(※第四集巻末おまけマンガネタ女体化再び)
(※百合、男女分裂、口調捏造、拘束、諸々ご注意)
(※何度でも言うけれどもマジで深く考えてはいけない)




「…… 一而再再而三 二度あることは三度あるとはよく言ったもんだが――なあ、さすがに釈明を求めんのも道理だろ」
「ご覧の通りだけど。わざわざ説明が要る?」

帰投して、平生恭しく「お帰りなさいませ、旦那さま」と出迎えるはずのなまえが姿を見せなかった時点で、張は嫌な予感・・・・と呼ぶにはいささか確度の高い、諦めじみた情動を覚えていた。
歩を進めれば、案の定なまえは寝室にいた。
重ねて彼の予想通り、小鳥一羽だけではなかったが。

広いベッドに横たわってのんびりと紫煙をくゆらしているのは、女の性を有した「張維新チャンウァイサン」である。
性差こそあれ、見てくれも禀性ひんせいも元が同じなのだから大した違いはないと思っていたが、しかしなかなかどうして性根の方は、おのれより遥かに悪辣あくらつと言わざるをえなかった。
我が物顔で煙草を吸う彼女の横で転がされていたのは、本来ベッドの主のはずのなまえだった。
横になっているというよりもまさしく「転がされている」とする以外に、的確な表現もそうないだろうなまえのありさまを見下ろして、張は顔をしかめた。
数刻ばかり不在だった間に思いを馳せ、肺の奥底から重い溜め息を吐き出した。

「お前、これ・・よりも物覚えが悪くないか? ヒトのもんに手を出すなって言ったはずなんだが」
「あ、お勤めゴクロウサマ」
「ひ……ぅ、ぁー……っ」

口の端にジタンを沿わせたまま、女性の方の張がひらりと手を振った。
ねやに響く、なまえの弱々しい嬌声をBGMにしながらだ。
シャツとスラックスを召した女主人とは対照的に、その隣のなまえは一糸纏わぬ姿だった。
これ以上ないというほど紅潮した総身は汗でしっとり濡れ光り、たといその肌にふれたことが一度たりとてない局外者でも、つい手を伸ばしてしまいたくなるほど蠱惑的なやわらかさを視覚だけでたっぷり伝えてきた。
それだけでも張を不機嫌たらしめるには十分だったが、てて加えてなまえは後ろ手に拘束されていた。
肘を曲げて束ねられた前腕ぜんわんには、ご丁寧にも傷が付かないようにタオルを巻き、その上からベルトで拘束しているらしかった。
そのやさしさ・・・・は別のところで発揮できないものかと問うてやりたい。
あまつさえ、黒いネクタイによって目を覆われ、耳はヘッドホンで塞がれているとあっては、さすがの張も閉口せざるをえなかった。
なまえのちいさな頭には不釣り合いな仰々しいヘッドホンは、どこから持ち出してきたのやら、なにかを再生中らしいラジオカセットへコードが伸びていた。

無言のまま、張はおのが耳を指さした。
灰の長くなった煙草を灰皿へ放りながら、女の方の張があっけらかんと「ん? ああ、なまえが聞いてるもの? 自分の声」と言い放った。

「さっきなまえが喘いでいたとき録音してたの。自分の声を聞いて、なにされていたか逐一思い出して、また気持ち良くなってるなんて……あんなに嫌だ嫌だって抵抗してたけど、なまえも大概スキモノだよね」
「なにやってんだお前……」

どっと疲労感に襲われ、張は深々と溜め息を吐いて脱力した。
その場にしゃがみ込まなかったのが、我ながらよく耐えたと自賛してやりたかったほどである。
金糸雀カナリアはともかく、断じてこの街に稠密ちゅうみつする商売敵共には見せられまい。
ともあれ広い寝台を占拠している女ふたりは、そんなことに頓着する――できるはずもなかった。

