「さすがに理解できないんだけど」
「だって傑がなまえとヤッたって言うから。俺を除け者にするとかずるいじゃん」
「そもそも先に手を出したのは悟だろ」
「でもさー、オナニーしてるときになまえが乱入してきて、俺がイくとこ見てたのが原因だし」
「それじゃあなまえのせいかな」
「だろ? さすが傑」
「うーん、ふたりとも正気?」

しょーきしょーき、と間延びした声で、悟がわたしの首筋へ顔をうずめる。
耳のすぐ下辺りを唇でついばまれて、思わず「はあっ」と熱っぽい息がこぼれた。
濡れた音と共に、吸われたところを労わるように舌で撫でられる。
不埒な手はもうわたしの脚を撫ではじめていた。

正面に陣取った悟から距離を取ろうとしても、背後の傑が許してくれない。
後ろから腕を回して、わたしのシャツのボタンを外している傑は、感慨深そうに「さすがに複数は私も初めてだな」とかなんとか言っている。
なんだこいつら倫理観がまるで欠如してない?

「あ……っ、ねえ、ほんとに、ここでするの?」
「ん、俺の部屋じゃなくて傑の方がいい?」
「いやそういうことじゃなくて」
「悟の部屋のベッドが一番広いし寝心地がいいだろ?」
「それはそうだけど、――っ、悟、だめ、そこ、痕つけたら見える」
「前から見えていたよ。私や悟くらいの背丈だと、上から制服の襟のなかが見えるんだ、結構」
「え、ちょっと待って初耳なんだけど。なにさらっと暴露してるの」
「知らなかったのかよお前。平気な顔して髪結んでんなーとは思ってたけど」
「知ってたらちゃんと対策したよ! 痕つけるのストップ悟! 傑もボタン外さない!」
「まあまあ。私たち以外はたぶん知らないさ」
「もし知ってる奴がいたら、俺たちがぶっ潰してやるから安心しろよ」
「なにも安心できないし、そういう問題じゃない」

さては日本語が通じていないな?
いやらしく太腿をなぞる悟の手から逃れようと足をばたつかせていたら、ベッド横の壁に爪先が当たった。
痛い。

いくら悟の体に合わせたダブルのベッドとはいえ、大男ふたり女ひとりの計三人ではさすがに狭すぎる。
無駄な足掻きとは理解してはいても身をよじれば、ぎし、とベッドが軋んだ。
……ベッド、壊れないよね?
まあいいか、悟のだし。

「ていうか今更だけど、ただでさえ狭いコミュニティでごちゃごちゃするの嫌なんですけど」
「本当に今更だね」

傑が苦笑しながらシャツのボタンを、悟がスカートのホックを外した。
四肢からするりと衣服を奪い取られる。
手際の良さに呆れると同時に、特に指示の言葉を交わすでもなくあうんの呼吸でやってのけるふたりに、微妙に口元が引き攣った。

「悟も傑もなんなの、デキてるの?」
「「デキてない」」
「息ぴったりだね」

辟易しているわたしに、うるさいと言わんばかりに悟がキスをしてきた。
そういえば初めてシたときも、悪戯っ子みたいな笑みで「隣に傑がいるから」と嘯く悟にこうしてずっと唇を塞がれていた。
唾液なんかで汚すことを躊躇うようなきれいな顔に反して、悟は存外キスが好きらしい。
そのせいかどうか分からないけれど――わたしも、最中にキスをいっぱいしていないと、物足りなく感じるようになってしまった。
それと同時に、いやらしいキスをしていると、すぐに体が熱くなってしまうようにも。

「ん、ぅ……さとる、」
「良かったじゃん、なまえ。声、我慢しなくて済むぜ?」

額と額をくっつけたまま、キスの合間に悟が笑いまじりに囁く。
初めてのときを彷彿とさせる、まるで子どもみたいにきらきら輝く瞳で。
咄嗟に「そりゃ傑さんがここにいますからね!」なんて憎まれ口を叩けなかったのは、きれいな目に見惚れていた訳じゃない。
ただ悟に口を塞がれていたからだ。

