限界を訴える甘ったれた嬌声は、もうこれ以上は耐えられないとばかりに濡れておりました。
揺れる媚声は、仄かに漂う薔薇の香りに色を添えるようです。

「ひぅ……ぁ、ンぅっ、す、すばるさまぁっ……! あ、あうぅ……なまえ……なまえ、もうっ……!」

絢爛豪華な、しかしただ華美なだけではなく、重厚な落ち着きを品良く保っている瀟洒な家具たち。
懐古趣味がかったアンティークに囲まれたなまえは、さながらひとつの調度品のようでした。
――それも、とびっきり淫猥な。

なめらかな白磁の肌は桃色に上気し、伝う汗は甘露もかくやとばかりに瑞々しく、そして、乱れ首筋に張り付く黒髪のなまめかしさときたら。
元来楚々とした愛らしい容貌がそうして淫らに歪められているさまは、はっとするほど凄艶でした。
見る者全てを煽り立てるにはあまりある淫蕩さでもって、快楽に溺れた雌はその汗みずくの裸体をみだりがましくくねらせております。

「もう、……なんですか?」

喉の奥で笑うように、昴さまが低く囁きます。
甘さすら感じられる昴さまの声音は、ひどく軽やかなものでした。
節くれだった大きな手、繊細な指先で、なまえの太腿をゆっくりと擽(くすぐ)る手付きと同じように。
シンプルなフレームの眼鏡が、照る陽を反射して時折光ります。
レンズ越しの双眸はやはり細められたままです。
涼やかな美しい目元がこれほど恨みがましく感じることはないと、ぐずぐずにとろけた肢体をもてあましながらなまえは思いました。

――ようやく触れていただける。
そう思うと、「お部屋」に辿り着くまでの廊下で、不埒な男に襲われてしまったときから――いいえ、目が覚めて「お世話係」のバーボンに着替えを手伝ってもらっていたときから、ずっと淫らな疼きを感じていたなまえは、安堵すら覚えておりました。
それのみか挙げ句の果てに、度重なる催淫剤や、猥褻な観賞会により、性的欲求と熱は既に耐え難いほど高められていたのです。

「ひ、うぅ……っ、は、あ……」

涙まじりにぐすぐすとなまえが鼻をすすります。
しかしながらなまえの欲求と期待は、すぐに裏切られることとなってしまいました。
確かに昴さまは、先程からなまえの身体に触れてくださっています――ただし、あくまでも「触れるだけ」。
ひどく意地の悪いことに、肌の質感やラインを確かめるように撫でる昴さまのてのひらは、恐ろしく優しいものでした。
腰や背、腹のくびれ、太腿、鼠径部(そけいぶ)等といった皮膚の薄いところを、明確な喜悦を拾うほどではない、しかし放っておくことなど出来ぬ刺激で擽(くすぐ)られます。

極上のやわらかさを持つなまえの肌。
いまや内側からじっとりと熟れて雄を誘う淫香を漂わせる素肌は、羽毛の先でそっと擽(くすぐ)るような絶妙な力加減によって切なくわなないておりました。
直接的な悦楽をずっとずっと待ち望んでいた彼女にとって、それは物足りぬどころではありません。
限界まで高められた性感が、行き場をなくしてただじくじくと熱く膿むように増していくばかりなのです。

「ふ、ぅう……ぅ、す、すばるさまぁ……ッ、いじわる、なさらないで、くださいぃ……」

涙をたっぷりと湛えた目で、なまえが哀れっぽく泣き請います。
細い首と両手首とを鎖に繋がれたまま、昴さまの両脚を跨(また)がされ、どれだけの時間が経過したのか。
――悲嘆に暮れるなまえには判然としませんでした。
少なくとも、いまの彼女にとっては気が狂いそうなほどの長い時間なのは間違いありません。

「意地悪、ねえ……人聞きの悪い。なにが不満です? あなたの要望通り、ちゃんと触れているでしょう。それに、」

形の良い眉を片方だけ跳ね上げて、昴さまが心外だとでも言いたげに小首を傾げます。
薄い唇が弧を描いていらっしゃいました。
それはそれは愉快げに。
端整な美貌がそうして微笑んでいると、ぞっと総毛立つほど酷薄そうに見えました。
はしたなくも被虐の欲望が否応なしに掻き立てられてしまう心地がしてしまいます。