主人たちの会話の間も、なまえは終わりの見えない拷問じみた快楽に身をふるわせていた。
唯一自由な下肢が、逃げるようにシーツを蹴るものの、その爪先も弱々しい。
可憐な唇からこぼれるのは意味を成さない喃語なんごばかりだ。
平生の愛らしい嬌声さえずりは鳴りを潜め、ふれられてもいないのに時折びくっと膝が揺れては「ひ、ぅっ」と細い悲鳴が漏れている。
なまえのあまりにもいたましい声に、張は「なんだこのザマ」と呻いた。

「だってなまえが強情に抵抗するから。こんなに聞き分けが悪かったはずじゃないんだけど」
「お前とふたりきりになるな、接触するなって言いつけてたからな」
「ああ、通りで。あんまり拒否するもんだから、結果的にこうなっちゃったんだよね。あんたの命令のせいだったのかー」

特殊と呼ばれる領域へ片足どころか両足を突っ込んだプレイの主犯は、いけしゃあしゃあ「可哀想に」と笑いながらなまえの頭を撫でた。
視覚のみならず五感の半分以上を奪われているいま、些細な接触に過敏にもなるのも当然だろう。
なまえの細い肩がびくっと跳ねた。

「や、やら……も、たすけ、て……ぁ」
「もー……意固地なのは誰に似たんだか」

久しぶりに意味のある語を口にできたかと思えば、依然として拒否と助けを求めるセリフだったため、女主人は苦笑した。
甘怠い声音はやさしさのようなもの・・・・・・まで含んでいたが、蹂躙されたなまえの窮状を前にしての言は、むしろただそら恐ろしいだけである。

と、悪趣味が過ぎる女は、なにかまた良からぬことを思いついたとみえる。
くすくす笑いながらヘッドホンを片耳だけずらし、なまえの耳元へ何事か吹き込んだ。
なまえがしゃくりあげて泣いているため、張のところからは彼女がなんと言ったのか聞き取れなかった。
囁かれたなまえが、舌っ足らずながら「やめて、いやです」と必死に繰り返している様子から、ろくでもないことだろうという点だけは確かだったが。
もしも彼が自分をダシに使われたことを知ったなら、苦りきった顔がますます渋いものになっていたに違いなかった――「ねえ、なまえのことだから気付いてるよね? いまこの部屋に男が入ってきたの。なまえがやらしくなっているところを見てるよ」。

彼女はなだめるようにやさしい手付きでヘッドホンを元に戻し、なまえがふるえているのを、また横に寝そべったまま鑑賞し始めた。
時折、戯れのように腹や腰を撫でており、そのたびに律儀にびくっとふるえるなまえは本気で怯えているようだった。
もうゆるして、おねがい、とうわ言を繰り返していた。

「……そもそもこれ・・は俺のもんだって何度言やわかるんだ」
「ンなつまんない与太いつまでも垂れてないで、ほら、はやくさわってあげたら? ずっとあんたのこと呼んでいたの、可愛くてねえ……ほんと、健気だったんだから」

さすがに見かねた張は、ねじくれた面持ちでふたりが横たわっている寝台へ腰掛けた。
外したサングラスを荒っぽい所作でナイトテーブルへ放った。
未だにやにや笑っている女の言う通りにするのは、それはもう、非常に、とんでもなく、不愉快ではあったが、しかしだからといってこの惨状を放棄して退散できるはずもない。

「ひっ……」

男の身を受けて僅かにベッドがそちらへかしぎ、なまえは短く悲鳴をあげた。
誰なのかわからない――否、なまえの主である張維新チャンウァイサン以外、そう易々やすやすとこの深窓しんそうへ足を踏み入れられるはずがない。
しかし視覚も聴覚も制限されているいま、絶対に飼い主だと断言できないのもまた事実だった。
薄いとばりの下りていた寝台には、嗅覚すらも塗り潰すかの如きジタンの薫香が未だ濃く漂っているとなれば、尚のことだ。

