三ツ谷に見つけてもらう


ゆらゆら揺れる水面を見ていると自分の悩みが小さく見えるなんて言うけれど、そんなのは嘘だ。ずぶずぶとこのまま海へと足を踏み入れて飲み込まれてしまえば楽になれると分かっているのに、臆病な私の足は動かずにただ砂浜で立ち尽くしているだけ。かろうじて足首が浸かるくらいのところに優しく波が触れるのが心地良い。
辺りには誰もいない、夏が終わった夕暮れ時の海辺は1人で考え事をするのには不向きだった。考えれば考えるほど、自分の価値がなくなる気がした。どうして生きているのだろう。なんのために毎日、つらくて悲しい思いをしてまで生きていなければいけないんだろう。終わらせてしまいたい。だけど自分から終わらせる勇気なんてない。生き抜く勇気も、もうないかもしれない。頑張ったのだ。もうとっくに頑張った。これ以上ないってくらいには頑張ったから、まだまだ頑張れなんて言われても吐き気がする。分からないんだよ、もう、何も。


「やっと見つけた」


パシャリ、波をたてて近づいてくる音がする。ザブザブと波をかき分けるようにして進んできたその人は、私の肩をがっしりと掴んでから、長いため息をついた。


「心配した」
「…」
「勝手に、いなくならないでくれよ」


もっと怒られると思っていたのに、三ツ谷の声は優しくあたたかかった。私を責めるわけではなく、本当に心配したってそれだけの感情が込められているように優しくて甘い。
責めてほしかった。勝手に家を飛び出してスマホの電源を切ってバスに乗り込んでこんなところに1人でふらふらとやって来た私は怒られて当然だから。叱ってほしかったのに、三ツ谷は私を叱らない。いつものように優しく、ただ私のことを受け止めてくれる。
三ツ谷が私のことを責めてくれれば、私は今度こそこの海に飛び込むことができたのに。


「疲れたよな。いいよ、休もう」
「…うん」
「帰ってシチューでも作るか。あったかいもん食ったら元気出るぞ。きっと」
「っ、うん」
「そして、一緒の布団で寝よう」
「…うん、うん…」
「お前が寝るまでずっと起きてるから。俺がいるから、大丈夫」


背中から包まれるようにして優しく抱き締められた。まるで壊れ物みたいに、三ツ谷は私に優しく触れてくれる。大事に丁寧に、私が私を愛せない分まで三ツ谷が私を愛してくれる。


「お前がいらないなら、お前の全部俺がもらうから」


三ツ谷の甘い声に息が止まる。泣きたくなるくらいに優しくてあたたかくて、大切にしたい。私が悲しむのも、つらいのも、苦しいのもいいけど、三ツ谷が悲しむのは嫌だと思ってしまうから、私は私を大切にしなくてはいけない。私のためではなく、三ツ谷のために。


「ありがとう、三ツ谷」
「いいよ」
「私の全部、三ツ谷にあげる」


私、これからは三ツ谷のために生きるよ。








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