「忘れたんですか? これは"罰"ですよ」
「っ、うぅ……」

ああ、なんて憎らしい。
ただ耐えることしか許されぬなまえは、濡れた瞳をますますたわませ、顔を歪めました。
いっそ気が違ってしまいそうなほど、ご主人様はごくごく弱い力でしか触れてくださらず、なまえは、は、は、と獣のように浅ましく息を荒げることしか出来ません。

焦れったそうに肌を波打たせるなまえの背を、いたずらな指先がなぞっています。
筋の浮いた背の筋肉が、びくっとふるえました。
触れるかどうか、というもどかしい指先。
小さく愛らしい口の端から、ふしだらな吐息がきれぎれに漏れ出ます。
なまえは奥歯を噛み締め、そこから生まれる痺れをなんとかやり過ごそうと健気にも抗っておりました。

「あ、あぁ……っ! ん、ふぅっ……」

皮膚の薄い内腿を爪先が引っ掻いた際、思わずなまえは腰を、く、と浮かせてしまいました。
なんとも滑稽なその姿は、猥雑というより他ありません。

ああ、もしも両手が自由だったなら、浅ましくもなまえは自慰に没頭していたかもしれません。
お客様の許可なしに自分で勝手に気持ち良くなってしまうことなどあるまじきことですが、それほどまでに彼女は追い詰められていたのです。
しかし幸か不幸か、両手は黒々と底光りする枷によって拘束されており、自ら慰めることも叶いません。

これが「罰」だというのならば、いまのなまえにとって、これ以上ない責め苦であることは間違いないでしょう。
まさしく拷問のような刺激でした。
ほんのつい数分前までなまえの身を焦がしていた欲求は、いまも彼女の内で暴れ蠢いているのです――それも、比べ物にならぬほど強く、耐え難いほど深くなって。

「うぅ……ン、はあっ……ぁ、すばるさまぁっ……!」

汗の浮いたうなじ、たぷんと重たげに揺れる形良い乳房、むっちりと隆起した乳輪、熱をもって波打つ腹と腰、そして未だむせかえるような淫香と共に蜜を滴らせる隠唇。
なまえは、いっそのこと痛みを覚えるほどに強く嬲(なぶ)ってほしいと、気が触れるまでイキ狂いたいとすら、心から望んでしまっておりました。
気が触れそうなほどの焦燥感に眩暈すら覚えます。
はやく気持ちよくなりたい、ただそれしか考えられません。
ハリのある肌はますます汗ばみ、腹底で子宮がむず痒く疼いています。

身も世もなく肉体をくねらせるなまえとは対照的に、相変わらず昴さまは涼しい表情で彼女をご覧になっていました。
品の良いスーツは最早見る影もなく、なまえの汗や淫蜜によってひどく汚れてしまっておりました。
しかし彼女にはもうなす術(すべ)も、気にする余裕すらもありません。
ただただ昴さまのくださる地獄じみたささやかな刺激に身悶えるのみです。

「……おや」
「ぐ、ぅっ……す、すばるさ、まぁっ……な、なにを……ッ」

――そのときご主人様がふいに、つい、と手を伸ばし、首輪から伸びた鎖を引っ張ってしまいました。
なまえは強制的に前傾姿勢を取らされてしまいます。
息苦しくなった彼女は呼吸を更に荒げました。
酸欠が、ただでさえ朦朧とした意識を加速度的にダメにしていくのをなまえは感じておりました。

「ッ、う、……すば、る、さまっ……おやめ、くださ、く、ぅっ!」
「ふふ、なまえさんはとても良い子だと思っていたんですが。認識を改めた方が良いかもしれませんね……いけませんよ、"お仕置き"だと言ったでしょう?」

あなたも罰してくださいと自ら言ったじゃないですか、と甘く穏やかな声が揶揄するように投げ付けられます。
くぅ、となまえは苦悶の溜め息を吐きました。
耐え難い欲望に苛(さいな)まれていたなまえは――、拘束された両手を自らの胸に、ぐ、ぐ、と押し付けて刺激していたのです。
彼女自身の手の甲により熟れきった柔乳がぐにゅりと形を変え、もどかしげにたぷんと揺れ弾んでおりました。
ぴんと張り詰めた乳頭は細い指によりつままれていましたが、昴さまが鎖を引いたことによりあっさりと離れてしまいます。
そんな自慰とも呼べぬ稚拙な行為すら、昴さまは見逃してくださいませんでした。
決定的な快楽に届かず宙ぶらりんの肢体が、焦らしに焦らされ、どうにかなってしまいそうです。

