「いやあ、ちょっと……手に負えないんですけど……」

メーデーメーデー、いつも通り朝起きたら、同居人もといラスボス勢の性別がもれなく変わっていました。
わたし含め、全員女。なにこのハーレム。
な……何を言ってるのかわからねーと思うが、うん、誰か説明してくださいどうしてこうなった。

朝っぱらから肩を掴まれ、がっくがく揺すぶられる。
元々寝起きがそれほどよろしくないわたしは、なんだなんだと腹立たしく思いながら目を開けた。
寝ぼけ眼を擦りながらしぶしぶ起きると、眼前にドッピオくん(注:美少女)の泣き顔どアップが待ち構えているなんて誰が予想しただろうか。
あの時の衝撃は言葉に出来ない。
たっぷり数十秒は固まっていた。

「ええっと……ドッピオくん、だよ、ね……?」
「はい、そうです……」

美少女の泣き顔すごい、これが庇護欲ってやつか……危ない方向へ道を踏み外しそう……。
寝起きの上手く働かない頭で話を聞けば、朝起きた時点で全員が女になっていたらしい。
どうせスタンド絡みなんだろうけれど、こんな都合の良いスタンド能力があってたまるかと思いつつ、みんなの様子を見れば揃いも揃って美女美少女だらけ。
とりあえず雨戸をしっかり閉めて問答無用で棺桶を開けると、予想はしていたけどDIOさんもそりゃあもうお美しい女性になっていらっしゃった。
現時点でここにいる全員が女になっているということは間違いないらしい。

「それにしても女の体は不便だな、肉が多くて戦闘に向かん」
「カーズさん、今のところ多分、戦闘の必要性はないので女性を敵に回す発言はやめてください……」

無理やり着せられ不服そうだけど、言われた通りちゃんと、わたしの大きめのTシャツを着ているカーズさんに向かって溜め息をつく。
さようならわたしのTシャツ……伸びきっておそらくもう二度と着られないだろう。
主に胸部が。
初めてそんなサイズ見たんですけど、それ何カップっていうですか……? なんて聞ける訳もなく、伸びきってブサイクになってしまっている胸元にプリントされたキャラクターに合掌した。
きれいなところを一つ一つ挙げていたら日が暮れるといっても過言じゃないレベルの、神々しさすら感じられる美貌に見惚れつつ、毛布を頭から深く被って現実を呪っているディアボロさん(ちなみになかなかの巨乳だった)を、ドッピオくんと一緒によしよしと慰めた。

さてどうしたものか。
男性のままのときから分かりきっていたことだけど、みんな本当に見目だけは途方もなく麗しい。
性別が反転してしまった今もその美しさは損なわれることもなく、寧ろ「絶世の美女」という賛辞が嫌味なく当然のように捧げられるような美人揃いである。
美人の無駄遣いも甚だしいレベル。
美人美人言い過ぎて、そろそろゲシュタルト崩壊でも起こしそうなんですけど……。
……なんだろう、元々女であるはずのわたしが、どうしてこんなものすごく肩身の狭い思いをしなきゃいけないのか。

「チッ、クソッ、まったくどこのどいつの仕業だ」
「……吉良さん、お口が悪くなってますよ」

イライラと舌打ちした吉良さんも色素薄めなスレンダー美人さんである。
タイトなスーツを着て、ヌーディーベージュくらい濃い色合いのストッキング、それにハイヒールも履いてほしい。
絶対似合う。
間違いなく怒られるだろうから本人には言わないけど。

「まあまあ、今日はお仕事がお休みで良かったですよね……休むって電話をするにも、声まで変わっているから連絡出来ないですし」

どうどうと宥めるようにそう言えば、美人さん、もとい吉良さんは深々と溜め息を吐いた。
イライラしている美人さんって迫力がすごい。

「そうだねなまえ、君の言うように思っておこう……」

物憂げなご様子で肩の力を抜く吉良さんに、とりあえずカーズさんの手を与えておく。
そりゃあもう芸術品かってくらいにお美しいカーズさんの手を撫でていると、少しは落ち着いたらしい。
二人とも相手が相手だから微妙な顔をしているけれども。
文句を言いたげなカーズさんは、ちょっとだけ我慢してくださいと一睨みして黙らせた。

「お仕事といえば、ディエゴくんは今日大丈夫?」
「ああ、厩舎に行こうとは考えていたが、これじゃあ今日は大人しくしているしかないだろうな……」

日に透けるような長い睫毛が頬に影を落とす。
余分な肉なんて付いていないすらっと引き締まった美脚が眩しくて、きれいだねディエゴくん……と呟けば、そりゃあもう嫌そうな顔をされた。
ごめんね、正直ほとんど無意識に口に出ていた。
ご機嫌ナナメにガチガチと歯噛みするディエゴくんにはいはいごめんねと謝りながら、いつもより柔らかさの増したように感じられるさらさらの髪を撫でる。
気持ち良さげに目を細めてもっと撫でろとぐいぐい頭を押し付けてくるのを、よしよしと宥めながら顔がゆるんでしまうのを堪えきれない。
あ、やばい、本当に可愛い。
普通に生きていたらお目にかからないようなレベルの可愛い子に、懐いてもらえる喜びってすごい。

でれでれと緩んだ顔をしていたら、そういえばと思い至る。
ファニーさんは今日はここに泊まっていなかったけれど、大丈夫だろうか。
偉い人だし無事だと良いんだけど……って、あ。

