少しじわじわと距離を詰めていきたい。


「明日は私が買ってくるよお菓子!いつももらってばっかだし」
「別にいいんだぜ。俺が好きでやってるだけだしな」
「じゃあ私も、新開くんにあげたいから買ってくるだけだよ」


えへへと笑う彼女は分かっててやってるんだろうか。いや、多分無意識だ。
嬉しくて「ありがとう」と返せば江戸川も嬉しそうに笑う。綺麗に口角が上がって嬉しそうに笑うところも好きだ。笑顔が可愛いって最強だよな。
単純だって笑われても良いけど、今日はめちゃくちゃ良いタイムが出る気がする。身体中に力が湧いてくるような、そんな感じ。江戸川のパワーってすげぇな。


「バナナ味、好き?」
「え?あぁ…好きだぜ」
「新開くんいつも食べてるもんね。じゃあ明日はたくさーんバナナのお菓子持ってくるから、楽しみにしててね!」


ひらひら手を振って自分の席へと戻っていく江戸川。

それって、江戸川も俺と同じようにいつも俺を見てくれてるって自惚れても良いんだろうか。
恥ずかしくなってグシャグシャと自分の頭を掻きむしって、机の上にばたりと上半身を倒す。思わず口から溢れる気持ち。


「ハハ…やべー…好き」


口に出せば、もっともっと気持ちが溢れていく。
もし、明日彼女が俺の好きなお菓子を買ってきてくれたら、そろそろ勇気を出して勝負みるか。










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