何かを目覚めさせてしまった悠人


「江戸川さん、ドリンクどこっすか」
「知らない」
「ならパワーバーはどこっすか」
「知らない」
「俺の話聞いてます?」
「知らない」
「どこ行くんですか江戸川さん」
「悠人うるさい」


後ろにべたべたついてくる悠人がうるさい。というかうざい。なんなのこいつ。知らないっていってんのにずーっと後ろをついて来て鬱陶しい。そんな時間があるなら練習をすればいいのに。へらへら笑って、何考えてんだか分からないしきっと私のことも先輩なんて思ってないんだろうなってくらいに舐めた態度なのもうざい。一応敬語は使ってるけど、なんていうか、敬意なんて微塵も感じない敬語だし、一応高校生活を円滑に過ごすためのルールとして使ってますってだけ。

どうしても苦手だ、新開悠人。笑ってても目が笑ってないっていうか、ちょっと怖いしやっぱり何考えてるかさっぱり分からない。

悠人にこうして付け回されるのは珍しいことじゃない。だからなのか誰もそれを止める人もいない。ちょっと前までは黒田が悠人の首根っこ掴んで回収してくれていたけど、どんなに怒っても悠人は悠人のままなので黒田が折れた。黒田は賢いのでこのまま悠人を怒っても意味がないことを悟ったのだろう。だったら放っておく方が効率がいいと考えたに違いない。頭は良いけど私に対する優しさがない。だからモテないんだよ黒田。勿体ないよ顔も運動神経もいいのに。言わないけど。


「江戸川さん」


ちょろちょろと後ろをついてくるだけだっだ悠人ががっしりと私の肩を掴む。思ったより力強い力で掴まれたことに驚いて思わず反射的に振り返ればすぐ近くに悠人の顔があった。鼻と鼻が触れてしまうような距離に、息を呑む。
だからこいつ、いつも近いんだよ。なんなの。


「近い」
「俺、結構アピールしてるつもりなんですけど」
「は?」
「どうですか?」
「なにが」


バッサリ切り捨てて答えてやればポカンと口をあんぐりと開けた悠人。おー、珍しいなそんな顔。いつも自信満々というか、余裕な顔してるからか今回ばかりは、なんだかこっちが優位に立ってる気分になる。
そして同時に、どうしてか分からないけど背中がゾクゾクと震えるような、そんか感覚。さっきまでつまらないしこんな男大嫌いだと思っていたのに、あの顔を見た瞬間に私の中でビビッと電気が走ってしまい思わずにやけてしまう。

やだ、何これ、こんなの知らない。
さっきまで得意げな顔してたくせに、今は私を見つめて固まっている悠人。少しだけ寂しそうに眉を寄せて、口もへの字にっていて、指でツンっと押したら倒れてしまうんじゃないかってくらいに脆くなっている気がする。そんなわけ、ないのにね。


「しつこい男って、嫌いなの」


真っ直ぐに目を見て、悠人のおでこを人差し指でチョンッと突いてみる。悠人は大きな瞳をパチクリとさせたあと、ぶわっと顔を真っ赤にしてそのままUターンをして走り去ってしまった。

なによ。さっきまであんだけ強気だったくせに。余裕ですって顔をしてこっちを見下してたくせに、そんなかわいい顔もできるんだ。もしかしたは意外と打たれ弱かったりして。
恥ずかしがるだけじゃなくて、泣いてくれてもよかったのになぁ。私の前でぼろぼろと涙をこぼしながらこっちを睨んでくる悠人って、ちょっと見てみたいかも。




「悠人、ドリンクあるよ」
「いりません」
「悠人、パワーバーあるよ。食べる?」
「食べません」
「私の話聞いてる?ねぇ悠人」
「っ、聞いてないです!もうなんなんすか!どっか行ってください!」
「悠人うるさい」


好きだなぁ新開悠人。
私の言葉に傷ついたくせに。プライドが高いせいで素直に私を諦めることもできなくて戸惑う悠人。可愛いなぁ。もっともっと私で頭がいっぱいになればいいのに。

前よりずっと、私のことを好きになってくれたら、そうしたら、私があんたを泣かせてあげるのに。





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