薄いカーテン越しに太陽の光がたっぷりと射し込む明るい部屋。
幼い頃から見慣れているのは、兄弟たちよりひどく劣っているわたしに、学校の課題や理解が追いつかないところを丁寧に教えてくれていたのが、透兄さんだったからだ。

それでもここ最近はあまり入室していなかった、兄の部屋――透兄さんのベッドに、どさりと押し倒される。
零兄さんのものよりもスプリングのきいた、やわらかいベッドのおかげで痛くはない。
押し倒された勢いで上体が跳ねたけれど、すぐに上へ透兄さんが覆いかぶさってきてシーツへ縫い留められた。

わたしの両脚の間に透兄さんの体があり、少しでも兄が上体を倒せば、もうその唇を避けることも、拘束から逃げ出すことも出来なくなってしまう。
服越しに兄の身体の熱を感じてしまい、じわりと羞恥がこみ上げてくる。

「っ、と、透兄さんっ」
「……ふふ、僕のベッドになまえがいる」

シーツに散らばったわたしの髪を優しく一房掬い上げ、毛先に口付けられる。
そのままうっとりと透兄さんが呟いた。
わたしのつまらない黒い髪なんかよりも、ずっとずっときれいな蜂蜜色の髪が、日の光を受けてきらきらと輝いている。

――わたしの兄はなんてきれいなんだろう。
こんな状況なのに、何度目か分からない感嘆を胸のなかでぼんやりと繰り返していると、ふいに透兄さんに口付けられた。
慣れ親しんだ兄の唇はひどく熱く、すぐに挿し込まれた舌によって口のなかをいっぱいに満たされてしまう。

「んん、ぅ……っは……にいさ、ぁん、」
「なまえ……」

呼吸も許さないとばかりに絡められる舌。
溢れそうになった唾液を、ぢゅ、と吸われ、肩が揺れた。
肌がざわりと粟立つ。

――きもちがいい。
もし透兄さんによって唇を塞がれていなければ、そう口走っていたかもしれない。
それほど兄の舌の動きは巧みで、途端に頭が甘く痺れてしまう。

口のなかも気持ちの良い器官なのだと、わたしに教え込んだのは――透兄さんだった。
初めて零兄さんに唇にキスをされたあと、それを知った透兄さんは、わたしを強く抱きすくめ、酸欠で気を失ってしまうほどの口付けを強いた。
あのとき「やめて」と泣くわたしを、透兄さんは唇を離してくれないまま、うっすら開けた青い瞳でずっと眺めていた。

透兄さんとキスに耽っていると、どうしてもそのときのことが思い起こされてしまい、酸欠によってとろけた思考が加速度的にだめになっていくのを自覚してしまう。
くちゅ、ぬぢゅ、といやらしい水音が口腔内で響く。
溢れる唾液をすすられ、与えられる兄のものも飲み下し、息も絶え絶えになっていると、――いつのまにか服がほとんど脱がされていることに気付く。
体を隠すものは未だ穿いたままのショーツくらいのもので、思わずびくりと身をすくませた。
兄とのキスがあまりにも気持ちが良かったからといって、……ここまで肌を露わにされるまで気付けなかったなんて。

羞恥でじわじわと涙が滲む。
思考がこれほどとろけるほど長く続いた口付けのせいで、唇は少しぴりぴり痛むくらいだった。
けれどその熱っぽい痛みすらも堪らなく心地良くて、自分の浅ましさに泣きたくなってしまう。
恥ずかしいと思う間もなく、ようやく唇を離した透兄さんが、――わたしの身体を見下ろしてぽつりと呟いた。

「……零も男だって知っていたつもりだったけど」
「と、透兄さん……?」
「こんなに痕つけられちゃって、……ねえ?」

服が脱げるまではとろりと溶けた眼差しでわたしの身体を見下ろしていた透兄さんが、またふいに顔を大きく歪めると、忌々しそうに舌打ちをした。
きっと零兄さんにつけられた痕を目の当たりにして、不快に思っているんだろう。
とはいえ透兄さんがそんな動作をするなんてあまりにも珍しくて、びくりとふるえざるをえない。
本当にこれは透兄さんなのだろうか。
怯えているわたしに気付いた透兄さんは、いつものように朗らかに微笑んで――

「なまえ、なまえ、僕がどれだけお前を愛しているか、……なまえは知らないんだろう?」

やわらかな笑みはそのまま、けれど怖いくらいに濡れ光った天色の瞳に射抜かれて、ぞくぞくっと背筋になにかが走り抜けた。
けれど恐怖を含んだその疼きは不快なものでは決してなくて、そう、快楽と言って遜色ないもの。
ぞっと総毛だつような眼差しさえ、それが兄のものだと思えば、どうやらわたしは悦びとして受け入れようとしているらしかった。