「私とシたときは可愛い声たくさん聞かせてくれたけどね」
「あ?」
「だって悟、任務でいなかっただろ。仕方ないさ」

背後の傑がブラのホックを外しながら、軽やかに煽るようなことを吐く。
一見ひとの好さそうな顔をしながらまぎれもなくマウント以外のなんでもない発言に、悟が不満げに顔をしかめた。
だから! 変なところで対抗意識を燃やさないでほしい!
余計なことを言うなと傑をなじってやりたかったけれど、再度唇に噛み付いてきた悟のせいで、やっぱり声にはならなかった。
ああもうほら、面倒臭い気配しかしない。

「……っ、悟、かまないで、舌、いたい、っ」
「ん、」

悟の長い舌は、簡単にわたしの口のなかをいっぱいにしてしまう。
ぢゅる、と唾液ごと舌を啜られて、ぞわぞわと背筋が痺れるような感覚がした。

悟も屈んでくれているとはいえ、キスしていると身長差のせいで上を向かざるをえない。
顎を上げて舌を絡めていると、首というか後頭部が痛くなってくる。
でも、そんなことも忘れてしまうくらい、悟とのキスは気持ち良かった。

悟も傑も規格外に長身なものだから、間に挟まれていると埋もれてしまいそう。
わたしだって日々鍛錬しているし、とりわけ小柄という訳でもないのに、このふたりと一緒だとまるでとても華奢な女の子になってしまった心地がする。

「……なに考えてんの?」

まばたきするたび音が聞こえてこないのが不思議なほどぱっちりとした白い睫毛が、頬をくすぐる。
まだ拗ねているらしい。
不満そうに、む、と唇をとがらせた悟が、焦点が合わずぼやけてしまうくらい至近距離でわたしの顔を覗き込んできた。

「……ふたりともおっきいなって思って」
「なに、下ネタ?」
「違う。悟のこと嫌いになりそう」

ハァ!? と声を荒げている悟を放っておいて、背後でニヤニヤ笑っている傑の黒髪を引っ張る。
全然痛そうじゃない声で、傑は臆面もなく「いたた」と嘯いた。
最中、鬱陶しそうに髪を掻き上げる仕草が気に入っているから、結んだ傑の髪をほどいてしまうのがわたしのささやかな楽しみだった。
……本人には教えてあげないけれど。
うつむいてくれた傑の唇を、舌でなぞる。

「ん、あぅ……傑、もっと舌だして……、っ、ふ、」
「……おねだり上手になったよな、なまえは」
「っ、ん、私のおかげかな」
「は?」
「焦らしプレイに目覚めたらしいよ。私が仕込んだからだけど」
「その顔マジでやめろクッソ腹立つ」
「そんなこと言われても事実だからな……ねえ、なまえ?」
「ねーもうわたしのことほっといていいからさあ、仲良くふたりでヤッたら。見ててあげるから」
「げ、気色悪いこと言うなよ、なまえ」
「そうそう、私とキスしてるときに、悟とシてろだなんて酷いこと言うのやめなよ」
「じゃあわたしとキスしてるときに、悟とイチャイチャするのやめて」
「ふたりとも、俺のことで争わないで!」
「悟うるっさい――っん、あぅ」

口をへの字に曲げていると、傑が機嫌を取るように口腔へ舌を挿し込んできた。
薄い唇とは裏腹に、傑の舌は厚くて、絡めていると唾液がますます溢れてきてしまう。
さっき悟に噛まれたところを吸われて、ぴりっと痛みがはしった。
もしかしたら血が滲んでいるかもしれない。
ひく、と舌先が強張ったのが伝わったのか。
労わるようにそこばかり舐められるものだから、痛いのか気持ちいいのかよく分からなくなってきた。

