やわらかく輪郭の崩れた視界のなか。

「――ああぁっ、っ、ん、ひぅ……!」

達したばかりではあはあと大きく肩で息をするなまえは、正面から自分を抱きすくめるDIOにぐったりと上半身を預けたまま、彼の首へふるえる手を回した。

「なまえ、」

甘い声で名前を呼ばれ、まばたきをしながらゆっくりと顔を上げる。
なまえの濡れ滲んだ視界でも、彼の美貌は僅かばかりも損なわれることなどなく、まばゆいばかりのゴールデンブロンドはいつも通り安っぽい電灯の下で分不相応にきらきらと輝いている。
荒い息をなんとか落ち着けようとしつつ、ぼうっと呆けたように見上げていると、その端麗な相貌が寄せられた。
いつものように唇が降ってくるのを察してなまえがそっと双眸を閉じれば、端からぽろりとまた雫がこぼれ落ちた。

「……んん、ふ、あぅ……」

重なる唇の隙間から、どろどろにとろけきっているのを隠そうともしない、濡れた甘え声が漏れ出る。
舌と舌を擦り付け絡める、宥めるような口付けに、なまえがうっとりと耽溺していたのも束の間。

「――っは、なまえ、随分と余裕そうだな」

達したばかりの彼女を慮って、律動を緩めていたディエゴが皮肉げに呟いた。
彼はなまえの腰を背後からがっちりと抱きかかえたままだった。
憎々しげに一言呟くと、自分のことを忘れるなと言わんばかりに淫らな抽送を再開した。

なまえは大仰にびくっと跳ね、声高に悲鳴をあげる。
四つん這いに近い不安定な体勢のせいで、彼女のまるい膝が床に擦れて微かに痛んだ。

「〜〜っ、やぁっ、あっ! ディエゴくん、ま、待って、おねが、あっ、ああっ」
「ん、待つ必要なんてないだろ、っ」
「あっ、や、ぁああっ、ディエゴく、ッ、んんっ、ふ、」

ずちゅ、ぬちゅ、と粘膜が打ち合う淫猥な水音が再び鳴り始める。
まるで胎内を抉るような狂おしい律動に、なまえがなすすべもなくふるえていると、背後からぐいと顎を掬われた。
次いで強引に口唇を塞がれる。
上体をねじって振り向くような姿勢で、息もつかせぬ程に舌を絡められ、喜悦に酸欠まで加わった。
なまえはぐらぐらと煮え立つような思考のなか、本能的に顔を背けその口付けから逃げようとする。
するとディエゴは片手でなまえの顎を固定するように掴み、間髪入れず、しなやかな指を無遠慮に口内へ突っ込んできた。

「ンぐっ! ん……ぅ、んんむ、ぅっ」
「噛むなよ、なまえ」

嬲られる口腔は、異物の存在を感知して生理的に唾液を分泌させた。
DIOよりも幾分か繊細な印象を強くする、ディエゴの白く長い指を咽喉奥まで差し込まれて、えずきそうになる。
苦しみから逃れたいと強く思うものの、しかし彼の声はなまえにとって、まるで媚薬のように鼓膜をとろかせ、脳髄まで痺れさせる甘い毒だった。
その声に命じられると、なぜだかどうしようもなくなって、なまえは自然と従順にディエゴの意に沿うよう動いてしまう。
なまえは抵抗を放棄し、やまぬ抽送に合わせて懸命に呼吸を繰り返した。
指で舌を挟まれ、口腔をゆるゆると掻き混ぜられる。
嚥下できない唾液がぼたぼたと唇から滴り落ちた。
その粘液は、真正面で彼女を抱き締めるDIOの胸元にも垂れている。
なまえは耐えがたい羞恥に顔を真っ赤に染めて、悩ましげに眉をたゆませた。

「んんっ、ぁふ……んぅ……ぅ、くっ」

なまえは正視しがたい現状から逃げるように、黒い睫毛を伏せた。
閉じた目蓋の裏、暗闇のなかで、火花のように光がちかちかと明滅する。
しかし視覚は手放しても、聴覚まではそうもいかない。
背後からの深い突き込みに狭孔が圧迫され、じゅぷ、ばちゅ、と律動に合わせてあられもない音色が絶えず響いていた。
その音すらも彼女を追い詰めた。