「どじゃあぁ〜ん……おや、お前たちもだったか」
「ファニーさん! ……あああディアボロさんしっかりして!」

ウワサをすれば影というか、丁度考えていたら大統領サマ(言わずもがな女になっていた)がD4Cで登場した。
現れた際、そういうお約束なのかなんなのか知らないけれど、ディアボロさんが被っていた毛布が巻き込まれてディアボロさん本人が壁に激突した。
ああ、もうデジャビュ! これ前に見た!
急いで助け起こすとなんとか息はあった。
以前にも同じことがあったし、ファニーさんが現れる場所を決めていた方が良いなあ……。
ぐったりしている美女もといディアボロさんを美少女ドッピオくんに任せ、これまたとんでもなくきれいな熟女に変貌してしまったファニーさんに向き直る。
この部屋、美女美少女率が高すぎて世界のバランスが壊れるんじゃないの。

「ファニーさんもだったんですね……お仕事は大丈夫ですか?」
「ああ、別の世界の私に押し付けて逃げてきたが……元に戻るまではこちらに居て構わないか?」
「ええ、勿論ですよ。それにしてもどうしてみんなの性別が急に変わっちゃったんでしょう……」

お金持ちのお上品な奥様然としたファニーさんと首を捻る。
性別を反転させるだけだったら、わたしが女のままでいるのもおかしな話だし。
どうせスタンド絡みなんだろうなとは思うけれど、原因が分からなければ対処のしようもない。

「そう悩むな、どうせいずれ元に戻るだろう」

ふいに後ろから抱き寄せられ、背を預ける。
後頭部にはぽよんと弾力のある肉感的な感触が。

「DIOさん、随分と余裕ですね」

いつものように抱き寄せられるけど、いつもと違う感触。
当たり前なんだけど、それだけのことがなんだかとても不思議な感じがする。
慣れている熱や香りのはずなのに、その感触を与えているのがいつもと違うものだから、頭が混乱しているというか。

それにしても胸枕なんて贅沢すぎる……。
しかも首を伸ばして見上げれば、胸枕してくれているのはとんでもない美女である。
別に特段わたしは胸が小さいという訳ではないけれど、このボリュームはすごい。
やわらかいし何なんだこの感触……絶対揉んだら気持ちいいよね……。
……ハッ! いや待ていけないいけない、思考が危ない方向へと飛躍しそうになっていた、しっかりしろわたし!
このままじゃ駄目だと抜け出そうとするも、がっちりと拘束されて煽情的な腕がお腹に回された。

「離してくださいよ、DIOさん」

華奢な腕を見下ろすと、自分が未だパジャマから着替えてすらいないことにそこで改めて気付く。
まったく、誰の仕業か知らないけれど、朝っぱらから面倒事を増やしてくれちゃって。

「聞いてますか……って、ちょっと、もう!」

首元に顔をうずめていたずらに頭やうなじにちゅ、ちゅ、と小さなキスを落とすDIOさんを遠慮なくたたく。
深く知っている香りや熱なのに、肌に触れる指や唇のやわらかさ、感触が違っていて、なんだか妙に落ち着かない。

「……ふむ、様々なスタンド使いを見てきたが女になるのは初めてだ。女の悦びを味わってみるのも一興だが、しかしお前に挿入するモノがないのは不便ではあるな」
「それ以上下品なことしゃべると、遠慮なく雨戸を開けますけどかまいませんね」
「やめろ」
「突っ込むだけならば以前やったように触手でも生やして構わんが、なまえ」
「その手があったな」
「カーズさん、DIOさん、いい加減本気で怒りますよ」

全力で嫌そうな顔で返事をすると、聞き分けの悪い子供に呆れたようにカーズさんがやれやれと首を傾げた。
なんだその悪いのはわたしの方、みたいなお顔。
度を越えた美人だからって何言っても許されると思わないでいただきたい。
いま吉良さんに手を捕まれているんですから、頼めば爆破してもらえるんですよあなた。

「ふう……もう疲れました。とりあえず、お腹空いちゃったし朝ご飯食べましょうよ」
「なんだかんだお前が一番冷静だよな」

ディエゴくん(しつこいけどものすごく可愛い)に呆れ顔でそう言われ、苦笑いを浮かべる。
確かにこんな状況でお腹が空いたなんて暢気に言っている場合じゃないかもしれないけど、カーズさんもDIOさんもああ言っているわけだし、まあ正直わたしとしては目の保養になってとても楽しいというのも、落ち着いていられる原因の一つかもしれない。
だいたいわたしに実害はなんにもないしね!

ぐったりと横たわったままのディアボロさんをなんとか手当てして、さあ、朝ご飯を準備しよう、と立ち上がる。
手伝ってくれると言うプッチさんと台所に向かいながら、大変なことになりましたね、と苦笑した。
同じような苦笑いを浮かべるプッチさんは、わたしの服をお貸ししているのがとても申し訳なくなるくらいに、大変良いお体をしていらっしゃった。
ダークホースというかなんというか、実は一番いやらしい体型をしていらっしゃるような……わたしみたいな小娘が到底真似なんか出来ない色気というか。
褐色肌の肉感的な美女って、好きな人にはたまらない感じなんじゃないだろうか。
修道服の名称について詳しくは知らないけれど、よく修道女と聞いて真っ先にイメージするあのベタなシスター服を着てほしい。
勿論ベールもかぶって。
絶対にきれいだと思う、やっぱり口には出せないけれども。

「なまえ? どうかしたかい?」
「い、いいえ、なんでもないですすみません……」

不思議そうに小首を傾げたプッチさんに、お手伝いしてくださってありがとうございますと乾いた笑みを返した。
……いけないいけない、やっぱり思考がどうも変態くさい。
カーズさんやDIOさんのこと悪く言えない程度には、邪まなことを考えている自分にこっそり溜め息を吐いた。

それからその状態は二日続いたわけだけど、わたしの体力的にはありがたかったので(もちろん性的な意味で)、もっと続けば良かったのにと内心思っていたのはみんなには内緒である。

フェイクリリィ
(2014.12.20)
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