「んぁ……っぁ、」

傑とのキスに気を取られていると、露わになった胸元へ悟が唇を寄せてきた。
はやく触ってほしいとばかりに、つん、と立ち上がっていた乳首が、熱い口内に包まれる。
胸なんていくら自分で触ったってなんともなかったのに、度重なる行為のせいで、ほんの少し触れられただけで我慢できなくなるほど感じてしまう部位になってしまっていた。

「触ってもないのに乳首こんなにたせて、結局、なまえだって興奮してんじゃん」
「ひあぁっ……あ、あぁっ! ゃ、さとる、かんじゃだめっ……!」
「なまえはだめだめ言うってことは、よっぽどイイんだろ」
「気持ち良くなると、すぐなまえはダメって言うからね」
「ふたりともほんとうるさい」

見下ろすと、悟がやわやわと胸を揉み、その反対の乳首へしゃぶりついてきていた。
硬く尖った突起をくっと甘噛みされて、「あぁっ」と自分のものとは思えないほどみだりがましい声があがってしまう。
胸の先端が、悟の唾液で濡れててらてらと光っている。
あまりのいやらしさに目眩がしそう。

胸を舐めたり吸ったりしながらも、悟の手がわたしの下腹部へ伸びてくる。
意味を成さない下着をさっさと取り払われたかと思えば、そこから、くちゅ、と水音が鳴った。

「濡れてる」
「ふ、あ……ひぁっ!」
「は、すっげ……傑とキスすんのそんなに気持ちいいの? もうぐちゃぐちゃじゃん」
「あぅ……んっ、……なに、悟も傑とキスしたいの?」
「だから気色悪いこと言うなって」

そう言うくせに、悟は顔を上げて、わたしと傑がキスしているところに混ざってきた。
三つ巴のキスになる。
上手く塞げないものだから、折り重なる口唇から涎がだらだらと垂れてくる。
仕方ないから、誰のものか分からない唾液を飲み下した。
ごく、と思ったより大袈裟に喉が鳴ってしまって恥ずかしい。
自分以外の唾液が食道を落ちる感覚に、お腹がカッと熱くなる。
ぐちゅ、ぢゅる、と酷い音が鳴って、ますます頭が馬鹿になっていく心地がした。

「あ、ぅ……っ、きもち、いい……」
「どこが? 口? 胸? 下のここ?」
「ひぁあっ!」

ここ、と問われると同時に、ナカに挿入された悟の指が膣内を掻き乱した。
たっぷりと濡れた内部を、ぐり、と押し拡げられて、ついでとばかりに硬く尖った敏感な突起まで擦られてしまえば、もうだめだった。
大きく仰け反って、三つ巴のキスから脱落してしまう。
もしかしたら軽くイッたかもしれない。
自分の体のことなのに、それすら分からなくなってしまうくらい、わたしの体はわたしから主導権も支配権も奪われていた。

「あぁ、んッ! ん、ぜんぶっ、ぜんぶ、きもちいいの……!」

悟の口が離れて寂しく思っていた乳首を、後ろから手を回した傑がいじってくれる。
悟の唾液を使ってぬるぬると擦られて、舌とは違う感触に腰が浮き上がってしまう。
だめ、きもちいい。
快感が生まれてこないところはどこもないんじゃないかってくらいに、全身が敏感になっているのが分かる。

悟と傑は、わたしが脱落した後もしばらくそうしてキスを続けていた。
男性らしい太い喉が、ごく、と上下しているのを間近で見上げて、なぜだか妙に興奮する。
系統の違うそれぞれ顔の整った男がキスしているのって、どうしてこんなにドキドキするんだろう。

「っ、傑の舌、きもちいー……なまえの気持ちもわかるわ」
「ん、さとるの舌は、長いね……私の喉まで届きそう、は、ぅっ」
「あぅ、ん、ぁああ……」

ふたりは互いにキスしつつも、わたしの体を撫で回す手は止めてくれなかった。
三人でいやらしい音と声をたくさんあげる。
背後の傑から胸を、正面の悟から膣襞をいじられて、ふたりはわたしを挟んでキスをしている。
――あまりにも現実離れした状況に、直接的な快感ばかりじゃなくて、視覚からも興奮が増してしまう。