ぢゅう、と大きな音を立てて、首筋を吸われる。
そこはさっき強く噛み付かれたばかりの場所で、鋭い痛みに全身が強張った。

「ひぅっ、にいさんっ、い、痛いっ……!」
「んん、は、……なまえは我慢できるよね?」
「や、やだ、痛いの、」
「なまえ……我慢、できるね」

兄の言葉は問いかけの形を保ってはいるものの、そこに拒否や逃げ道などないのは明白で。
やめて、と言いかけた口をふいにつぐむ。
いつもならわたしに対してとても優しく、甘やかし過ぎだと零兄さんに注意されるくらいの透兄さんが、……そう言うなら。

そこまで考えて、わたしは自分の罪深さを改めて痛感する。
――違う。
透兄さんがそう言うなら、なんて、従順な妹ぶっているだけの言い訳だと、快楽に溶けた頭でも気付いてしまった。
透兄さんの言葉に応えたい、という気持ちに嘘はない。
けれど、それよりも、ずっと。

「あ、あ、……っ、ああんっ」

――痛い、熱い、……きもちいい。
首筋から鎖骨、胸元へ口付け、時折噛み付く兄の唇が、舌が、歯が、――堪らなく心地良かった。
浅ましい自分に失望して、思わず、ああ、と溜め息をつく。
甘ったるいそれは嬌声とさして変わりなかった。

痛みすら快楽になってしまうなんて。
兄には悟られたくない、こんなに淫らなわたしを。
自分の身体の反応に戸惑っていると、胸元の――ぷっくりと膨れた乳首を、兄の唇が強く吸った。

「ひゃあんっ」

その感触に、思わずびくっと膝が揺れてしまう。
反射的に脚を閉じれば、甘えるように透兄さんの身体を、きゅ、と両足で挟み込む体勢になってしまった。
ぐ、と兄の身体がわたしに寄せられる。

「あ、ああっ……! と、透にいさんっ」
「……なまえは可愛いねえ、そうすれば男は喜ぶって、零に教えてもらったの?」
「ち、ちがっ……んっ、ぁ、兄さんっ」
「こんなになまえがえっちだって知らなかったなあ」

やわらかな表情と声音のまま、なじるような口調で透兄さんが低く笑う。
――透兄さんはそんなふうに笑うひとじゃないのに。
兄に対する罪悪感がふつふつと煮え立つようで、けれど同時に、兄によって与えられる愉悦をひとつたりとも取りこぼしたくなくて、わたしはどうしたら良いのか分からなくなってしまう。

「あっ、んん……っ」

ぞくぞくっと痺れのようなものが全身を駆け抜ける。
首筋、鎖骨、胸元、腹部、臍、下腹、太腿、膝、ふくらはぎ、足首、脚の甲、足の爪先まで丁寧に兄の舌が這う。
わたしの身体中に甘い毒のような痺れが広がっていく。
兄の唇や舌が触れたところから、次々に。

思わず、はあっ、と荒く息が漏れた。
熱く爛れた呼吸は、とっくに悦楽に溺れきっているのを隠せずにいた。

「ふふ、こんなところまできもちいいんだね、なまえは」
「ち、ちが……ん、ん、……ぁ、」

足の甲に軽く口付けられたまま囁かれ、くすぐったくて腰が揺れる。
もうわたしの身体で透兄さんの唇が触れていない場所などないのではとよぎるほどに、たっぷりと口付けられ、舐められ、吸われ、しゃぶられ、まるで全身がとろとろに溶けてしまいそうだと思った。

それが泣きたくなるほど気持ちが良くて、――そして同時に、気も狂いそうなほどの欲望と渇望で、みっともなく声をあげてしまいそうだった。
「はやく」と。
わたしはいつもの戯れのような触れ合いのその先を、知ってしまっていた。

きもちいい、けれど、足りない。
欲しい。
もっと、もっと、直接的な快楽が、――ほんの数時間前に教えられた、あの鮮烈な喜悦が。

そんなふしだらな妹のことなどとっくにお見通しだったのか、透兄さんはくるぶしに触れていた唇を離すと、大きな褐色の手で、ぐ、とわたしの脚を大きく開かせた。
ぬらぬらと濡れ光る舌先が、辿り着いたのは――

「ひぃんっ」

ソコから、ぐちゅっといやらしい水音が大きく響いた。
未だ穿いたままだったショーツの上から、透兄さんが秘部に口付けたのだ。

「ふふ、下着、汚れてしまうから脱ごうか。……ああ、いや、もう手遅れだったかな」
「っ、や、にいさんっ」

意地の悪いことを言いながら、透兄さんはわたしの両脚を下着から抜いてしまう。
兄の言う通り、零兄さんが選んだ白いショーツはぐっしょりと濡れそぼり、脱がされるときにはわたしの体液で糸が引いているほどだった。
それを目の当たりにして、あまりの羞恥でくらくらと目眩がした。

