2019年
字書き録
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一 月
――いっそのこと強く掴み、爪を立て、嬲ってくれたら。
そう欲してしまうほどに、いっそ優しげな手付きは地獄のような疼きを齎(もたら)した。まるでわたしに逃げる余地を、選択肢を与えているかのように。
なんて迂遠な――わたしが逃げられないことなど重々承知であるくせに。
済度し難い 赤井秀一/DC


二 月
強いて言うならば、何物にも変質しがたい、凪いだ湖面のような静謐さと、礼儀正しい穏やかさは、彼らの類似性と言って良かった。長い時間を共有することによって、否応なしに似通い、混ざった空気を備えていた――まるで本物の「家族」かの如く。
永遠の苦患 レクター/Hannibal


三 月
到底堅気には見えぬ喪服じみた黒いスーツ連中のなか、埋もれるように囲繞いじょうされた白いワンピース姿の女は、アムステルダムに鎮座する『夜警』の少女めいて目を引いた。
鳥籠の中の小鳥 張/BLACK LAGOON


四 月
白磁の肌、烏の濡羽色の髪と相まって、モノトーンで纏められた姿は――だからこそ美しい紅唇がより映える。
雪欺 張/BLACK LAGOON


五 月
ふ、とサングラス越しに流し目をくれてやって、男は煙まじりに嘯いた。吐き出された紫煙で夜景が白く霞む。
――その行為ひとつとっても「気障」ではなく「粋」だと見る者全てを感嘆せしめるのだから、敬慕くあたわざる「雅兄闊歩ウォーキン・デュード」の名はなんと言い得て妙なのだろう。
カルペ・ディエム 張/BLACK LAGOON


六 月
薄い花弁の一枚一枚に、完璧に同じ色のものはありません。複雑な緋色のグラデーションは、目にも鮮やかでした。香油も垂らされているのでしょう、馥郁たる芳香がほのかに漂っております。毎日こうして薔薇に囲まれ、触れ、浸かるこの館の娘たちの肌は、堪らなく馨しいのです。
今日のお客様 ライ/DC


七 月
強烈な閃光、轟音、暗闇が反転した。
目眩 張/BLACK LAGOON


八 月
「――ふ、それじゃあ順序が逆だろうよ、サロメ・・・
「ふふっ、それではヨハネではなく、あなたに口付けをお捧げしましょう、旦那さま!」
礼讃 張/BLACK LAGOON


九 月
黎よりずっと慣れた仕草で、張が黒煙草をくゆらせる。肺の奥底から深く紫煙を吐き出すその仕草が、彼ほど様になる男を、黎は他に知らない。
揺蕩う 張/BLACK LAGOON


十 月
――世界から切り離される錯覚。やわらかく、たおやかな檻。
NEVER FORGIVE 張/BLACK LAGOON


十一月
悪魔の化身、モビィ・ディックはこの街を脱する・・・・・・・。復讐と妄執に憑かれたエイハブ船長は、間違いなく追撃するだろう。その舞台が金三角ジンサンジャオであれば、アヘン・アーミー共の巣窟であれば、なお僥倖。
CARDS ON THE TABLE 張/BLACK LAGOON


十二月
少しくらい幻滅させてくれなければ、いよいよもって、たかが女の命ひとつ程度が惜しくなってしまいかねない――まったく、憎らしいことこの上ない・・・・・・・・・・・
色ぞゆかしき 張/BLACK LAGOON
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