ふたりの胸元の狭間で、わたしは酸素が薄い気がして息を荒げた。
やっぱり筋肉量の違いだろうか、物理的にふたりの板挟みになっていると、ひどく熱く感じられて息苦しい。
悟も傑も立派な体躯をしているから。
キスしているとふたりとも静かで良いけれど、盛り上がってわたしを潰さないでほしい。

「ん……悟の口、甘いね」
「は、ぁっ……どうせさっきまでまたおかし食べてたんでしょ……。最近あまいものふえてない? 虫歯になっても、っ、しらないから」
「虫歯菌ごときにやられる訳ねぇだろ、俺の術式が」
「っ、ん、それはちょっと羨ましいかも」
「術式をそんなことに転用するなよ……」

唇をちょっとだけ離して、そんな軽口を叩いて、またくっつけて、舌を絡めて、唾液を嚥下して。
つ、とわたしの胸元へ落ちてきた唾液をなぞって、また悟が鎖骨辺りに噛み付いた。

「は、あー……やべ、なまえ、もう挿れていい?」
「まだ全然慣らしてないだろ」
「こんだけ濡れてりゃ大丈夫。なまえはイく前に拡げられんの好きなんだよ」
「それ、悟がしたいだけだろう……。私は何回かイッてぐずぐずになったところにれる方が好きだけど」
「も、いいからぁ……」

はやくしてよ、とぐすぐす鼻を啜ると、ようやく悟たちはわたしが焦れていることに気付いたらしい。
気持ちいいところばっかり、ずっとふたりに攻められていたわたしは、もう限界だった。

傑は「ごめんね、なまえ」と謝ってくれるけれど、本心から謝罪している訳ではないということはしっかりはっきりバレているからね。
もし謝る気があったら、ひとの胸を相変わらず揉みしだいているはずがない。
謝罪か胸を揉むか、どっちかにしろと言いたい。
言えないけれど。
だって言おうものなら、問答無用で胸をいじめてきそうだし。

「んっ、あ、すぐる、胸、きもちいい……」
「で、どっちが先にする?」
「まずはなまえに聞くべきだろう」
「それもそっか。なーなまえ、どっちにれてほしい?」

平然とした顔であっけらかんと尋ねてくる悟に、思わずきょとんと目をしばたいた。
傑も揃って「どっちがいい?」と顔を覗き込んでくる。

「え、……どっちって、」

快楽でとろけた頭では即答できなかった。
まごついていると、悟が膣内へ埋めた指を急かすように動かす。

「ひ、ぁんっ!」
「喘いでないで答えろよ、はーやーく」
「だってぇっ……さとる、まって、ぁああっ」

すぐに選ぶことの出来なかったわたしに焦れたか。
やっとわたしのナカから指を抜いてくれた悟が、「じゃーんけーん、」と号令をかけた。
咄嗟に傑も片手を挙げる。

「ぽん!」
「あいこか」

……こんなときにじゃんけんって。
いや即答できなかったわたしも悪いのかもしれないけれど、じゃんけんて。
内心「ないわー」と思いながら、あいこが連続しているのを見て溜め息をつく。
本当に仲が良いことで。

放っておかれたわたしは、ようやく呼吸を整えるのに専念できたから、存分にぐったりしていた。
少しでも体力回復に努めたい。
あわよくば逃亡できたら、ふたりを相手せずに自分の時間を謳歌できるんだけどな……。

行儀悪くだらりと寝そべってベッド下へ手を伸ばす。
落下していた自分の携帯電話を拾い上げて、メール作成画面を開いた。
送り先は硝子。
「もし暇なら遊びに行ってもいい?」と文章を打ち終えたところで、残念ながら悟の大きな手が「はい没収ー」と携帯を攫っていった。
惜しい、あとは送信ボタンを押すだけだったのに。
画面を見た悟が「なに逃げようとしてんだ」と眉をひそめて、がちがちがちと電源ボタンを連打した。

