いつまでそうして、陽の光の下、淫らな鑑賞が行われていたのでしょう。
なまえにとっては永劫にも思われた恥辱の時間も、もしかしたらほんの数分のことだったのかもしれません。

囚人のように拘束され、両手を握り、目も口もつむり、小さくふるえていたなまえの肉体を存分にご堪能くださったのでしょうか。
触れられてもいない素肌が、ぴりぴりと甘ったるく痺れてきた頃合いでした。
昴さまはまた紅茶を一口啜り、穏やかに微笑みました。

「――こちらへ来てもらえますか」

ちょい、と指先で手招かれます。
なまえは、はい、と言葉少なに答え、そろりそろりと歩み寄りました。
彼女が歩くたび、瑞々しく張った乳房がたゆんとやわらかそうに弾みます。
その先端では、隠しきれないほどむっちりと隆起した乳輪が、恥ずかしげもなく露わに揺れています。
昴さまはやはり精巧な意匠の施された豪奢なソファへゆったりと腰かけたまま、頬杖をついてなまえをご覧になっていました。

「んぅ、あっ……」
「うん? どうしました」
「い……いえ、なんでもございませんっ、お待たせしてすみません……」

ふいに、なまえはぴしりと硬直しました。
一瞬動きを止めあえかに息を荒げたのを、昴さまは見逃してくださいませんでした。
しかし彼女はかぶりを振り、なんでもないのだと繰り返します。
その表情は、泣き出すのを我慢するように眉根が寄せられておりました。

歩くたびに太腿の内側がこすれ、――彼女は気付いてしまったのです。
太腿の中程にまで淫蜜が伝い落ちてきていたことに。
ぬるりと卑猥な感触が内腿をすべります。
ぴったり閉じていたはずの肉厚の花弁は、とうに綻び、みだりがましくだらだらと唾液を垂らしていたのです。
熱くうねる内襞が潤んでいたことはとうに自覚しておりましたが、まさかこれほどまでに淫汁を溢れさせていたとは知らず、なまえは耐えがたい羞恥にうちふるえました。
なまえはただ、ご主人様に命ぜられ、服を脱ぎ、それをご覧いただいただけなのです。
まさかこれほどまでに――淫蕩な反応を示していたとは。
耳をすますと、トロトロの蜜が立てる、くちゅり、という水音すら聞こえてしまいそうで、なまえはかすかに腰をくねらせました。
空気に触れて冷たくなった粘液の感触が、羞恥で火照った脳裏に冷水を浴びせかけたような衝撃を与えます。

しかしこれ以上ご主人様をお待たせする訳にはいきません。
ゆっくりと歩みを進め、なまえはようやく昴さまの前へ到着いたしました。
なまえには、どうか昴さまがお気付きになっていませんように、と祈ることしか出来ませんでした。

「申し訳ございません、お待たせいたしました……」
「構いませんよ。それより、――ふふ、雌の、いやらしい匂いがしますね」
「っ……!」

なまえは、ひゅ、と息を詰めます。
耐えがたい羞恥で、カッと肌が紅潮してしまいます。
彼女の白い太腿を伝い落ちる蜜液を、とうに昴さまはお認めになっていたのです。
彼の品の良い笑い声に、なまえの全身は茹だるように熱くなってしまいました。

なまえが言葉もなく哀れにふるえていると、頓着することもなく昴さまは懐からあるものを取り出しました。
太陽の光を反射し、彼の手の中できらりと輝きます。
それは、繊細なカットを施されたガラスの小瓶でした。
中では薄桃色の液体が、とぷんと波打っております。

「飲んでください」

指先でつまんだまま、昴さまが小瓶を揺らしました。
この館では、「商品」に対してなにか投与する場合、許可が必要です。
彼がそれをお持ちだということは、肉体に害はない代物と館の者が判断したのでしょう。
いいえ、なにを以てして「害」だと判断するかはこの際置いておきましょう――。
とはいえ、正体の分からぬものを口にするのは多少なりとも気遅れするものです。
なまえが尻込みしているのをお感じになったのでしょう、昴さまは笑みを深めました。
しかしご主人様のお言葉に、なまえが否やを申せましょうか。

「は、はい、頂戴いたします……」

なまえが小瓶を受け取ろうとした折です。
かちゃん、と高い音を立てて、小瓶が昴さまの手を離れ、床へと落下してしまったのです。
淫靡な倒錯に酔いしれていたなまえは、さあっと顔を青ざめさせました。

「ああ、これはこれは……すみません。落としてしまいました」

しかし当の昴さまはといえば、あっけらかんとそう言い放ちます。
全く悪びれていない口調で。

幸い、小瓶は割れてこそいませんでしたが、繊細な細工の蓋が外れ、中身が床へぶちまけられてしまっていました。
板張りの床に小さな水たまりがひとつ。
陽を受けて、きらりと光っています。

「困ってしまいましたね……この薬品はひとつしか持ち合わせがなかったもので」

白々しくも肩をすくめ、昴さまは嘯きます。
感情や思考の窺えぬ細められた目に、じっと注視されているのが分かります。

一瞬の静寂。
なまえは唇を噛み締め、悲愴な決意で彼を見つめ返しました。

「こちらのものを……いただきたいと思います」
「おや、よろしいんですか? 落ちてしまったものですよ」
「なまえは……頂戴いたします、と申しました……。言葉を違(たが)えることはいたしません」

床へ目線を落とし、囁きます。
愛らしい桃色の唇はかすかにふるえておりました。

「あなたがそう言うのなら、僕に異存はありませんよ」
「ありがとうございます……」

にっこりと笑んだ昴さまは長い足を組んだまま、なまえを見つめています。
その目の前に、なまえは跪(ひざまず)きました。
拘束されているため手を使うことは出来ません。
まずそろそろと両膝を着きました。
手枷が首輪へ繋がれているため、そうして膝立ちしていると、ますます罪人が懺悔するさまによく似ておりました。

次いで、ゆっくりと上半身を倒します。
両手首と首とを繋ぐ鎖は短く、腕を伸ばすことは出来ません。
床に肩を着き、上半身を支えるしかありませんでした。
これでは自然と、尻だけを高く上げる格好となってしまいます。
四つん這いというにはあまりにも猥雑な姿勢でした。


(2018.11.24)
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