「いやいやいや、だめ、だめですって! っ、もう! 待ってくださいってばぁ……! さ、さすがに、背徳的すぎやしませんか!」

わたしにそんな趣味はありません! と叫びながら、なまえは懸命に後ずさった。壁際へと彼女を追い詰めていたのは同居しているカーズだったが、問題は彼の姿。
なんら問題はなかろうと、にたりと邪悪に笑んだ彼、否、そう表現しても良いものか悩む状態だったが――「彼」は、いま現在、女性の姿をしていた。
過去にも同じことがあったうえ(そのときは同居している住人全員も美しい女性へと変貌していた)、原因にもいくつか心当たりはある。とはいえ、それを受け入れろと言われるのはまた、別の問題で。
完璧なプロポーションを誇る、極上の肢体を惜しげもなく晒した半裸の女性から、なまえは半泣きで逃亡を図ろうとしていた。

たいていの男ならば、いや同性の女でも、眼差しひとつで魅了されてしまうに違いない完璧な美貌。女性らしい丸みを帯びた白い肩から、艶やかさを増したように感じられる深紫色の髪が、さらりと流れた。
切れ長の目は化粧など施されていないにも関わらず、まばたきのたび重たげに揺れる濃く長い睫毛に縁取られており、白い頬にくっきりと影を落とす。凛々しさや高潔さすら感じられる硬質な輝きを湛えた血色の瞳は、愉快げな光を多分に孕んでいた。

圧倒される眩しい程の美貌が間近に迫る。
少女が逃げるために身を捩ろうとした瞬間。なまえの動作の初手や間合いなどとうに熟知している彼は、やすやすとその肢体を腕のなかに閉じ込めた。
女性にしてはやや長身すぎるものの、なまめかしい女神の塑像のように肉感的な肢体は、優美な見かけに似合わず、能力や腕力は男性の姿のときと遜色ないらしい。強く抱きすくめられてしまえば、なまえの必死の逃避も空しく、そこから抜け出すことは難しかった。

「か、カーズさん、やめてくださ、ぁっ、――んんっ……!」

拒否や抵抗の訴えは、言葉となる前に口のなかですぐさま封殺された。否応がなしにしっとりと重ねられた唇のやわらかさに、なまえの丸い肩がびくっと跳ねた。
以前、彼ら皆の性別が変わってしまったときにも抱いた、違和感。慣れている熱や香りだというのに、それを与えている感触が、いつもと違う。
女性らしいやわらかさ、なめらかさ。小さな差異、落差、それが妙に落ち着かない。しかしそのことを言葉にして発することは許されず、ぬる、と舌先で下唇をなぞられ、反射的になまえは薄く口を開いた。
――いつもそうしているように。

そのまま、ちゅ、ちゅ、と児戯のように啄ばんでくる赤い唇は、触れる肌のように恐ろしくやわらかい。なまえが初めての肉感に戸惑いつつも、その極上の心地良さに溺れそうになっていると、にゅる、と舌が口腔に侵入してきた。唇だけではなく、舌も男性のときのものよりも格段にやわらかい。知らない感触になまえは一瞬、緊張でぴくりとその身を強張らせた。しかしすぐに慣れ親しんだ動きで舌を絡め取られた。意思や思考などよりももっと奥深いところに刻まれた本能的な欲求と記憶によって、なまえはそれを大人しく迎え入れる。口腔内をねっとりと舐られ、自然と唾液が溢れてきた。
与えられる悦楽に従順であるように仕立て上げられた肢体は、淫蕩にほころぶまでそう時間は要さなかった。

「……は、ぅん、ん……」
「っふ、随分と良さそうだが、なまえにこんな趣味があるとはなァ。ふふ、女の味の方が好みか?」
「そんな、ち、ちが、っんん、……あぅ、ぅ……」

