一瞬、意識が飛びかけた。

「は、あ……っ、く、ああっ、」
「んっ、んむぅっ、ふりゅや、さっ、んんっ」

口元だけではなく顔中をべとべとに汚して、男の屹立を咥え込んだなまえが恍惚の溜め息を漏らした。
小さな口でしゃぶりついてくるオメガの顔は、息苦しさによってだろうか、瞳からはぼろぼろと涙がこぼれている。
しかしながらその表情はまさにメスのもの。
幸せで堪らないと言わんばかりに瞳を甘くとろけさせて、呼吸荒くじゅるじゅると吸い付きながら口内の肉棒を味わっていた。

真っ赤な口腔と舌、覗く白い歯、糸を引く唾液。
汗や涙、唾液や精液に濡れた頬には、彼女自身のやわらかな黒髪がべっとり張り付いている。
あまりにも淫惨な光景に、降谷は低く呻かざるをえなかった。
全身が煮えたぎっているようだ。
ヒートだとかフェロモンだとか本能だとか、そんなものなど関係なく。

ぐにゃりと視界がぼやける。
目に汗が入ったのか。
淫猥すぎる現実を振り切るように降谷が目を閉じても、目蓋の下で光がちかちかと乱反射していた。
あまりの喜悦で、脳髄がぐずぐずにとろけていくかのような錯覚に襲われた。
過ぎた快楽は恐怖すら感じさせる。
しかしながらその恐怖すらも、いまのふたりにとっては悦楽を増すための道具にしかならなかった。

時折声を漏らして口淫を堪能する降谷もまた、彼女と似たような快楽に溶けた顔をしていた。
元々フェラをさせるのは嫌いではない。
手っ取り早く支配欲が満たされる。
とはいえ急所であるそこを他人に触られたり咥えられたりするのは抵抗があり、いままで積極的に楽しむことは出来なかった――が。
既に二度放ったとは思えないほど硬く大きくそそり立つ肉杭は、なまえの火傷してしまいそうなほど熱い口腔粘膜をずっぷりと埋めて余りあるほど勃起していた。

オメガのフェロモンによって、アルファはヒートに陥る。
ヒート状態のアルファの肉茎には、亀頭球(bulbus glandis)、あるいはノット(knot)と呼ばれる器官が、性器の勃起と共に発生する。
陰茎の根元に、陰嚢とは別に瘤状のものが具わっているのだ。
ヒート時アルファの射精は二〇分から三〇分ほど続く。
加えて吐き出される精子量は、ベータやオメガの男性と比べて二倍。
ヒートのときだけ肥大する亀頭球は、その長い射精中、相手の性器から抜けなくなる役割を持っている。
――発情期のアルファの種付けによる、オメガの着床率は「一〇〇%」。

理性を焼き切る興奮と熱で冷静に観察する余裕などなかったが、降谷は己れの下腹部をまじまじと見つめた。
慣れ親しんだ自分の身体だというのに、オメガがしゃぶりついているソコは恐ろしく禍々しい形状になっていた。
自身の変化に戸惑いがないと言えば嘘になる。
降谷は過去アルファやベータとの性行はあれど、オメガとのセックスは未経験だった。
つまり、こうして亀頭球が性器と共に勃起し張りつめているのは生まれて初めて。
――けれど、そんなことよりも。
いままで経験したことのない強制的なヒートは、理性はおろか脳髄までも溶かしてしまいそうなほど気持ちが良かった。
それこそ気が狂ってしまいそうなほど。

本能に突き動かされるまま、女の口腔粘膜へ肉棒を擦り付ける。
男の体、女の体、そのレベルで、アルファの肉体、オメガの肉体はこういうふうにできているのだとすとんと腑に落ちた。
過去の交わりがかりそめ、元々こういう肉体だったのだといつの間にかごく自然に受け入れていた。
とにかくこのグロテスクなまでに肥大した肉塊を、オメガの胎内へ挿入することしか考えられなかった。

「んふぅ、ん、ぅ……濃い、におい……ぁうう、くらくらするぅ……」

――部下は、麻薬のような肉体をしていた。
本能に直接訴えかける、オメガのフェロモン。
降谷のなかのアルファ性は、シンプルな欲求のみで埋め尽くされていた。

孕ませたい。
支配したい。
この女を、自分のものにしてしまいたい。
このオメガを、自分の番(つがい)にしたい。

「ッ、放せ、みょうじ……」
「ん、あんっ……」

強引に頭を掴み、一心不乱に口淫にふけっていたなまえを引き離す。
幸福そうにそこへしゃぶりついていた女は名残惜しげな声を漏らした。
眉尻は悲しげに下がっている。
喉奥深くまで飲み込んでいたせいか、ぬとぉ……と音が聞こえそうなほど粘度の高い唾液と先走りが、中途半端にぽっかりと開いた口から糸を引き、垂れた。

