青くさい荒北と距離を縮める


勇気を出して荒北くんに告白したのはもう3ヶ月も前になる。一見分かりにくいけど本当はとても優しい人だってことを知って、目で追うようになり気づいたら好きになっていて勇気を出して想いを伝えた。すると返事はまさかのOKで、私と荒北くんは晴れて恋人同士になったはず。
そう、なったはずなのだ。私の記憶が都合よく改ざんされていない限り、確かに荒北くんは私の告白に小さな声で「オレも」と答えてくれた。照れ臭そうに視線を逸らして襟足に手を当てながら、そう言ってくれたはず。
だけど私と荒北くんの距離は3ヶ月経った今も全く縮まった気がしない。
LINEはするけど、部活に忙しい荒北くんとはなかなか続かない。まぁそれは仕方がない。彼はレギュラーとして全国一位を取るために毎日一生懸命部活を頑張っているんだから、それは私のことなんか気にせずに取り組んでほしいしむしろ邪魔したくなんかない。
だけどデートしてる時くらいは、ちょっとはそれっぽい扱いされてもいいんじゃないかなぁなんて思ってしまうのは私のわがままだろうか。


「荒北くん」
「あ?なにィ?」
「この後どうする?まだ寮の門限まで時間あるかな?」


久しぶりに荒北くんの部活がオフになったとのことで、今日はデートをすることができた。デートといっても、お昼頃に集合して流行りの映画を観ただけ。手も繋がないし、会話だってそこそこ。私が一方的に友達の話をすれば、荒北くんは聞いているのかいないのか分からない生返事を返すだけ。
映画中なんて当たり前だけど会話はなくて、隣を見れば真っ直ぐに映画を観ている荒北くん。私はこんなに近くに座ってドキドキしてるのに、荒北くんはそんなことないのかな。
結局、映画の最中に荒北くんと目が合うことは一度もなかった。

映画は終わってしまったけど、まだ時間は夕方前。
せっかく町まで来たし、デートだしできれば時間ギリギリまで一緒にいたい。今はまだ繋げていない手も繋いでみたい。
学校ではあまり一緒にいれないから、外で会う時は荒北くんとたくさんお喋りしたいな。荒北くんの話も聞きたいし。
なんて思って誘ってみたんだけど。


「あー…遅くなるし、もう帰ろうぜ」


もっと一緒にいたいって思ってるのは私だけなのかな?
困ったように頭をガシガシかきながらそんなこと言う荒北くん。駅へと歩き出そうとするのを、勇気を出して腕を引っ張って引き止める。


「うぉ!あぶねーだろーが!」
「あのね、私はまだ平気だから…その、」
「…あー…」
「もう少し、一緒にいたいなぁ、って」


チラリ、視線を上げればそこにあったのは荒北くんの困ったような顔。


「いや、その…」


じくじくと心臓が刺されたように痛む。

私の一方的な想いだったのかもしれない、ずっと。
荒北くんは優しいから、きっとクラスメイトの私と気まずくなりたくないという気持ちで告白を受け入れてくれただけだ。
じゃなかったらこんな困ったように、言葉を詰まらせたりしないだろう。

掴んでいた手をそっと離す。
油断したら溢れてしまいそうな涙をグッと堪えて、息を吸う。
私は荒北くんが好きだから、荒北くんを困らせたかった訳じゃない。一緒に2人で楽しい時間が過ごせたらいいなって思ってただけ。おんなじ気持ちでいられたらいいなって、思ってたんだから一方通行なら手放さなきゃいけない。


「ごめんね、荒北くん」
「…は?」
「友達に戻ろうか」
「江戸川、待てよ」
「友達でいたほうが荒北くんが笑ってるなら、そっちの方がいい。無理させたくない」
「江戸川」
「荒北くんの優しさに甘えててごめんね」


そう言い切って、荒北くんの顔を見ずにくるりと体の向きを変えれば、大きな手にガッチリと肩を掴まれる。


「1人で盛り上がってんじゃねーっつの!」


肩から滑るように落ちてきた手が私の腕を引く。バランスを崩してしまって、引き寄せられるままの私の体は荒北くんの腕の中にすっぽりと収まってしまった。


「江戸川といると、スゲー疲れる」
「っ…ご、ごめん」
「ちげーんだヨ。オレ、いっぱいいっぱいなワケ」


ギュッと力を込めて抱き締められると、耳元が荒北くんの胸に近づく。そこから感じるのはドクドク、うるさいくらいに高鳴る鼓動。
そうして荒北くんの言葉を理解した瞬間に、ぶわっと目元に熱が集まったのがわかった。ぽろぽろ溢れる涙はもう止められそうにない。


「ダッセーけど、オレも江戸川が好きだ」
「…ほんとに?」
「我慢させてばっかで、自信なかった。でも好きだから、ちゃんと」



腕の中で体を捩れば、少しだけ力が弱くなる。顔を上げれば思っていたよりもずっと近くにあった荒北くんの顔。


「今日、初めて目があったかも…」
「悪かったヨ…」
「んーん。でも、荒北くんの気持ち聞けて嬉しい。ありがとう。私も好きです」



荒北くんは照れ臭そうに視線を外したけど、今度はちゃんと私の目を見てくれた。おでことおでこがコツンとぶつかる。


「オレも」


これからもっともっとたくさん、2人で話をしようね。






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