「えー……ふたりが仲良いから、わたしも硝子のとこに遊びに行こうかなって」
「んなえろい反応してる体で? なまえってばそういうシュミだったワケ?」
「悟たちと一緒にしないでほしい」
「妬くなよいまから抱いてやるから」
「じゃんけんは?」
「……傑が勝った」
「という訳だから、ほら、なまえ、こっちおいで」

ベッドに寝転がっていた姿勢のまま、あっさり傑に捕まってずるずると腰を引き寄せられた。
聞き分けの悪い子どもを諭すような口調だけど、さっきまで悟とのじゃんけんで白熱していたところ見ていたからね。

「つらかったらちゃんと言うんだよ」
「ん、……ぁ、あ、すぐ、るっ……!」

後ろから挿入されて、くっと背が反る。
窮屈な肉の孔をこじ開けるようにゆっくりと押し進められて、思わずベッドのシーツに爪を立てた。
一生懸命力を抜こうとするけれど、大きくて硬いモノがずぶずぶと挿入はいってくるものだから、全身がびくっびくっと波打ってしまうのを堪え切れない。

「ッ、なまえ、大丈夫?」
「はぁっ、ああぁ……! だい、じょーぶっ……」
「は、ッ、きつ……ああ、悟が言ってたのも分かるな。無理やり、私の形にしていくみたいで……っ、興奮する」
「だろ?」

おすすめのお菓子が好評だったときみたいに、悟が誇らしそうに笑う。
常になく切羽詰まったような傑の様子が、どうやら気に入ったらしい。
なだめるようにうつぶせたわたしの頭をよしよしと撫でながら、もう一度傑にキスしていた。

全部挿入されたときには、もうわたしの体はわたしの言うことがきかなくなっていた。
崩れ落ちるようにベッドにうつぶせて、下半身だけ高く上げる恥ずかしい体勢になってしまう。
途方もない圧迫感で、ふっと意識すら途切れそうになるけれど、それすらじくじくと疼くような快楽と区別が付かなくなっていく。

「〜〜ッ、あぁぁあっ、奥、ふかいぃっ……!」
「っ、ふふ、なまえ……悟が限界みたいだから触ってあげて」

出来る? と継いだ傑のセリフは、一応質問の形式を取ってはいたけれど、「しない」という選択肢なんてないのは明確だった。
のろのろと、なんとか顔を上げる。
眼前には、悟のとっくに大きく硬く勃起したモノが突き付けられてた。
見事に割れた腹筋に付いてしまいそうなくらい反り返ったそれへ、唇を寄せる。
先端には透明な雫がぷっくりと乗っかっていた。
あ、溢れそう――と思ったときには、つい、舌先で先走りをぬぐい取っていた。
体勢的に手で触るよりも口でシた方が楽だったから、悟の腰に抱き着く。
たっぷり分泌された唾液と一緒に、ずるりと口内に迎え入れた。
大きなソレは火傷してしまいそうなくらい熱くて、ただでさえだめになっていた思考回路が加速度的に煮崩れていくのを自覚する。
奥まで咥え込んだまま舌の腹で裏筋を撫で上げれば、口のなかでビクッと悟のものがふるえた。

「う、ぁッ……やばい、なまえ、」
「んぅ、む……っ、こうするの、きもちよくない?」

喉の奥で先端を強く圧迫すると、悟が焦ったように「きもち、いいけどッ……」と息を荒げた。
傑の言う通り、本当に限界だったらしい。
顔だけじゃなく肩も真っ赤で、色素が薄いせいかそれが顕著だ。
いっつも好き勝手やっている悟に意趣返しできたみたいで、気分がいい。
見上げたまま、ざまあみろと目を細めると、思っていたことはしっかり伝わってしまったらしい。
腹立ちまぎれとばかりに喉奥をぐっと突き上げられて、えずいてしまった。