「いやぁっ……だんなさま……!」

なまえは全身を強張らせ、懇願めいて、いるはずの主を呼んだ。
あまりの怯えように張はますます眉根を寄せた。
――そんなシュミはないと一笑に付せられればどれだけ良かったか。
自らと同一のものはいえ、他人の手でお膳立てされた淫らな飼い鳥の姿は非常に業腹ではある。
おのれが不在の間に、なまえが、どんな顔を、声を、反応をさらしたのか、どうやってふれて、ふれられたのかと考えると、臓腑を焼かれるような苛立たしささえ湧き上がった。
しかしながら、両の手指では足りないほどの歳月をかけて彼が育て上げた姦濫かんらん愛玩物ペットが、自分を求めて憐れに泣いているさまに、眼下の光景に煽られていないといえば――それは。

「ふふん、なんだかんだあんたも乗り気じゃん。なまえ、かわいいもんねー?」
「もし口を閉じれるんなら善処してくれ、萎える」

平生の饒舌さごと、引き抜いたネクタイを乱雑に放り投げる張維新チャンウァイサンに、女はにんまりと笑んだ。
垂れ気味の甘ったるい目元が容貌の愛らしさに拍車をかけているが、いささか享楽趣味の傾向きらいが強すぎるのではないだろうか。
チェシャ猫じみた笑みのまま、彼女は再度なまえのヘッドホンをずらして耳穴へふうした。

「ふふ、ねえ、なまえ、これ誰だと思う?」
「っ、いや、やめて、やめてくださ――ひッ、いや、いやぁっ」

逃げる柳腰を男の大きな手が捕まえた。
平素の冷静さがすこしでもなまえに残っていたなら、その手が、ふれ方が、唯一無二の飼い主のものだと気付けたかもしれなかった。
しかしさすがに長時間、肉体的にも精神的にも甚振られていたなまえに、そこまで勘考しろというのは酷というものだ。

「は、ぁ"っ……! ぁ、ああぁッ!」

一体どれだけ嬲られたのだろう、媚粘膜はとっくに爛れそうなほど熱くぬかるんでいた。
浅ましいほど濡れた蜜口へ、おもむろに硬いモノが擦りつけられたかと思えば、笠の開いた亀頭が隘路へ押し入ってきた。
姫割れはそのちいさな唇を開いて、到底見合わぬサイズの屹立を呑み込んだ。
豊潤な愛液に任せて一息に根元まで埋め込まれ、膣口からしたたるほど大量に分泌されていた蜜液が、じゅぷっと下品なまでの音を立てて溢れ出た。
ようやくナカを埋めてくれた、大きく、太い剛直に、とろとろやわやわにこなれた媚肉は歓喜して離すまいとするかのように蠢いた。

無理やり内臓を押し上げられるかの錯覚に、彼らが残した噛み痕や吸い痕の散らばる白い喉をさらして、なまえは声にならない声をあげた。
拘束された総身ががくがくっと波打った。
どうやらただ挿入されただけで絶頂に至ってしまったらしい。

「あ……は……ぁーっ……」
「あーあー、盛大なイキっぷり。イキたいイキたくないってずっとパニックになってたけど。良かったねえ、なまえ」
「ッ、はー……どれだけ焦らしたんだ。腹ん中どろどろじゃねえか」
「時計は見てなかったな。んー、二時間くらい?」
「鬼か」
「だって、この可愛い口で可愛くないことばっかり吐くんだもん」
「だもんとか言うな薄ら寒い」

彼女と贅言ぜいげんを叩きつつ、張は汗で頬に張りつき、口へ入ってしまったなまえの髪を除けてやった。
無骨な手とは裏腹に、ふれる男の指先はいつものように穏やかではあったが、反対の手はやはり逃げたがるなまえの柔腰をしっかりとつかんでいる。

