多分もうすぐ最後の戦いに行くサボ


漠然と、いつかはするものだろうと思っていた。友達の話を聞いたりとかドラマを見たりとかして、きっといつかは当たり前に私にも好きな人ができて、その人と恋をするのだろうと思っていた。
だけどこんなにうるさいくらい心臓が高鳴ってしまったり、考えると胸がグッと苦しくなったり、思い出すだけで笑顔になったり、嬉しすぎて涙が出たりするなんて知らなかったし、もしもサボくんと出会ってなかったら、サボくん以外の人にこんな気持ちになったなんて思えない。ただ普通に生きていて、恋なんてしないままずっとずっと、そのまま人生を終えていたんじゃないかなって思う。
だからきっとサボくんは私の初恋で、これからもずっと唯一の人。いつどこで出会ったって、サボくん以外の人とこんな気持ちになるなんて思えないなぁ…なんて言ったらどんな顔をするだろう。大きな目をまん丸にして口をぽかんと開けてしまうかな?それともデレっと嬉しそうに笑ってくれるかもしれない。
たまにはそんな顔見て見たいなぁなんて思って素直な、恥ずかしいセリフを口にして見たのは気まぐれ。2人で毛布にくるまりながら夜を越して、うとうと微睡んだ時にふと言ってみたくなったのだ。
ワクワクして、目を開けて目の前のサボくんを見れば、想像とは全く違った顔をしていて焦ってしまう。


「…さ、サボくん?」
「……っ、」


毛布の中から出てきた腕に、ぎゅうっと抱き寄せられて、服の上から感じるよりもずっと厚い胸板に顔を押し付けられるから少しだけ苦しくてだけどほっぺたが熱くなる。

サボくんのこと、何でも知ってるわけじゃないけど強い人だということは知っている。辛くて苦しくて、大切な人がこの世にいないと気づいた時の彼をみていたから。
私はその時初めて、サボくんの涙を見た。
どんなに辛くたって、苦しくたっていたくたってボロボロになっていたって泣かない彼があんな風に涙を流すのだと知って、私まで苦しくて、何もできない自分に腹が立ったから。

さっき見たサボくんは、あの時とは違って静かに優しく、瞳からホロリと涙が溢れていたような、そんな風に見えたけど今はもう顔が見えないからそれが本当だったのか私の幻覚だったのかは確かめようがない。


「…サボくん?」
「…」
「私、変なこと言ったかな…?」
「そんなことない」


不安を口にすればハッキリとした口調で否定される。だけど顔は見えないままだから、私は何かに縋りたくて、サボくんの背中にそっと手を回したらさらにぎゅうっと抱きしめられる。


「沙夜があんまり、嬉しいこと言うから」
「嬉しいこと?」
「そう。俺はさ、そんなに言葉が上手くないから、好きだとか、ありきたりな言葉しか言えないけど」
「…うん」
「だけど、俺も沙夜と同じくらい、それ以上に想ってるから」
「…ふふ、うん」
「だから、それがすごく嬉しかったんだ」


あぁ、そうか。やっぱりさっき見たサボくんは幻なんかじゃなかった。
嬉しくて、幸せで涙が溢れてしまったってことだったんだ。


「お願いがある」


肩を優しく掴まれて、2人の間に距離ができる。顔を上げれば、サボくんのまっすぐな目と目があった。意志の強い青い目が、私は好きだ。


「これからどんなことがあっても、俺が何をしても、俺が沙夜のことを好きってことは、絶対に変わらないから」
「…絶対?」
「うん。絶対」
「わかった。信じるよ」
「…俺のこと嫌いになってもいい。恨んでもいいけど、それでも、俺は沙夜のことが好きだってことは忘れないでくれたら嬉しい」


なにそれ、って笑い飛ばそうとしたけどサボくんは相変わらず真面目な目をしていたし笑ってもいなかったから私もただ見つめ返すしかできなくなってしまう。

この広い海を生きているから先のことなんて分からないけど、だけどそんなこと言わないで欲しい。私はサボくんのことが好きだって、さっきそう言ったのに。
好きだからずっと一緒にいたい。これからもずっと、どんなに辛くても苦しくても、サボくんと生きていきたいって、そんな気持ちだったんだよ、私。


「…好きだけじゃ、一緒にいられない?」


そう言えば、サボくんは少しだけ眉を寄せて悲しそうに笑った後、いつものように優しく私の髪の毛を撫でてくれた。そのまままた、胸元に押さえつけられるようにして抱き締められてしまう。


「そんな世界にするために、俺がいるんだよ」


いつか、何もない幸せで優しい世界の中に産まれても、私はきっとまたサボくんにであってサボくんに恋がしたい。
今日の分もずっとずっと、今度は私がサボくんを幸せにしてあげられたらいいのに。






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