黒田が全然気づいてくれない




初めて会った時から、気にはなっていた。

綺麗な顔をしているなぁと思ったのだ。髪の毛の色も太陽の光に当たってキラキラしていて、初めて見た瞬間に私は多分黒田のことを好きになるんだろうなぁって思った。高校生の恋なんて、そんなもんでしょ。一目惚れとかビビッときたとか、そういうのが運命っぽくて好き。恋愛小説とか大ヒット映画だってだいたいそんな始まりでしょ?だから、ただ綺麗な顔してるなってたったそれだけがきっかけでも、この人のこと好きかも!って思っちゃうのは仕方ないと思うんだけど。

どうにも私はその相手を間違えてしまったらしい。


「お前そんなに食って本当に女子か?大食い選手権でもやる気かよ」


お昼休み。お弁当を食べ終わってからおやつのプリンを食べていたら頭上から降りかかってきた言葉。次のひとくちを食べるために開けていた口はそのままぽかんと開きっぱなしで上を見れば、バカにしたような顔してこちらを見下ろしてくる黒田がいる。
別に私がどこで何をどのくらい食べていたって黒田には全く関係ないし、お弁当の後にプリン食べてたくらいで大食いキャラにされても困る。その程度で大食い選手権に出れるわけないだろ大食いタレントバカにすんなよ。ただ黒田がそんなことを大声で言うもんだから周りからは「え?こいつそんなに食べてるの?」って目で見られてしまう。黒田の狙いは絶対にそっちだ。私が恥ずかし目に遭う姿を見たいだけの最低男。


「ハァ?そんなに食べてないし。つーかなんなの?アンタ私が食べてるとこずーっと見てたわけ?きもいんですけど」
「ハァ?調子乗んなよ誰がテメェなんか見るかよブス」
「ブスって言うな!その瘡蓋剥がしてやろうか!?」
「おいやめろ触んなそこ、いてぇ!」


腕まくりしているジャージから伸びた腕にあった瘡蓋とその周りにある派手な青痣を触ってやれば大袈裟に痛い痛いと騒ぎ出す黒田。ざまぁみろそんな怪我ばっかりする方が悪いんだよバーカバーカ!
入学したての私はなんでこんな悪魔みたいな性悪男をカッコいいなんて思ってしまったんだろう。あの頃の私に言ってやりたい。こんなの好きになるのはやめた方がいいよ。確かに、見た目はそこそこカッコいいかもしれないけど、落ち着いて見たらそこまででもないし。まぁ運動神経は良いから走ってるところとかサッカーしてるところとか体育の時間にチラッと見ちゃうとウッカリ好きになっちゃうかもしれないから体育の時間は自分のことに集中した方がいいよ。いや、確かにね、プリントを回収する角ばった手とか、腕まくりしたジャージから伸びる腕だとか綺麗だしカッコいいなって思うのも仕方ないけどね。だけどそんなことよりずーっと性格が悪いから。本当に見かけ詐欺だからねこんな奴。女子に向かってブスとか言うんだからねコイツ本当に最低だよ。


「つーかそのプリン学食で人気のやつじゃん。やっぱりお前めちゃくちゃ食い意地張ってんな」


私の隣の席に腰を下ろした黒田は瘡蓋攻撃に懲りずそんなことを言ってくる。
そうだよいいだろ。お昼休みになった瞬間にダッシュで学食に行って買ったんだからな。1日限定10個のプリン。食い意地ではなく熱意と言ってほしい。自分が買えなかったからって僻むなよ黒田。
なんて、黒田への文句なんかたくさん頭の中に浮かんでくるけどそれら全部こっちをジッと見つめてくるその目を見たら頭の中で弾け飛んでしまうのだから恋というのは恐ろしい。
本当は私の直感は間違ってなんかないし後悔だってしていない。そりゃ、最初は見た目の印象とは違って意外とベラベラ喋るし口も悪いしなんかよく傷だらけだし戸惑うこともあったけど、やっぱり私の目に映る黒田はキラキラして見えちゃう。話しかけやすいし話も面白い。何をさせてもスマートにこなして見せるのもカッコいい。女子に対しての気遣いができないのがもったいないなんてみんなからは言われているけど、私はそうは思わない。口は悪いけど、黒田は意外と可愛らしいところもある。
そう、例えば今私のことをじっと見つめているところだとか。無表情に見えてたぶん心の中では「プリン食べたい」って思ってるんだろうなっていうのが全部顔に出てるよ黒田。


