もう、限界だと思った。
行き着く先も地獄

1月 降谷零/DC


優秀な部下すらもそうしていつか切り捨てるときのことを考えている自分に気付き、強制的に味わわされる充足感や幸福感に、降谷は苦いものが混じるのを感じた。
明日には死んでしまうさ

2月 降谷零/DC


また男は吐息まじりに、ああ、と囁いた。影を濃くする男の眼窩と頬骨は、彼の方こそしっかりとした休養が必要だということを如実に示していた。
夢ではない

3月 赤井秀一/DC


曲がりくねった峠道を、法定速度ギリギリで車両が駆け抜ける。
太陽もとうに役目を終えた時間帯、急激に冷えた峠道にはうっすら夜霧が這いはじめ、うやむやを裂くようにして走行する車列はさながら明滅する葬列のようにも見えた。かの男が死んだはずの場所というならば、それもまた相応しいかもしれないが。
鬼が出るか蛇(じゃ)が出るか。テールランプが残光をまとわせ、エンジン音が暗く随行していく。
夜霧の瞳、あるいは死人の目

4月 降谷零/DC


ところどころに設置された巨大な水槽は、ラウンジの広い空間を品よく区切り、なおかつ揺らぐ水面の反射する鈍い色によって、ゆらゆらと互いの表情を分かりづらくさせていた。アクリル製の水槽のなか、あの淡水魚はアロワナだろうか――大きな観賞魚がアクアリウム用のメタルハライドランプの明かりを受けながら、ひとり悠々と泳ぐ。低く控えめに響くエアーリフトのフィルター音に混じって、ぼそぼそとした話し声が、凪いだ波音、あるいは衣擦れのようにかすかに漂う。
架空のひとたち

5月 安室透/DC


「ああ〜〜〜気が狂いそう」
「……まるでいままで正常だったみたいな言い方をやめろ」
「すみませんでした」
またあなたに恋をした

6月 降谷零/DC


少年がなにを問いたいのか、なにを言いよどんだのかを察し、沖矢は――赤井はまた一口、静かに赤みがかった液体を嚥下した。湿らせるように唇を一舐めする。鼻に抜ける薫香は、しかしまだ酩酊の心地よさを与えてくれない。繊細なカッティングの施された薄いグラスは、外側にうっすらと水滴をまとっていた。
夜がみっつ

7月 赤井秀一/DC


「災害レベル」と形容された今年の夏の陽射しは容赦なくかんかんと照りつけ、試験中ということもあってか学内は閑散としていた。日傘を差して木陰を選んで歩いていても、吹き付ける風がこう生暖かくては、じっとりと浮かぶ汗を乾かすことすら難しい。
none

8月 沖矢昴/DC


ずっと見上げているとくらくらとめくらになってしまうような心地がするのを、すっと引かれた白線のおかげで堪えることができているような晴天だった。視界のくらむかんかん照りの太陽の下、耳鳴りのようにうわんうわんと響く蝉の声は、過ぎる夏の一部と惜しむ気持ちを萎えさせてしまうほど情緒を欠いた音量である。奴らの鳴き声は、目ばかりではなく耳をも麻痺させてやるぞという意気込みを感じさせた。
白昼夢

9月 降谷零/DC


彼らが相対するには似合いの舞台だったかもしれない。泥やゴミの詰まったドブ川の隅、溝渠で生まれた恋は、こういう場所で終わるのが相応しい。
美しく死ね

10月 ディアボロ/ジョジョの奇妙な冒険


森奥にひっそりと隠された洋館は、木々に埋もれるように建っております。鬱蒼と続く深い森に飽きかけてきた頃にようやく屋敷が姿を見せると、初めて目にする者は皆、その絢爛豪華なさまに息を飲んだものでした。
今日のお客様

11月 バーボン/DC


ギリシャ神話のカッサンドラもかくやとばかりに沈んだ面持ちで、わたしは窓ガラスに反射した白い顔を眺めていた。
なにかが頬をかすめた。外はしとしとと静かに雨が降っていて、愚にも付かないわたしの思考など水滴よりも些細だと知らん顔で落ちていった。
仄暗いここで秘密の話をしよう

12月 赤井秀一/DC

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