「あ、ひ……ぅ、いやぁ……」

離すまいとぎゅうぎゅう締めつけてくる膣粘膜とは対照的に、塞ぐことすらできなくなったなまえの可憐な唇は、だらしなく啜り泣きと唾液とを垂らしていた。
夜を連想させる黒髪が白いシーツになまめかしく散る。
後ろ手に拘束されているため、思うように体を動かせないのだろう。
束ねられた両腕を下敷きにしているせいで、くっと上体が反らされ、汗みずくの乳房が律動に合わせて卑猥に揺れた。
大きく開かされた脚がふしだらに宙を掻く。
さながら糸の切れた人形じみて、されるがまま揺さぶられるなまえの被虐の姿は、筆舌に尽くしがたいほど淫猥だった。

「えー、外しちゃうの? もうちょっと楽しめばいいのに」
「お前は充分遊んだだろうが」

抽挿ちゅうそうの合間、なまえの目元のネクタイを解こうと張が手を伸ばすと、だらりと寝そべったまま鑑賞していた女が不満を訴えた。
まだこの女を嬲る気かと、張は口をひん曲げた。
なにしろ戻って以来、一度もまともになまえの顔を見ておらず、途切れ途切れに未だか弱く抵抗している呼吸もそろそろ危うくなってきた。
皆無に等しいレベルとはいえ、なにせいまのなまえの精一杯の拒否である。
このまま凌辱するのも一興ではあったが、こちらを求めてくるなまえの淫らさを誰より知っている飼い主は、そろそろ淫欲に堕した彼女のねだり声を欲していた。
ネクタイの結ばれた頬へ手をすべらせた。

「っ……ふ、うぅ……やめて……やら、さわらないで……」
「ほらなまえもこう言ってることだし」
「間違いなくお前に対してだろうな」

どれだけなまえが暴れようと外れなかったはずである。
ネクタイは存外きつく結ばれていた。
目元のいましめをほどくと、涙で濡れた布切れはじっとりと重さを増していた。
惨憺たる末路を迎えたネクタイは、男物――自分の私物だった。
なまえが主人のものをこんな用途に使うはずがない。
大方、擦れて真っ赤になってしまった彼女の目元を撫でながら、「なまえー? あれ、意識とんでない?」と悠々閑々小首を傾げている女が、勝手に持ち出したに違いなかった。

次いで、邪魔くさいヘッドホンも取り払ってやった。
粗雑に放られたそれからは、なまえのあられもない声がかすかに漏れ聞こえていた。
耳には目蓋がない。
なかんずく誇り高い金糸雀カナリアのことだ、これを強制的に聞かされ放置されていたのは、拷問以外のなにものでもなかっただろう。
ノイズ混じりの細声は弱々しく、しかし懸命に彼を求めていた。
おのれでも驚くほどの劣情を覚え、煮え滾る欲の塊を吐き出すように、張は、はッと荒く息をこぼした。
くぐもった嬌声がリアルタイムのなまえの肉声と重なって、男の思考を加速度的に駄目にしていく。
あるいはラジオカセットが手近にあったなら、衝動的に殴りつけてでも音声を止めていたかもしれなかった。

「っ、だんなさまぁ……!」

目隠しを解かれても気でも違ったかのようにしばらくなまえの瞳はゆらゆら揺れていた。
口の端から涎を垂らし、意識も朦朧としている。
しかしようようとろけた双眸が張維新チャンウァイサンに焦点を合わせた瞬間、はっきりと意思を持って、途方も無い安堵と情愛、そして歓喜にまたたいた。
同時に、咥え込んだ極太の陰茎を膣孔がきゅんっと締めつけた。

「ッ、なまえ、」
「あぁっ、だんなさま、だんなさまぁっ」

身も世もなく嬌声を高くあげる姿は恐ろしく淫猥だった。
恥じる理性も余裕もとっくに失われているだろう。
自分を犯してくれている張へ、なまえはぐずぐずにとろけた肉体同様、浅ましい濡れ声で媚びるように鳴いた。
桃色の唇は幸福そうな弧を描き、嬉しくて堪らないと満身で伝えてきた。

