(※つみより注記:こちらは拙宅50000hitリクエスト企画「捧げた純情」のASBスタッフ夢主をお気に召してくださったモコタさまより賜りました、ASBスタッフ同僚さんのお話です。 先にそちらをお読みになってからご覧くださいませ。)




仕事も終わりに差し掛かり、一緒に上がる筈の友人をロッカールームで待っていた。扉があく音に顔を動かせば待ち人の姿。しかし肩で息をする彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

「あれ?どしたの真っ赤じゃん。熱でも出た?」

小柄な彼女に手を伸ばした瞬間、勢いよく飛びつかれる。

「ど、どーしよおおお」
「あー?」

訳が分からないままに半泣きになる彼女を抱きしめ返して、ぽんぽんと背中を叩いてやる。言葉にならない呻き声を上げる小さな背中に胸が少しばかりときめいた。あーくそ可愛いなあ!この子を見ているとどうにも放っておけないというか、守ってあげたくなるというか。実家で飼っていたハムスターを思い出してしまう。
よしよし、と声を掛けながら宥めているとようやく落ち着いたようで、パッと顔を上げる。しかし未だに赤くなった頬や揺れる瞳に思わず強く抱きしめてしまった。

「な、なに!どうしたの!」
「いやごめん、アンタが可愛すぎて」
「えええ…」

困ったような声も可愛いのう可愛いのう。しばらく慌てふためく彼女を堪能して手を離す。

「で?なんかあったの?」
「うん…それが…」


「空条選手が、ねえ」
「びっくりしちゃって…とにかく約束したから行かなくっちゃ、と思ってるんだけど」
「うーん…出来ればついて行ってあげたいけど…」

正直あんまり長居したくないんだよなあ。でも一人で行かせるのもなあ、と悩んでいるとノックの音が響いた。

「はーい」
「あ…良かったここに居たんだね。良ければ僕も一緒に観戦させてもらえないかな」

…この野郎。扉を開けた私は総スルーですか。目の前の巨躯を思わず睨み付けるが、この似非紳士は動じる様子もない。

「は、はい!」
「じゃあそろそろ始まっちゃうから行こうか」
「はい!話聞いてくれてありがとね!また後で連絡するね!」
「ん。行ってらっしゃい」

ひらひらと手を振って彼女を見送る。扉を閉めようとしたジョナサン・ジョースターが一度立ち止まってこちらを振り向いた。

「彼女がお世話になったね」
「…いいえ。大事な友人ですから。ジョースターさんこそわざわざお気遣いありがとうございます」

傍から見れば当たり障りのない会話に聞こえるだろう。しかしお互いにしか分からない棘がふんだんに仕込まれているのは、互いの目が物語っていた。

「…じゃあまた」

ばたりと閉まった扉にいつの間にか詰めていた息を吐き出す。…やっぱりあの人絶っっ対に腹黒い!!!!
…あの子が幸せになるのであれば、誰を選ぼうと文句を言う気はない。しかし、あの人だけは駄目だ、絶対に駄目だ。あの人に比べたら空条選手の方がよっぽど好人物に違いない。無愛想に見えるが悪い人間ではなさそうだし、誘い方もストレートで好感が持てる。…少々独占欲が強そうなタイプに見えなくもないが、ああいう外堀を埋めて、手ぐすねを引く奴に比べりゃ数倍マシだ。
彼があの子を見る目が時折酷くぎらついているのを、私は見逃していない。外面の良さから周りは紳士だの聖人だの言っているが…。

「そういう奴に限って手に負えないんだよなあ」
「何の話だい?」
「…花京院選手。なんでここに居るんですか」
「典明って呼んでくれていいよ。で、なんの話だい?」
「…あなた然り評判のいい人物ほど裏があるって話ですかね」
「ひどいなあ。僕のどこに裏があるって言うんだい?」
「サラッと人の腰に手を回した挙句に撫でてたりするあたりですかね!」
「ごめんごめん、つい」

爽やかな笑顔を浮かべる花京院選手に荷物を投げるも敢え無く受け止められてしまった。隠すことなく舌打ちをすれば更に笑顔が深まる。

「スタッフがこういうことしたらまずいんじゃないかな」
「…申し訳ございません」
「うん。一緒に観戦付き合ってくれたら黙っておくよ」
「うっわむかつく」
「何か言ったかい?」
「いいえ!っていうかなんか腰のあたりまさぐられてるんですけど!!??」
「ああ、ハイエロファントグリーンも君の事が大好きみたいで」

笑顔で言ってのける花京院選手に文句を言いたがる口がぱくぱくと動く。しかし理性を総動員して言葉にするのはなんとか堪えた。この人物に何か言えば倍以上になってやり返されるのが目に見えている。
…だからさっさと帰りたかったのに!

「さ、行こうか」

性懲りもなく腰に回された手を優しく叩き落としながら、大きくため息を吐く。ジョナサン・ジョースターもこれくらい分かり易かったらあの子も気付くだろうに。…いや、優しいあの子の事だからこれはこれで流されてしまうかもしれない。

「空条選手マジ頑張れ死ぬ気で頑張れ…」
「承太郎のファンなのかい?いくら彼とはいえ妬けるな」
「そういうんじゃないんで」

とにかく私には、彼女の幸せと前途を祈るしかないのだろう。…ついでに出来れば誰か私の前途も開けるように祈ってくれ!!!!


滅びろ腹黒変態ども!
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