「…あげないよ」
「は!?べ、別に欲しいなんて言ってねーよ」
「そうだよねぇー。ブスの食べかけ欲しいなんて言えないよねぇ」


スプーンに掬ったプリンをこれ見よがしに自分の口へと運ぶ。チラリと黒田を見ればなんとも言えない顔をして眉間に皺を寄せていた。なんだその顔。


「…思ってねぇよ」
「え?なに?なんて?」


なんかぶつぶつ言ってるけど声が小さすぎて全然聞こえない。思わず聞き返せば、頭をぐしゃぐしゃと掻きむしった黒田が「あー!」なんて奇声を上げ出した。え、なに?怖いんですけど。私が知ってる黒田はそんな取り乱したりしないし偉そうにふんぞり返って椅子に座ってるはずなんですけど。


「ブスなんて思ってねぇよバーカ!」


何この、真っ赤な顔してる黒田は。こんな黒田、私は知らない。


「…バカはいらなくない?」
「うるっせぇなぁ。察しろ!フツー察するだろ!」


それってもしかして、「俺がお前のことをブスって思ってるわけないだろ!ただの照れ隠しだよ!本当はお前のことが好きなんだよ!」みたいなそんな展開を察しろってこと?

ちょっと待って。流石に私もそこまで心の準備できてないし、そんなつもりで言ったわけじゃなかったんだけど。ただのいつもの言い合いの延長戦ってだけ。私は意外とこの黒田との言い合いが好きだったんだよ。なんか特別って感じがするし、黒田がこれだけ女子にかまうのって私くらいだし。自惚れてた部分も確かにあるけどさぁ、だけどこんな突然そんな日が来るなんて思わないじゃん?私だって一応女子だからもっと雰囲気とか大切にしたいし!こんな教室のど真ん中で…いやそれもある意味ロマンチックだけどさ!心の準備とかあるんだよ女の子には!本当に黒田って女子のこと何にも分かってない!
まぁ、そんな黒田と付き合える女子なんて私くらいだし?付き合ってあげてもいいけどね別に!

脳内お花畑でそんなことを考えてこれからの展開に心を躍らせていれば、黒田がスッと目を閉じた。

え、えー!!?いやいやそれは展開が早すぎない?ダメでしょ!しかもなんでアンタが待ってんの!?普通男からするものでしょ!?そして物事には順序というものがあって…


「オイ」
「ち、ちゃんと順番は守ってよね!」
「何?俺の他にもいるのかよ」
「そんなわけないじゃん!黒田だけだよ!」
「ならいいだろ!早くよこせよ」


そんな横暴な言い方あるの?私が知ってる告白と違う。でもそれも黒田らしいっていうか、そんなの許せるの私くらいっていうか私らしいっていうか?


「だけどせめてさぁ…」
「あ?」
「黒田から来て欲しいんですけど」
「なんだよ、そんなことか」


黒田がずいっと身体をこちらに寄せてきたせいで一気に近くなった距離。相変わらず綺麗な色した髪の色。白くて艶々の肌は女子の私より綺麗な気がする。さっきは閉じていた目がこっちを真っ直ぐに見つめてくるから、私はなんだか恥ずかしくてたまらなくて思わずギュッと目を閉じた。

もしかして、このまま?私たち先に進んじゃうの?嘘でしょ、えっ?

ドキドキうるさい心臓が口から飛び出るんじゃないのって思ってたら、ガッツリ右手を掴まれる。突然の感覚に目を開ければ、スプーンを持ったままだった私の右手は引っ張られるようにして黒田の口元へとスプーンを運ぶことになった。私の大事な唇ではなく、私の大事な大事な、1日10個の限定プリンが黒田の口の中へ。


「…は?」
「あんだよ。言ったろよこせって」
「…」
「うま!やっぱこのプリンうめぇな!限定なだけあるわ」


ケロリとした顔でそんなこと言う黒田。
いやそっち?そっちね?そっちのこと。あっそう。プリンのことですかアンタが欲しかったのは。これまでの会話全部私の勘違いってことね。オッケーオッケー。ハイハイそうですよね。デリカシー皆無の黒田がキスなんてできるわけないもんね。しかもなんやかんやでヘタレだし。普段は強気なくせに本当に鈍ちんだしっていうか本当にこんなやつに惚れた私がバカ!時間を戻したいんですけど!


「もう絶対あげないから!」
「あ?なにを?」
「うるさい察しろ!察しろよ!」
「何をだよ!」
「うるさい!もー本当に私って見る目ない!」


それでもまだ、こんな奴のことが好きなんだからほんっと恋ってめんどくさい!






















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