(※10000hit企画ゆきさまリクエストのジョニィ「僕だけのスピカ」の続きです。先にそちらをご覧になってからお読みください)
(※「もしジョースター家にトリップしていたら」というifです。ご注意を!)




「それで? どうだったの」
「うん? どうって、何が、」
「だーかーらー、あたしが旅行でいない間、ジョニィとは何かあったかってことよ。一夜を共にして」
「――ぶふっ! ななな、なに言って、」

あーあ、汚れちゃったじゃない、と呆れた顔で言う徐倫に、むせながらなんとか謝る。
申し訳ないとは思うけれど、そもそもお茶を口に含んでいるときに、突然爆弾発言をした徐倫のせいだと思うんですけど……。

ジョースター紅一点、徐倫と彼女の部屋にお邪魔して、いつものようにお茶していたら、とんでもないことを言われた。
そこら辺の男よりも格好良くて頼りになる彼女だけど、実はお部屋は結構可愛らしかったりする。
わたしはお邪魔してこうしてお話するのが大好きなのだけれど……正直今はとっても逃げ出したい。
なんでそんなに前のめりにニヤニヤしていらっしゃるんですか……。

「べ、別に何もなかったよ」
「ふーん? な、に、も、ねえ?」

ああもう、折角そこんじょそこらの女の子じゃ足元にも及ばないような整った可愛らしいお顔をしているんだから、ぶち壊すような表情をしないでほしい。
血が繋がっている訳だしどことなくジョセフに似てるなあ……っていやいやそんなこと考えている場合じゃない。
あなたそんなキャラでしたっけと逃げ腰になりながら、あの時のことを思い出す。

徐倫が旅行で家を空けたあの日、心細さで泣きそうだった……いや、結局泣いてしまったけれど、あの夜は、ジョニィが一緒にいてくれた。
あの時のことはそれからずっと意識的に考えないようにしていたけれど、いま思えば良い年して一人寝が寂しかったってどうなのわたし……。
泣いてしまうなんて、し、しかも、泣き疲れてしっかりとしがみ付いたまま眠ってしまうなんて……!

思い出すだけで羞恥で顔が熱くなってくる。
じっとりと手汗もかいてきた。
あれからわざと考えないようにしていたけれど、一旦記憶の蓋を開ければ、次々に思い浮かんでくる。
ずっと抱き締めてくれていたジョニィの体の熱さだったり、においだったり、優しい声、腕の力強さすらも。

ああ、もう、早くこの頬、というか顔や首の熱、引いてくれ……!
俯いて不明瞭な呻き声を漏らしているわたしを、何が楽しいのか笑いながら見ている徐倫の追及からどう逃げるか思案する。
で、でも、こんなに動揺しているのはわたしだけで、次の日もジョニィはいつも通りの反応だったし……。
原作でも昔は女遊びが激しかったみたいだし、やっぱり女の子の扱いなんて慣れているよね……と今度は暗く思考が沈みそうになったところで、唐突にノックの音が響いた。
次いで、がちゃりとドアが開く。

「っ、じょ、ジョニィ!」
「……そんなぶさいくな顔してどうしたの、なまえ」
「ひ、一言余計! 自分の顔を基準にして考えるのやめて!」

ばっと顔を上げ、喉に何か引っかかったような裏返った声で、今の今まで話の渦中だった本人の名前を呼ぶ。
いくらなんでもさすがに動揺しすぎだろわたし……恥ずかしいことこの上ない。
わたしの挙動不審さに、ジョニィは驚いたようにぱちくりとまばたきした。
そんな表情もうっかり見惚れてしまう程にイケメンである。

「まあまあなまえ。ジョニィ、なんか用?」
「ああ、なまえのせいで忘れるところだった。ジョナサンに買い物頼まれちゃってさ、ついでに何か要るものあるか聞いとこうと思って」

ちくりと棘を含ませることも忘れず、そう涼しい顔でのたまうジョニィ。
むっとして食ってかかろうとするのを、どうどうと徐倫から宥められながら考える。
以前、買い物から帰ってきてから、あれも必要だったのにこれも買ってきてくれたら良かったのにと一悶着あって(あれとかこれとかは、アイスだったりマニキュアだったり、まあとにかく他愛のないものだ)、それからジョニィは大抵こうして声を掛けてくれる。
なんだかんだ言って、優しい人である。

「ンー、あたしは別に無いわね。なまえは?」
「えっと、わたしも特に……」

何か要るものあったっけ、と考えるものの別段思い浮かばない。
首を傾げながらそう言うと、「あっ」と徐倫が声を上げる。

「なまえ、一緒に行ってきたら?」
「ええぇ……? ちなみにどうしてって理由を聞いても良いですか徐倫さん……」
「どうしたもこうしたもないわよ、ほらさっさと行った行った」

お茶の片付けは私がしとくから、と、部屋から追い立てられる。
がちゃんとドアは無慈悲に閉まり、ジョニィと二人、廊下に立ち尽くした。

「……それじゃあなまえ、行こうか」
「……うん」

・・・


黙々と二人で、近所のスーパーまで歩く。
うっ、さっき徐倫とあんな話をしていたせいで、いつもなら全然気にならない沈黙がなんだかつらい……!
隣りを歩くジョニィをちらりちらりと見上げる。
うう、やっぱりジョースター家はみんな格好良いけれども、しみじみイケメンだなあと改めて思う。
……わたしよく一緒のベッドで眠れたな。
本当にあのときはどうかしていたに違いない。
でもあの夜、ジョニィが来てくれなきゃ、きっとあんなに安らかな気持ちで眠ることも出来なかっただろうなあ……。
ん? あれ? そういえばあのとき来てくれたのが、もしジョニィじゃなかったら……?