「あーもう、なまえってば、あんなに気持ちよくしてあげたのはあたしなのに。突っ込まれてそんなに喜んでるの、妬けるなー」
「……お前まさかとは思うが、これ・・に他のモノれてねえだろうな」
「シてないよ。自分以外のものがなまえのナカ知るの嫌だもん。あんただってそうでしょ。大体、あんだけ犯しといて具合でわからないもんかねえ」

心外だとばかりに顔をしかめてみせて、彼女はなまえへ口付けた。
ぢゅるっと淫らな水音を立て、溢れたなまえの唾液を舐め取りながら、雄を受け入れている下腹をゆっくりと撫でた。

「ねえ、なまえ?」
「ぁ、ん"んっ、ふ、……ッ、やめ、」

まるでいまここに男のモノが挿入はいっているのだと教え込むかのように、ぐっと下腹をされ、なまえは弾かれたように目を見開いた。
うつくしさよりも愛嬌の勝る顔貌を女主人が陶酔に染めているさまは、どうしてだろうか、神経をおかす猛毒を連想させた。
彼女がなにをするつもりなのか――一拍遅れて察したなまえは、全力で体をよじった。
未だ両腕を背の下に拘束されたままとあっては、大した身じろぎもできやしなかったが。

もう身体のどこをさわられても頭がおかしくなりそうな喜悦に襲われているというのに、なまえの当たってほしくない予感通り、婬虐暴戻いんぎゃくぼうれいなる女主人のてのひらはぐちゃぐちゃにほころんだ淫唇へゆっくりと伸びてきた。
男の太い肉杭を咥え込まされた蜜口の、すぐ上。
赤く膨らんだ敏感な突起を女の細指に押されて、なまえの肌が一気に総毛立った。
大きく開脚させられたなまえの内腿がぶるぶるとふるえた。
同性ということもあってか、肉芽をくすぐる繊手せんしゅは恐ろしく巧みだった。
力加減は強くはなく、しかし決して逃げられぬまま、痛いほど張り詰めた陰核をゆるゆると擦り上げられ、なまえの鼻先へばちばちっと火花が散った。
ぐっと白背が弓なりに反り、短い痙攣ののち、縛られた腕ごとまたシーツへ落下する。

「ひ、あァあ"あっ……! やぁっ、やめてぇっ」
「よしよし、そんなに暴れないでよ、なまえ。目や耳だけじゃ足りない? また足も縛られたいならそう言ってね。口はやだってわがまま言ってたっけ?」
「ひ、うぅ……! やら、あれ・・はっ、もう……! ふ、うう〜っ……ごめんなしゃ、ぁッ、ゆ、ゆるして、わがまま、いわないから、」
「ふふ、いい子だね」

――「あれ」ってなんだよ。
そう思ったが、張が直截に問うことはなかった。
自分が不在の間、どれだけ酷い目に遭わされたのやら。
被害者は明らかになまえの方だった。
にもかかわらず、つたなく「ごめんなさい」「許して」と泣きながら懇願するさまは調教じみて、というよりまさしく調教の結果、いられた為様しざまである。

どちらにせよ、終わらせなければこの女は満足しないだろうし、なまえもこの状態で放置されるのはつらいだろう――と考えるのは、煽られた男の都合の良い辞柄じへいだと認めるのにやぶさかではなかった。
張は辟易してなまえの腹奥を突きながら、女同士の淫靡な口付けを見下ろした。

「あッ、あッ、は、ぁんッ……、――っ、う、く、っ」
「んぅ……ほら、ちゃんと息して、なまえ」

不安定な呼吸を繰り返すなまえの顎をつかみ、女性の方の張が促すものの、果たしてどの程度聞き取れているのか怪しいものだ。
よく知るものよりちいさくやわらかな唇に口を塞がれ、ただでさえまともな呼吸ができていなかったなまえは苦しげに眉をたわめた。
しかし吸われ絡められる舌は、容赦などしてくれない。
ぐちゅぐちゅと脳の近いところで猥雑な粘音が鳴っている。
口腔や舌すらもすっかり快楽器官として仕込まれたなまえは、その口付けに陶然とふけった。
膣奥を突き上げられる直接的で圧倒的な喜悦と、口内を蹂躙されるずくずくと蓄積していく深い愉悦――昔から、張維新チャンウァイサンの小鳥は上の口と下の口を同時に塞がれるのが特にお気に入りだった。
快感と酸欠のせいでふわふわ白む意識のなかで、なまえはとろりと相好を崩した。