なまえの瑞々しい柔肌には汗が浮かび、吸い付くような手触りに拍車をかけていた。
彼らふたりの大きな手に全身をなぞられ、ぞくぞくっと腰の疼きが更に酷くなる。
反った白い背筋の痺れも止まらない。
思わずなまえ本人の意思とは関係なしに身体がふるえ、下肢から力が抜けた。
DIOの首に回して上体を支えていた腕の力も、ふいにゆるむ。
がくりとくずおれそうになったなまえ身体を難なくその逞しい腕で支え、DIOはディエゴから解放された彼女の唇へ再び口付けた。

弄られすぎて腫れぼったくなってしまったなまえの濡れた口唇は、酸素を求めてだらしなく薄く開かれたままだ。
くちゅくちゅと粘性を帯びた水音を立て、我が物顔で口腔内を甘ったるく蹂躙する舌に翻弄される。
絶えず与えられる快楽と共に、胸を満たすような幸福感すらも倍々に膨れていき、それによってますます膣襞もきゅうきゅうときつく収斂する。
頭が真っ白になってしまいそうなほどの喜悦と、くらくらするような一体感。
なまえは夢中で、常よりも熱く感じる冷たい吸血鬼の肉体を掻き抱いた。

「んぅ……っ、でぃ、DIOさん、あ、っ」
「なまえ、そのままではまた落ちるぞ。腕を回せ」
「あ、んっ、は、はいっ……っ、ぁああっ、DIOさんっ、ひ、ぅ……!」

我も忘れてDIOの逞しい肉体へ縋りつき、濡れた唇からは口付けの合間に悦びの嗚咽が迸る。
多幸感に満ち甘く潤んだ瞳で真っ直ぐに見つめられ、まるでこの世で最も愛おしいと言わんばかりに懸命に縋られ、やわらかな唇を差し出し一心に口付けをねだる女を前にして、陥落しない男など果たしているだろうか。
増してや彼が、DIOという男が、唯一と思い慈しむなまえという少女ならば、尚更。
しかしながら同時に、彼女の下肢は他の男に抱えられ、しとどに蜜を溢れさせる膣孔は自分ではない男のモノを咥え込んでいる。
自分と同じ顔を、声を、名前をしている男でも、例えそれが自分でなければ全く意味はない。
そう思うと、酷く苦々しい感情が胸中に満ちた。
いっそ突き放してやりたい、めちゃくちゃに傷付けてやりたいという忌々しさも。

そしてそれはディエゴも同じことだった。
彼を受け入れている狭粘膜は、狂乱せんばかりに極太の剛直をぎゅうぎゅうと締め付けているというのに。
彼女がとろけた甘ったるい声でせつなげに呼ぶのは、自分と同じ顔をした、別の男の、自分と同じ名前だ。
快楽で焼き切れそうな思考回路が少女に対してなりふり構わず、いまお前を犯しているのは誰だと詰問し、責めなじりたくなってくる。
手におえないほどの嗜虐的な感情が湧き上がる。
汗の浮かんだ白皙の美貌が苦々しく歪む。
苛立ちをぶつけるように、抽送は激しさを増した。

そうとは知らないまま、ふたりの男を幸福感と劣情と嫉妬心で苛み煽ってやまないなまえは、彼らに与えられる愉悦に溺れそうだった。
滲んだ涙を通しての世界はぼんやりと脆く、そして強烈な喜悦に意識まで攫われそうなほど。

過ぎた快楽は苦痛にもなる。
しかしながら被虐の味を徹底的に教え込まされた肉体は、その煩悶すらも快感に変えていく。
寧ろ痛みこそが悦びだと言わんばかりに。
まるで調教、否、それはまさしく調教の成果以外のなにものでもなかった。

「――ひぃああぁっ、も、ゆるし、ゆるして、ッ、」

どちらへともなく向けられた許しを乞うなまえの声は、しかし責め苦に咽ぶ彼女の反応を堪能するように、彼らふたりの愉悦にかすれた低く蠱惑的な笑い声によって、融解して掻き消えるばかりだった。

相対性殉死
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