「ん"ッ! ぅ、ぐ……っ、うぇ、さと、……っ、ん"んっぇ"、」
「はっ、いまロクでもないこと考えてただろ、なまえ」
「そんなに乱暴にするもんじゃないよ、悟」

可哀想に、と同情するような口ぶりのくせに、傑も容赦なく腰を打ちつけてくる。
苦しい。
でも気持ちいい。
快楽と苦痛とがごちゃまぜになって、頭がどうにかなってしまいそうだった。
挿入されながらキスをされるのが大好きなわたしは、口のなかを大きなモノで埋められて、擦られていると、それだけで気持ち良くなってしまうんだと気付いた。
酸欠と相まって、ふわふわと意識が白んでくる。

「ん"っ、ンぅっ! は、ぅ……ッ、ぁ"ん」
「あーなまえ、すっごいえろい顔してる」
「私にも見せて」
「ん、ほら、なまえ、傑が顔見たいって」

ぐい、と悟から無遠慮に頭をつかまれて、顔を上げさせられる。
悟の大きな手には、わたしの頭なんて簡単に収まってしまう。
髪を掻き上げられ、無理やり背後を顧みさせられる。
頭も首も痛んだけれど、好き勝手に扱われているのに、怒りよりも先に「気持ちいい」が来てしまうんだから、どうしようもない。

どろどろにとろけたわたしはきっと酷い顔をしている。
酸欠で顔は真っ赤、喉を圧迫されて涙が滲んでいるし、涎だってもうぬぐっても意味がないほど溢れている。
到底正視に堪えないぐずぐずになった有り様にも関わらず、これ以上ないってほどやわらかく目を細めた傑は、褒めるようにわたしに口付けた。

「ぁ"、あ……! っ、ふ……っ」
「ふふ、本当だ、きもちよくて仕方ないって顔しているよ。そんなに悟の美味しい? は、っ、いつもより締め付けてる気がする」
「し、しらな、……んっ、んぐ……ぅっ」
「まーた傑とキスすんのに夢中になりそうだっただろ、なまえ。口離すなよ、もう出そうだから」
「は、っ、悟、早くない?」
「ウッセ、傑も白々しい顔してるけどそろそろ限界だろ」
「悟ほどじゃないさ」

交わす軽口は相変わらずだけど、ふたりの息は獣じみて荒い。
がつがつとわたしの喉や胎に打ち付ける動作も、余裕が感じられなくなってきた。
射精しそうなんだ、と気付いて、きゅう、と胸が熱く疼いた。
いつも余裕綽々なふたりが、呼吸を乱してわたしで気持ち良くなっているところを見るのは、他に比べるものがないほどわたしを昂らせた。

「は、あ……なまえ、顔、かけていいっ……?」
「ん、ん"ぅっ……!」
「なまえ、私も、……っ、かけさせて」

気管を圧迫する亀頭が、一際笠を開いたと思ったら、悟が後頭部をぐっと押さえてきた。
苦しくて顔をしかめる。
酸素を求めて口を開ければ、引き抜かれた悟のものから勢いよく白濁が噴き出た。

「っ、あ、なまえっ……!」
「〜〜ッ! ひっ、うぇっ……ぁーっ……!」

降り注ぐ精液に顔を汚されながら咳き込んでいると、そのあとすぐにナカから引き抜いた傑も、わたしの背へ射精した。
お尻から背中にかけて熱い飛沫が散って、ぶわりと全身から青臭いにおいが立ち上った。
精液漬けにされて、嗅覚まで馬鹿になってしまったみたい。
無体を強いられて体がばらばらになってしまいそうな錯覚に、わたしはふたりにされるがまま、びくっ、びくっ、と痙攣するしか出来なかった。