繊細な女主人の唇と細指に翻弄され、なまえの媚襞は、凶悪なまでに膨れ上がった男の肉竿をますます甘く締めつけた。
膣内がぎゅうっと引き攣れ、張は思わず「は……っう、」と息を詰めた。

「あれ、もう限界? まだなまえの方が我慢してたよね?」
「――なあ、俺が女を殴りつけるシュミに目覚める前に、口は」
「閉じてろでしょ。はいはい」

まったく意に介した様子のない女を張はめつけるも、しかし揶揄は黒星だったと言わざるをえなかった。
こめかみを伝い落ちる汗が鬱陶しい。
眼下より降る灼けつくようななまえのねだり声に、むせ返るような女の芳香に、頭蓋の奥が揺れる。
雄を悦ばせるためだけにあるかのような悩ましげなラインを描くなまえの腰をつかみ、彼は荒く息を継いだ。
背筋から腰骨にかけ、熱く焦げつきそうな耐えがたい錯覚に襲われていた。
喜悦を堪えるよう顔を歪めている男を見上げて、声音ひとつ、眼差しひとつで雄を堕落させるすべを持つ魔性が、口付けの合間に「だんなさまぁっ」と問いの意を含んで鳴いた。

「んぅ……んッ、あぅ、あァんっ、だんなさまぁッ、ね、っ、きもち、いい……?」
「ッ、く……、ああ、」
「ふ、ぁっ、ああぁッ、うれしいっ、なまえッ、うれしい、れすッ」

飼い主の余裕を欠いた短い肯定を受け、喜色満面になまえは媚び声をほとばしらせた。
聞き取りにくいほどとろけたメスの声で「なまえで気持ち良くなってくれてありがとうございます」とすすり泣いた。
煮詰めた糖蜜といえどこれほど甘ったるくはなるまい。
度数の高い酒を一気にあおるような高揚と酩酊により、頭の芯が鈍るような心地がし、張は堪らず感嘆の溜め息を吐いた。
吐いた息は爛れんばかりで、その熱さに自分が驚いた。
もう幾許いくばくも残されていなかった理性が完膚なきまでに陥落するのが、常から怜悧な彼にはありありとわかった。
もしも傍らに邪魔な女がいなければ、なまえをめちゃくちゃに掻き抱いて甘やかして、この行為に没頭していたかもしれなかった。

「あー、かわいい。なまえ、ほら、あたしとキスしてよ」
「ぁ"、ん"んッ、ぁんッ、まって、くらひゃ、ひ、んッ、またいっちゃ、〜〜っ! あ"ぁああア"ぁっ」

恥ずかしげもなく勃起しきった乳首を、くにゅーっと引っ張られ、なまえは声も出せずがくがくっと柔腰を跳ねさせた。
男の容赦のないストロークで突かれる膣襞はずっと収斂していた。
最早、自由にならないおのが身すら、飼い主に支配されているという隷従感と繋がって、いまのなまえにとって快感だった。
ただでさえ「逃げられない」のだと教え込むように、張の大きな手にがっちりと腰をつかまれているだけで、なまえはひどく昂ってしまうものだった。
それなのに加えていまは、女主人のしなやかに手に激しい律動に合わせてたぷんと揺れ弾む乳房を握られ、快楽神経の塊のような薄紅色の陰核までくすぐられているとなれば――飼い主たちから与えられる狂乱的な悦楽は、なまえの許容量をとっくに超えていた。