豪奢な姿かたちに相応な、美しく毒のような甘さを孕んだ女の声音。真っ赤に染まった耳に囁かれ、ゾクゾクとなまえのうなじが粟立った。硬質な、ともすれば冷たさすら感じさせる血色の瞳が、どろりと淫猥さを含んで愛しげに少女に向けられる。
ねっとりと与えられる愉悦と、口付けによる酸素不足とで、なまえのふわふわと覚束ない思考は、ぐずぐずにとろけ始めていた。まろやかな女の肌の感触に、子供のようにただただ甘え、縋りつきたくなる。
噎せ返るような牝の香りに包まれ、いつしか夢中で舌を絡め合っていた。女たちのやわらかな唇からは絶えず、くちゅくちゅと淫靡な水音が漏れ出ている。

「ふ、っ、……んんぅ、ぁ、」

全身を支えている中心、真ん中の芯のようなものが溶けてしまうほどの心地良さ。なまえは縋るように、カーズのほっそりとした白い腕に爪を立てた。その手を掬われ、きゅ、と指を絡めて握りあう。
ますます密着することによって、互いの胸がくにゅりとやわらかく潰れ合う。その感触が、信じられないほどに気持ちが良かった。

なまえはじわじわと身体の奥底を焼かれるような疼きを覚えていた。疼きは次第に、ある明確な欲求となって彼女の肢体を苛む。
胸奥に生じた欲求から目を逸らすには、なまえは愉悦に慣らされ過ぎていた。欲しいと思ったものはきちんとねだるように、――こと淫らな事物に関しては、欲求を抑え込まぬように躾けられていたせいで、その欲求は満たされ尽くすまではどうしようもないということを、彼女は考えるまでもなく知っていた。
堪らず、涙がこぼれた。なまえはもどかしげに、自分の服の裾をぎゅっと握り締める。小さな手がいじらしくふるえていた。

「っん、んん、ぅ……っ、か、カーズさん、」

理性や思考をどろどろに溶かし尽くす濃密な口付けの合間、はふはふと荒い息で名前を呼ぶ。離れたやわらかな口唇の間で、とろぉっと細く唾液が糸を引いた。どうした、と至近距離で囁くカーズのその美貌にまたとろりと見惚れながら、少女は互いの唾液で光る唇をむにむにと躊躇わせた。

「……ぅ、あ、あの、」
「なんだ、何か言うことがあるのだろう」
「やぁっ……ひ、あっ」

何かを言いあぐねている彼女を急かすように、繊細で女性らしい白い手がなまえの脚を撫で上げた。いつもとは違う、女の手で敏感な内腿をなぞられる感触。火照った肌を更に上気させながら、なまえは懸命に唇を噛み締めた。
強く握り締めすぎて蒼白になってしまった手で、なまえはそろりそろりと着ていた服をたくし上げていく。
林檎のように真っ赤な頬、悩ましげに揺れる涙の浮かんだ瞳。羞恥で、否、それと同等、もしかしたらそれを上回る程の喜悦の期待で、少女の指先はか細くふるえていた。

ゆっくり、ゆっくりと、自らたくし上げていく服の下から現れる腹、乳房、鎖骨。
言葉などなくとも彼女が何をしたいのか、何をするのかすぐに理解したカーズは、唾液で濡れ光る自らの唇をぺろりと舌先で拭った。少女はその蠱惑的な光景に目を奪われる。熱を持つ頬をますます紅潮させながら、発情しているのを隠そうともしない浅い息を繰り返していた。
燃えるような羞恥にふるえる指先で、やっとシャツを脱ぐ。次いでのろのろと下着のホックを外すと、支えをなくした双乳がたぷんとこぼれ出た。その先端は、一度も触れられていないというのに既に固くしこり立ち、熟れて薄紅色に色付いていた。白い肌は匂い立つように上気し、薄くしっとりと汗ばんでいる。

隠すもののなくなった肌の上を、ぴりぴりと焦げ付くような視線が這う。至近距離で向けられる嬲るようなカーズの双眸に耐えられず、彼女は目を伏せた。するとそのさまを見て淡く笑んだ彼は、なんの前触れもなく唐突に、少女を強く引き寄せた。油断していたなまえは、大きく目を見開いて無防備にその腕のなかに飛び込む。
ぶつかる肌は、抜群にやわらかく、まろやかで。