「はー……えっろ」
「は、ぁ……はは、ぐちゃぐちゃだね」
「……はあッ、は、ぁ……――っ、目に、はいりそう……ふいて……」

ぐったりとベッドに崩れ落ちて、息も絶え絶えに目を閉じる。
顔面へ射精されて、顔だけじゃなく髪までどろどろになってしまった。

たっぷり顔射してくれやがった悟が、「へーへー」とタオルで拭いてくれるけれど、手付きが雑。
一応女の顔なんだから、もっと優しいほしい。

「つ、つかれた……もう寝たい……」
「え、俺まだれてねーじゃん」
「ふふ、悟は元気だな」
「他人事みたいな顔してんじゃねぇよ。俺らがヤッてる最中に、どうせ"私も交ぜて"とか言い出す気だろ」

バレたか、と笑っている傑は、わたしの背を拭いてくれた。
甲斐甲斐しく世話してくれる傑に任せて、ぐったり寝そべったまま、悟たちをぼんやり見上げる。

「ねえ、意思疎通って言葉しってる……? むりって言ってるんですけどわたし……」
「知ってる知ってる、なんだかんだ言って気持ちいいの大好きななまえのことは、よーくな」
「それに、本当に無理なときは"無理"って言わないだろ、君」
「ええ……」

まるでわたしのことを理解しているようなことを吐くふたり。
なんでそんなに自信満々に言い切れるんだと胡乱な目を向けていると、さも当然とばかりに傑は微笑んだ。

「好きな子のことはよく見ているものさ」
「……え、まって、……傑、わたしのこと好きなの?」
「なんで俺のことさらっと除外してんだ」
「は?」
「は?、じゃねーわ。好きでもない奴とヤるほど暇じゃねぇだろ。俺も傑も」
「……初耳なんですけど……」

今日一番の衝撃だった。
いや今日一番っていうよりここ最近で一番。
射精された余韻すら飛びそうなくらいの。
――ふたりとも好きなの? わたしのこと?
呆然としているわたしに、なんとも言えない顔をしたふたりが、こそこそと話し合いタイムを開始した。

「悟、初めてだった女の子に好意も伝えてなかったのか?」
「おんなじセリフそのまま返す」
「わたしのときはもう処女じゃなかっただろ。抜け駆けした悟が抱いた後だったから」
「ハァ? 傑くんってば、処女にしか優しくしないタイプ?」
「誰がそんなこと言った?」

ていうか三人とも未だ半裸で(うち一名わたしは全裸だし精液まみれだし)、ああだこうだ議論している状況、なかなか滑稽じゃない?
少なくともわたしは逃げたい。
頭が回っていない自覚もあるし。

「わー……どうしよう、ちょっと硝子のところに相談いってきていい?」
「なんで。当事者三人がここにいんだからここで話せばいいだろ」
「だって、……ええ……?」
「で? なまえはどっちと付き合う?」
「えっ、いま決めなきゃだめなの? ここで?」

含み笑いで「またじゃんけんでもする?」と首を傾げている傑をにらむ。
この前まで処女だったわたしは、男の子とお付き合いだってしたことない。
順序とか情緒とか、なんかもう色々と滅茶苦茶な気はするけれど、こんなことまでじゃんけんで決められてたまるか。

馬鹿じゃないの、となじってやろうとしたわたしより先に、しかしにんまりと口角を吊り上げた悟が、本日二度目の号令をかけた。

「んじゃそうするか。じゃーんけーん、」
「えっ」

ぐ、と悟に右手を引っ張られ、つい反射的に手を出す。
悟と傑はチョキ、わたしはグー。
グーを選択したというより、引っ張られたのにびっくりして反射的にてのひらを握っただけなんだけど。

「……この場合、どうなるんですかね……」

ていうか悟、なんでわたしまでじゃんけんに参加させたの。
わたしが勝っちゃったし、これ意味ある?

「なまえのひとり勝ちじゃ仕方ねーか。俺たちふたりと付き合うとかマジでめちゃくちゃ贅沢だな、お前」
「まあ負けちゃったしね、私たち」
「いやいやいやいや」

さも殊勝げなセリフとは裏腹に、心底楽しそうに笑っている悟と傑。
わたしはもう一度、冒頭のセリフを呟いた。

「ふたりとも正気?」


(2021.02.05)
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