ご主人様は呆れたと言わんばかりに息をつき、短い鎖を無益にくいくいと引いてはなまえが咳き込むのを冷静に睥睨(へいげい)していらっしゃいます。
なまえはそのたびに呻いては、愛らしい桃色の唇から唾液を垂らしておりました。

「困りましたねえ、堪え性のないひとだ……」
「す、すばるさまぁっ……! もうしわけございませんっ、でも、でもっ……! なまえ、イキたいんですっ……! 熱くて、くるしくて、」

おなかのなか、さみしいです、はやくぅ、とぐすぐすと鼻をすすりながら泣くなまえの様子は、見る者にひどく幼い印象を与えました。
しかし幼子のように駄々をこね、ねだっているものといえば、爛れた肉の悦びです。
黒い双眸からほろほろと大粒の涙がこぼれ落ちます。
そのうち溶けて流れてしまうのではないかと危惧するほどに、雫を溢れさせる黒い瞳とそれを縁取る目元は紅潮し、哀れな有り様でした。

この鳥籠の娘として申し分ない極上の逸品に、堪らなく嗜虐心を満たされ、かつ更に煽られるのを感じつつ、昴さまは満足げに口元を緩めました。
まるい頬を伝う熱い涙を舌先でぬぐい取ると、ご主人様は「やれやれ」とでも言いたげに肩をすくめました。

「なまえさんがそこまで言うなら……どうしましょうか」
「お願いですっ、すばるさまぁっ! 子宮がうずいて、くるしいんですっ……!」

精液狂いのメスにお慈悲をとばかりに恥も外聞もなく、ただただ悦楽のみを求める淫獣となり果ててなまえは懇願いたしました。
触れたら崩れてしまいそうなほどやわらかな熱い肉体が、ご主人様に縋りついて必死に雄を求めておりました。
恐ろしく煽情的な光景に、昂ぶった熱い吐息が、は、と漏れます。

「昴さまっ、なまえをおゆるしください、なまえの淫乱おまんこ、すばるさまにいっぱい突いて、射精していただきたいですっ……!」
「……は、良いでしょう。合格です」

噎せ返る濃密な発情の香りに、こく、と鳴った喉は、どちらのものだったでしょう。
あるいは、互いに。

堪らないと言わんばかりに上着を脱ぎ、足元へ乱雑にそれを落とした昴さまは、雄くさく口の端で笑いました。
一見生真面目そうな印象すら抱かせる、禁欲的なお姿。
一部の隙もなくきっちりと着込まれていた衣服が僅かに崩れ、知的な雰囲気を身に纏う昴さまがかような表情を見せると、穏和的な好青年の仮面はどこへやら――獰猛な獣のようにすら感じられてしまいます。
その顔貌だけでゾクゾクッとなまえの背筋に痺れが走りました。

「本当になまえさんは淫乱ですね……」
「はいぃっ、淫乱なんです、なまえ、きもちいいこと大好きな、淫乱でごめんなさいぃっ……!」

両手が拘束されているなまえは、ご主人様の脱衣をお手伝いすることが出来ません。
そのことを申し訳なく思いながらも、昴さまがスラックスの前を寛げ既に熱く猛っていた剛直を取り出すと、あまりにも逞しいそのお姿に、無意識になまえは、ああっ……! と甘ったるい吐息をこぼしました。

硬く反り返った男性器は、「快楽の娘」であるなまえでも思わず怯えてしまいたくなるほど大層立派なものです。
むわりと青臭い臭気が濃く立ち上り、鼻腔から犯されるような心地がいたします。
ああ、この凶器じみた砲身に胎を貫かれたら、どれほど苦しいのでしょう――どれほど気持ち良いのでしょう。
理性や羞恥心などとうに手放していたなまえは、どろどろにとろけた虹彩を期待に輝かせました。

「僕は座ったままでいますから、自分で挿入できますね?」
「は、はいぃっ、できます、挿入できますっ! おちんぽ、ありがとうございますぅっ……!」

なまえのご主人様はなんとお優しいのでしょう。
なまえの求めるままにおちんぽをハメてくださるなんて。
なまえは陶酔の笑みを浮かべ、きゅんきゅんと期待に疼くナカを無意識に締め付けておりました。


(2019.01.05)
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