この淫乱、と罵る余裕など降谷にもない。
射精するなら、膣奥へ出したい。
口淫によって限界が見えそうになっていた降谷がそう欲しているのを察したのか、あるいはなまえもそれを望んでいたのだろう、自ら安っぽい簡易ベッドへころんと転がった。
通常の医務室と同じように備え付けられていたオメガ部屋の簡易ベッドは、続く爛れた交歓により悲鳴を上げていた。
彼らの動きに合わせてぎしぎしと安っぽい音が響く。

火照る肢体を持て余している表情を浮かべたなまえは、互いの様々な体液で汚れたシーツにべたりと俯せた。
すぐに尻を高く上げ、アルファの眼前へ秘めやかな隘路を晒す。
頬と肩をベッドへ沈めた変則的な四つん這いの姿勢で、俯せたまま膝を曲げてぐっと背を反らし、依然だらしなく粘液を垂れ流している蜜孔をこれ以上ないというほど卑猥に見せ付けた。

「ぁ、あ、ふ、ふるやさんっ、おなか、さみしいのぉっ、おねがいれす、なまえのここに、はやくぅ」

まさしく発情期のメスといった荒い息が、はっ、はっ、とこぼれる。
淫欲に狂った顔をシーツに擦り付け、四つん這いの体勢のまま下腹部へ手を伸ばしたかと思えば、――なまえは淫唇に細指を引っかけ、降谷に向けてその姫割れを自らくぱりと開いてみせた。
白い指が、ちゅぷり、と卑猥な水音を立てて、とろとろにこなれた柔肉の中身を晒す。
太腿や下腹をびしゃびしゃに濡らしていた蜜液が、彼女自身の手にも伝い落ちていく。

降谷はその淫猥な媚態に目を細めた。
無理な体勢で白い肉がたわみ、汗の浮いた肌が、噛めば美味そうだと食欲すら刺激する。
なまえが自ら開いてみせた鮮紅色の肉の孔は、既に二度も膣内射精されていた。
蜜液と精液が撹拌され泡立ち、ぐじゅぐじゅにこなれて口を開きはやくはやくと急かしている。
互いに言葉少なに、――なにを話せば良いというのか、ただ各々の欲求のためだけに、肉体ばかり饒舌に求めていた。

「っ、は、ぁっ、ほら、挿入(いれ)てやるよ、ッ」
「あっ、ああぁああぁッ! ひぁっ、はいってゆぅ……あ、ああっ」

通常、ヒート状態のアルファは支配欲や暴力性が増す。
しかし己れのなかにこれほど暴力的な衝動が眠っていたのかと、降谷は少なからず自分に失望に似た感情を抱いていた。
蹂躙したい、屈服させたい、この女を所有したい。
間違っても自分と同じ一個人である人間に対して抱くべきではない、感情と欲求。
けれどいまは、そんなアルファの本能も許される。

「はあっ、ふりゅやさ、ぁ、おねがいっ、なまえにっ、ああぅ、いっぱい、種付けしてぇっ」
「みょうじッ……!」

女性のオメガ特有のふっくらとまるみを帯びたなまえの肉体には、庇護欲をくすぐるか弱さや愛らしさと、思わず縋りつきたくなるような母性が同時に顕現していた。
そして最も堪らないのは、その穏やかな情愛を抱かせる要因全てをも凌駕する、アルファの本能に訴えかける被虐性。
なまえの肉体全てが、密閉された部屋に充満するオメガのフェロモンが、孕ませてくれ、支配してくれと呼びかけていた。

なまえが逃げられないよう強くぐっと腰を掴み、更に深くまで侵入しようと膣襞を押し拡げる。
ああ、これほど強く握り掴めば、指の痕が残ってしまうだろうに。
他人事のようにそんなことを考えながら、しかしながら当のオメガは、与えられる全ての感覚が快楽だと言わんばかりに悦び、口の端からだらしなく唾液をこぼしながら微笑んでいた。

遠慮も配慮もなく、女の一番奥深く、子宮口を抉るように突く。
好き勝手にごちゅごちゅと内臓を押し上げられ、胎の奥を突き破られてしまいそうな錯覚に、さすがのなまえも堪らず怯えるように跳ねた。