自分の身体だというのに、もう、達しているのかそうでないのかすらわからない。
肉体も精神も、ぐちゃぐちゃになっていないところなどどこもなかった。
にもかかわらず、幾年いくとせもかけて躾けられたなまえの肉体は、飼い主の変化を従順に感じ取っていた。
慣れ親しんだ射精の兆候は、いくら理性や思考を放棄しようとも、更に深いところに植えつけられた感覚である。
いつものように膣内を埋め尽くし、忘我の法悦を与えてくれる濃厚な精液を求め、調教済みのメスの本能がより一層膣奥をきゅうぅっと収斂させた。
極上の締めつけに低く呻き、張は笠の開いた亀頭で最も奥深いところをぐっと押し込んだ。

女との口付けの合間、なまえは呂律の回らない舌で口走った。
ほとんど無意識に「なまえのなかにください」と。

「っ、なまえ、」
「あ"、〜〜ッ!」

とろみのある灼熱の飛沫が最奥へぶちまけられる。
射精の勢いはどぷっと実際に音が聞こえてきそうなほどだった。
他でもない飼い主から余裕を欠いた声音で呼ばれ、最中、名前を呼ばれるだけで気持ち良くなってしまうなまえは、頭と子宮が沸騰したまま声にならない悲鳴をあげた。
待ち望んだ雄の白濁汁で強制的に胎を満たされる圧倒的な幸福感のため、楚々としたかんばせを被虐を噛み締めるような笑みに染めながら、なまえは何度目かわからない絶頂に跳ね上げられた。

「……あれ、なまえ? あーあ、また意識がとんじゃったか。さっきも何度か失神してたけど。やっぱりこの子も、ある程度は鍛えさせた方が良くない? 可哀想じゃない?」
「……どの口が言えんだよそんなこと」

張は普段よりぐったりとした様相で呻いた。
吐精直後とはいえいつにも増して感じられる倦怠は、十中八九この女が原因だった。

彼はようやくなまえの前腕ぜんわんの拘束を解き、くたりと力の抜けた肢体を解放してやった。
しとねへ崩れ落ち、意識もないのに時折びくっびくっと痙攣しているさまは、まるで無理やり凌辱されたかのようだった。
本人の意思とはお構いなしにという点を考えれば、あながち間違いでないが。

「……だんな、さま……?」

擦れて真っ赤に腫れてしまった目元を労るように撫でていると、ふとなまえの目が開いた。
といってもぼんやりと放心したままで、焦点も定まっていない。
ちいさな唇は音を発することがほとんどできていなかったが、張は掬い上げるように「どうした、なまえ」と応えた。
シーツに埋もれた顔を覗き込むと、なまえは主人へ抱き着こうとした。
が、もどかしげに細腕を揺らすものの、長時間縛られていたせいでまともに動かないらしい。
朦朧としつつもなまえは泣きそうに顔を歪めた。
華奢な肩関節が、ぱきっと嫌な音を立てた。

見かねた彼が抱き上げてやれば、なまえは赤子のようにふにゃりと頬をゆるめた。
張の腕のなかにいることに安堵したらしい。
いとけない笑みのまま、なまえはまたも気を失ってしまった。

「……お前、こんなか弱い小鳥をよくもまあここまでしいたげられたな……」
「あたしはあんたと同じなわけだけど、なにそれ自虐?」

張は情けなく眉をハの字に下げて「そもそもお前いつまでいるんだよ」と呻いた。
この不可思議な事象がどれだけ続くかいまのところ判然としないが、とりあえず飼い鳥のためにもそろそろ退場願いたいところだった。
完全に力の抜けきったなまえの体を抱えなおし、寝台を下りた。

「あ、風呂に入れてあげる? あたしも一緒に入ろっかな」
「お前は来るなよ」
「はあ?」
「お前に預けるとろくでもねえことになるだろうが」
「だからぁ、それ自虐かっての」


(2021.04.13)
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