そこまで考えて、胸がざわりと言いようのない不安感に襲われた。
ざりざりと鈍く尖ったささくれで胸の奥、体の芯を撫でられるような、不快感。
無意識にきゅっと唇を噛み締めた。

「……なに一人で百面相してるの」
「っ、え?」

突然、ぐいーっとそこそこの強さで頬を引っ張られる。
真顔で「わあスッゴイ伸びるー」と吐くイケメンをなんとか振りほどき、痛みのせいか、それとも別の理由があるのか、じわじわと熱を持ち始めたほっぺたを庇うように手で覆う。

「なんなのジョニィ、突然」
「ごめんごめん、この前も思ったけど、なまえの頬って柔らかいよね」
「……それは遠回しに脂肪が多いって言いたいのかな」

喧嘩売ってるのならお買い上げするよ、とじっとり睨むと、ジョニィは心外だと言わんばかりにヤレヤレと肩をすくめた。
そんな仕草も格好良い。実に腹立たしい。

「それで? なに考えてたの、さっきからちらちら人の顔見て」

うわあああなんてこった! こっそり顔を見上げていたこともばっちりバレてた!
馬鹿正直にあなたのことを考えていました、なんて言える訳ない!
どうしようといたずらに思考をぐるぐると巡らせるものの、上手い誤魔化しも返事も思い浮かばない。

いつの間にか歩みは止まっていて、じっと注視するジョニィの瞳のなかには、わたしの姿が小さく映っている。
なんだかそれだけのことがとっても恥ずかしいような、むず痒いことのような気がして、ぱっと目を逸らしてしまった。
な、何しているんだわたし……!
自分の挙動不審さに頭を抱えたくなる。
でも、なぜだか分からないけれど、さっきまで胸を占めていた言いようのない不安感は、いつの間にか思い出すことも出来ない程に霧散して消え失せていた。
どうしてだろうと疑問に思っていると、なかなか返事をしないのを待ちくたびれたのか、またジョニィがわたしの頬に手を伸ばしてきた。
それを見て、咄嗟に後ずさってしまう。

「……なまえ」
「いいいいやだってほら、またほっぺた抓られるかと思って!」

ジョニィを避けた訳はないんです、悪気はないんですと主張するも、その嫌味ったらしいほど長い脚で一気に距離を詰められてしまった。
まるで清々しく澄み渡った空のようなシュプリーム色の瞳には、さっきよりも大きく、そしてよりはっきりとわたし自身が映っている。
その目にじっと見つめられると、ぎゅっと胸の奥が苦しくなるのはどうしてなんだろう。
そっと伸ばされた手は驚く程にあたたかくて、慈しむようにわたしの頬を撫でた。
まるで、あの夜、泣いていたわたしを抱き締めてくれていたときのように。

「っ、ジョニィ、」
「なまえ、ボクもね、知っての通り、聖人君子なんてものじゃあないんだ。君がちゃんと自分で気付くまで待っていてあげようと思っていたけど、君のそんな顔を横で見ながら何も知らないフリをし続けるのも、ボクは気が長いとはいえ限界があるってわけ」
「……う、うん……?」

ど、どういうこと……?
突然なにを言い出すんだと言わんばかりの間抜け顔が、シュプリームの瞳に映る。
あれ? 気のせいか、さっきよりもジョニィの目に映るわたしの姿がはっきり見え、

「っ、は、……え?」

ジョニィのきれいな顔が今までにないほど近くにあって、それに気を取られていると、ふわりと、唇に熱が触れた。
ちゅ、と、気が抜けるほど可愛らしい音。
ジョニィがわたしの身長に合わせて屈んでいた上体を戻すときに、やわらかなレモンイエローの髪がさらりとわたしの頬を撫でた。

……いま、なにが起こった……?

「っはは、なまえ、本当にひっどい間抜けヅラ」
「えっ、なっ、……えええぇ!?」
「ああもううるさいなあ、ちゃんと人間の言葉を話してよ」

おおげさに両手で耳を塞ぐジョニィは、そりゃあもう晴れ晴れとした顔で楽しそうに笑っている。
わたしは真っ赤な顔を無様に晒したまま、両手で口を押さえることしか出来ない。

「……っ、ジョニィ、」
「なあに、なまえ」

優しい目をしてわたしを見つめるジョニィは、こんな状況でもやっぱり見惚れてしまうほど格好良い。
悔しい、わたし自身のことなのに、こうして行動を起こしてもらわなきゃきっと気付かないままだっただろう、この感情を自覚させられてしまって。
ずっとやられっぱなしなのはやっぱりとても悔しかったので、熱の引かない赤い顔のまま、挑むように見上げた。

「ね、言い忘れていることがあると思うんだけど?」
「ああ、ボクに先に言わせるんだ?」

楽しそうに微笑んだまま、ジョニィはまたそっとわたしの頬に手を伸ばした。
今度は、後ずさりなんかしなかった。

「なまえ、好きだよ」

私だけのデネボラ
(2014.11.24)
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