「ひぅっ、ぁ、や、やぁっ!」
「どうした、お前が望んだのはこれだろう?」
「……ぅ、ぁっ……」
「ふ、随分と気に入ったらしいが、今後これが癖になっても困ると思わんか、なまえ」

服を脱ぐ前と同じ体勢だが、先程とは比べものにならないほどに生々しい肉の弾力が、ダイレクトに二人を襲う。
たゆんと弾む柔乳同士は、うっすらと浮かんだ汗で、極上の吸い付きをもたらしていた。乳房と乳房をふにゅりと重ね合わせれば、言葉に出来ないほどのとろけそうな感触に、なまえは陶然と瞳を潤ませる。
つくられたものとはいえ、初めて触れた同性の肉体は、まるで麻薬のようだった。きめの細かい理想的なもち肌が、しっとりと吸い付いてくる。なまえ自らが想像し、欲した通りに、……寧ろそれ以上に病み付きになってしまいそうな、やわらかな心地良さ。少女は夢中でその肉体に縋りついていた。

彼女がカーズを見上げれば、魅惑的な赤い唇が、淫らなことを彷彿とさせる笑みを浮かべた。神々しさすら感じられる完璧な美貌が、猥雑に歪むさまはひどく背徳的で、見る者にゾクゾクとした情動を抱かせる。惜しげもなく眼前に晒された美しさに、うっとりと耽溺しながら、なまえは潤んだ瞳を一層とろとろと濡らした。
ふるえながら、濡れ光る桃色の唇を従順に差し出せば、焦らすことなく彼女が望んだ通りに、否、それ以上の悦楽と愛情に満ちた口付けが降ってくる。再び深く重ねられたやわらかな唇は、煮詰めた蜜のように甘くすら感じられた。なまえは与えられる唾液をこくりこくりと喉を鳴らして嚥下し、陶然となりながらぎゅうと抱き着く腕の力を増した。

むにゅりと潰れる、重なり合った四つの肉果。男の手で淫らにつくり上げられたなまえの双乳は、普段は沈むようにやわらかな肉質だが、興奮して血の気が通うと、ほんの少しの刺激にも痛みを覚える程に瑞々しく張ってしまうようになっていた。針で突けば破裂してしまうのではないかというくらいに張りつめた乳房が、規格外に大きくやわらかな乳房と重なり、潰れ、擦れ、堪らなく甘美な刺激をもたらしてしまう。

「ひぅ、ン、んんっ……ぅ、っ、ああぁ……」
「っ、は、ふ、なまえ、」
「はぁっ、ぁっ、カーズさん、カーズさんっ、ひ、ぁ……き、きもちいぃ……」

ねっとりと繰り返される口付けの間、無意識になまえは房球を押し付けるようにゆっくりとその身をくねらせていた。意図せず、ただ、本能のままに。
接する豊満な柔乳に、自分の乳肉を擦り付けるという、あまりにも淫らすぎる行為。爛れるような疼きが、二人の腹奥でじくじくと蓄積されていく。
頬や首筋に触れる、長く艶やかな深紫色の髪がくすぐったい。少女はその感触にすらも溢れんばかりの愛おしさを覚え、双眸を潤ませた。浅ましくとろけきった表情は、恍惚に染め抜かれている。

カーズはなまえの自慰にも似た淫らな行動を咎めることなく、ただ口の端に浮かんだ笑みを深くするだけだった。彼の身体に擦り付けられる、むしゃぶりつきたくなるほど熟れた肌の弾力は、手放しがたいと思わせるには充分すぎる、毒のような酩酊を孕んでいた。

女の体になった彼に比べ、未だ小さななまえの肢体を抱きすくめる。背後に回した手で、ゆっくりと少女の背を撫でおろしていった。舌を絡める口唇は離さないまま、やわらかな指先で背筋を擽るようになぞれば、なまえは小さく悲鳴のような嬌声をあげながらびくびくっとその身をふるわせた。その反応は、絶頂に達したときと全く同じ。は、は、と荒い呼吸を繰り返しつつ、なまえは艶やかさの増したように感じられる、美女の深紫色の髪に指を絡ませた。

フェイクリリィ・プロフィテロル
(2015.05.26)
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