(※つみより注記:こちらは拙宅50000hitリクエスト企画「捧げた純情」のASBスタッフ夢主をお気に召してくださったモコタさまより賜りました、ASBスタッフ同僚さんのお話です。先に「捧げた純情」をお読みになってからご覧くださいませ。)




「DIO様お疲れ様です」
「ああ」

控室の清掃が終わると同時に主が帰ってきた。ソファーに座って手を出す彼にワインを注いで渡す。

「こういうのは専門のスタッフに頼んだ方が上手いと思いますが」
「そこらの奴を部屋に入れる気はない」
「はあ」

曖昧な相槌を打ちつつ、冷蔵庫からハムやら何やらを適当に出して盛り付ける。…やはり不器用な私がやるよりも専門スタッフの方がいいと思うのだが。お世辞にも綺麗とは言えないそれを差し出すと、彼は特に気にした様子もなく摘まみだした。一礼して出て行こうとしたところを呼び止められ、向かいに座る。

「お前も飲め」
「仕事中ですので。コーヒーを頂いても?」
「構わん」

鷹揚に頷いた主に礼を言ってコーヒーを淹れる。一口啜りながら彼をちらりと見ると、どこか機嫌が悪そうだった。先程の試合は彼の完勝だったはずだが。今は誰も居ない闘技場を眺めながらこの後の予定を思い出す。確かジョナサン・ジョースターとシーザー・A・ツェペリだったか。主人公勢、と呼ばれている彼らの案内は彼女の仕事なので私は暫くフリーと言うことだ。時間的にももう呼び出しはかからないだろう。このままここで観戦でもして行こうか。例の彼にも捕まらずに済むだろうし。
そんなことを考えている内にアナウンスが流れた。ジョナサン・ジョースターという言葉に思わず眉を顰めた。舌打ちの音が聞こえて、無意識のうちに自分がしたのかと思ったが、どうやら違ったようだ。目の前の彼を見ると盛大に顔を顰めていた。

「なにかお気に召しませんか」
「それはお前もだろう。随分と不細工な顔をしている」
「…ええ、まあ」
「素直なことだ」

何がおかしかったのか知らないが、くつくつと笑い出した彼から目を逸らし下を見る。開始早々激しい戦いをしている彼らの姿をぼんやりと見下ろす。

「どちらに勝ってほしいんだ?」
「ツェペリ選手に」
「即答だなあ」
「彼が嫌いなもので」
「ほう?それは気が合うな。…それにしてもジョジョの奴最近どうにも調子に乗っているな」
「そうですか」
「ああ。試合が終わればいそいそとどこかへ消えていくし。一体何をしているやら」
「…お気に入りを見つけたようですよ」

ピクリと彼の眉が動く。こちらを見た彼に私はニコリと笑いかけた。

「…詳しい話を聞こうか」
「ええ、喜んでお話しさせて頂きましょう」



「よおジョジョ、随分頑張ったじゃあないか」
「…DIO」
「なんだなんだ。大切な友人に随分冷たいじゃあないか。んん?そちらのレディはどなたかな?」
「こ…こんにちは!」
「こんにちは。お名前を聞いても?」
「え、あの」
「…仕事が残ってるんだろう?早く行った方がいいよ」
「あ、でも」
「いいから、ね?」
「は、はい!」

ジョナサン・ジョースターに背を押された彼女が、困ったような顔をしながらも走り出すのを少し離れた所から眺める。

「…なんのつもりだいDIO?」
「お前にお気に入りが居ると聞いてなあ。中々可愛らしい女じゃあないか。…私も気に入ったよ」
「DIO…」
「そんなに睨むなよジョジョ。別にまだ何をするといったわけでもなかろう?」

火花を散らす彼らを少し見てから踵を返す。後ろから怒声と破壊音が聞こえたが私の知ったことではない。足音が響く廊下の先に、見慣れた影が見えて私は眉を顰めた。

「お疲れ様」
「花京院選手もお疲れ様です」
「典明って呼んでくれっていつも言ってるだろう?」
「何時もお断りしているはずですが」
「今日はいつも以上に冷たいなあ」
「これが普通ですから」
「…彼女にはあんなに優しいのに?」

含みを持たせたその言葉に思わず彼を睨み付ける。普段と同じ柔らかな微笑みの中に皮肉るような意地の悪さが滲み出ているように見えるのは私の思い込みだろうか。

「君が彼女の事を大切に思っていることは知ってるけど…DIOを嗾けるのは流石にやり過ぎじゃないかな?ジョナサンさんだけじゃなく承太郎まで苦労する」
「それはどうもすみませんでした」
「悪いと思ってないのが丸わかりな謝罪をどうも。…そんなに彼女を取られるのが気に食わないのかな?」

反射的にもたれかかっていた彼の襟首を引っ掴み壁に押し付ける。ぶつかったところが痛むのか、顔を歪めた彼の前髪を引っ張って、俯いた顔をジッと見つめた。流石に文句の一つでも言おうとしたのか開いた口を口で塞ぐ。固くなった体を鼻で笑ってやりながら、舌を突っ込んだ。実際に経験は少ないのか、たどたどしいそれを翻弄してやる。鼻に抜ける様な声が彼から漏れて、漸く顔を離した。

「遊んでほしけりゃ素直にそう言ってくださいな。…下らないことしか言えない口くらいなら塞いであげますよ」

ハッと笑って背を向ける。後ろから呼びとめる声が聞こえたが、足を止めることはなかった。

「あ、お帰りー!聞いて聞いて!さっき初めてDIOさん間近で見ちゃったよ!」
「へえ。言ってた通り美人さんだったでしょ?」
「うん。一瞬呼吸が止まったよ…」

ほう、っとため息をつく彼女を見下ろしていると、なんだか無性に抱きしめたくなってきた。欲望に流されるまま抱き着けば、彼女は一瞬固まって笑い始める。

「なに?どうしたの?」
「んー…あんたが可愛くて可愛くてお姉さんたまらんよ」
「なにそれ、セクハラ親父じゃないんだから」

くすくすと笑って揺れる、腕の中の小さな体が愛おしい。物心つく前から隣にいたこの子を、愛していると気付いたのはいつだったか。伝える気なんて毛頭ない。そんなことを言って、困らせたり悲しませる気なんてとうに失せている。ただただ、この子に幸せになってほしい。いや、するべきなのだと。そう思い続けて。
もはや恋愛の情と呼ぶには高く深く、歪に築かれているのも分かっている。けれど、それでいいのだ。

「ねえ」
「んー?」
「大好きだよ」
「あはは!私も大好きだよー!」

嬉しそうに笑って胸に顔を埋めるこの子を、私はただただ愛しているの。


それは崇拝に似た
誰にも渡したくないと嘆く自分を殺し続ける
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