「ひあ、ああっ、らめ、らめれすぅっ! おく、深いぃっ……!」

四つん這いになったなまえが、あまりの快感にずりずりと身をよじって逃げようとする。
降谷は腹立ちまぎれに小さく舌打ちをした。

上気し紅潮したまろい尻がオスを誘うように揺れ、その谷間、媚肉がいっぱいに口を開き、自分の肉竿をずっぷりと飲み込んでいるのがよく見える。
その入り口は、亀頭球によりみっしりと栓がされている状態だ。
そんな状態でどこへ逃げられると思っているのか。

降谷は自嘲めいた笑みをうっすらこぼした。
犬の交尾の姿勢で、慎み深い部下を犯している。
尊敬の目で己れを「降谷さん、降谷さん」と慕い、職務をこなそうと懸命だった己れの部下――みょうじなまえを。
いいや、どこに慎み深い者なの存在しているというのだろうか、この「オメガ部屋」にいるのはただのアルファ、そしてオメガだけ。

もう、なにもかもがどうでも良かった。
この女を孕ませること、そして番(つがい)にすること。
ただそれだけが大切で、必要なことだった。
愛だの恋だの、そんな倫理観に裏打ちされた感情すら邪魔だった。

降谷は膝立ちになると、なまえの腰を掴み無理やり自分の方へ引き戻した。

「ひっ、ああぁっ、や、やらぁっ、深いぃっ」

肘を折ってシーツへ顔をうずめ尻だけを高く上げた体勢で、なまえが身も世もなく泣き喚く。
動物の世界でストレートに「屈服」を示す姿勢で、何が出来るというのか。

「ふ、ぁあ……ンっ、こら、みょうじ、逃げるな」
「ひぃぃんっ、あああぁっ! おなか、こわれるりゅぅっ、も、や、やらぁっ……!」
「なにが嫌なんだ? お前だろ、っ、こうなるのを望んだのはっ」
「ひ、ぅっ、……ごめ、ごめんなしゃ、ごめんなさいぃっ……」

ぐすぐすと鼻を鳴らして幼い子供のようにごめんなさいと繰り返すなまえに、容赦なく抽送を叩きつける。
本能によって増長されたアルファの嗜虐性は、降谷を恍惚とさせた。
こぼれ続けるなまえの涙は白いシーツに滲み、すぐに他の体液と区別も付かなくなる。

ばつんばつんと肉のぶつかる音が高く鳴る。
正常な精神状態ならばとても聞いていられない、下品な水音や、あられもない嬌声。
聴覚も犯され、感覚という感覚全てが快楽のために存在しているのではないかとすら本気で思えた。

口淫で限界まで高められていた降谷の性感が弾けるのも時間の問題だった。
なまえはとうに何度も絶頂に達しているのだろう、狂ったようによがり声をあげてがくがくと跳ねている。

「ああっ、くッ、ほら、みょうじ、出すぞっ……!」
「ひぃあああぁっ! なかぁっ、出して、らしてぇっ……!」

ベータやオメガの二倍の量を誇る、アルファの濃く大量の精子が子宮へ叩きつけられる。
胎のなかでびゅるびゅると音がしそうなほどの勢いで吐き出される精液に、またもなまえは強制的に高みへ跳ね上げられた。

「ぅああぁっ……!」
「ひあぁッ、あ、ああっ……しゅごい、でてりゅぅっ……!」

おなかのなか、いっぱい……、と陶酔しきった溜め息を漏らしながら、なまえはアルファの三度目の射精を堪能している。
満たされる胎と受精欲で、うっとりと目元口元をゆるませ、幸福そうにとろけた微笑をたたえている。
オメガの子宮に精子を強制的に搾り取られる感覚に、降谷も大きく声を出してぶるっとふるえた。

「っ、ふ、ぁあ、みょうじ……」
「はあ、ぁあ、あああ……ふりゅやしゃ、ぁん、かんれ、噛んでくらさいぃ」

長く続く射精の最中、喜悦に満ちた声でなまえが幸せそうに叫ぶ。
声ひとつでどんなアルファをも堕落させるような、オメガの嬌声。
はじめから抗うすべなどない。
この部屋へ入ったときから。
あるいはあのメールを読んだときから。

降谷は背後から挿入したまま、ぐっと前傾し、俯せたなまえに覆いかぶさるようにして身を寄せる。
どうぞと言わんばかりに差し出されたうなじへ、歯を立てた。
息苦しくなるほど甘ったるい絶望と、途方もなく満たされる征服欲や支配欲に幸福感すら覚えながら。

このオメガを自分の番(つがい)にするために。

恋でも愛でもない
(2018.02.03)
- ナノ -