剥き出しにされたソコにすうと外気が触れる感覚がして、ぞわりと肌が粟立つ。
はしたないことにその場所は、ぐずぐずに蜜を垂らし既にあられもないことになっていた。

「や、やだ、にいさん、見ないで……」
「どうして?」
「どうして、って……だ、だって、……あ、あ、っ」

ふるえる声で懇願しても、透兄さんは一向に許してくれそうになかった。
膝頭に手をかけられ、大きく脚を開かされてしまう。
濡れた秘裂を兄の眼前に晒す。
――自分でも見たり触れたりしたことなんてない恥ずかしいところを、零兄さんだけではなく……とうとう透兄さんにも見られてしまった。
そう思うと、全身の血液が沸騰してしまいそうだった。

「やだ……は、離して、にいさん、」
「ふふ、なまえ、可愛い……でもね、いくら可愛いなまえのお願いでも、それは聞けないかなあ」

逃げるように視線をさまよさせても、兄の部屋を照らす陽光の明るさを再確認するばかりで、ますます羞恥に拍車を駆けるだけ。
湧き上がる恥ずかしさを耐えることが出来ず、両手で顔を覆った。
けれどそんなわたしに構うことなく、しとどに愛液をこぼす蜜口を直接、――兄の厚い舌がべろりと舐め上げた。

「ひゃああぁっ! や、やらっ、にいさんっ……そんなとこ、なめちゃだめぇっ!」
「んん、っは、……おいしい」

ぢゅる、と淫らな音を立ててそこを舐めた透兄さんは、語尾にハートマークが付いていそうなほど甘ったるく呟いた。
そんなわけないのに。

頬や首だけではなく、全身がカッと焼けるように火照って仕方がない。
過ぎた羞恥で、涙がぼろぼろとこぼれた。
いつもならわたしが泣いていれば、透兄さんはこちらが申し訳なくなってしまうくらい、わたし以上に悲壮に顔を歪め、心配してくれるのに。
いまの透兄さんは決してその責め苦をゆるめてくれないだろうことは、至らぬわたしでもよく理解できた。

「ああぁあっ! らめ、おにいちゃ、あ、ああんっ!」
「んんー、ふ……は、ぁ」

わたしの両脚の間に、蜂蜜色に輝く透兄さんの頭がある。
それも、わたしの恥ずかしい場所を、見られ、口を付けられ、舐められている。
与えられる直接的な悦楽とは別に、ただその目の前の光景だけで、信じられないほどぐらぐらと頭が煮え立った。

ぐ、と首を伸ばして見下ろせば、兄の口腔から赤い舌が覗いている。
わたしの視線に気付いたのか、透兄さんは見せ付けるように舌を伸ばして、……ねっとりと肉びらごと舐め上げてきた。

「もう、ゃっ、そんな、だめぇっ! ああぁあっ、あっ、」

がくがくと膝や腰が揺れる。
堪え性なくだらだら淫らな体液を溢れさせる蜜孔や、淫らに膨らみきった肉芽に透兄さんの厚い舌が触れるたび、下腹部から先がどろどろに溶けて流れていってしまうような感覚に襲われた。

「ン、なまえはここが好きなんだね、こんなに尖っているの……っ、は、分かる?」
「ひぃいんっ! ああぁっ、らめ、そこ、らめなのぉっ……!」

ぴちゃ、ぐちゅ、とあられもない水音を立てながら、兄の舌が淫らに勃起した陰核に絡みつく。
指とは違う、やわらかくて、けれど芯を持ったような絶妙な硬さを持つ、熱い肉の感触。
兄のざらりとした舌が、れろ、と敏感な肉の芽を一往復するだけで、気も狂わんばかりの快感が全身を貫いた。

「ひぁあ、ああぁあっ! だめ、おにいちゃ、あぁぁらめ、」
「だめ? っ、ン、どうして?」

――来る。
来てしまう。
アレが。

つい数時間前にも感じた、大きな波がそこまでやってきていることを自覚する。
どこかへ飛んでいってしまいそうな……あるいは、なにかが押し寄せてくるような。
初めてのときよりもずっと容易く、そしてあの鮮烈な快楽への期待すら上乗せして、わたしは、ぐ、と背を反らしてふるえた。

「とおるおにいちゃ、や、いく、いっちゃうのっ……!」
「っ……いいよ、イッてごらん」

ぐちゃぐちゃに濡れ乱れたソコから唇を離さないまま、透兄さんが囁いた。
上目でわたしを見上げながら。

わたしの太腿と太腿の間に、兄の褐色のきれいなお顔があるという、その光景。
涙で滲んだ視界でもはっきり眩く輝く蜂蜜色の髪。
顎を引けば自然と見えてしまう、あまりにも淫猥すぎる光景に、頭がぐちゃぐちゃになってしまうほどの羞恥と、困惑と、――背徳感と喜悦で、一気に高みへと跳ね上げられた。

「ひっ――!」
「んん、っ……んく、っ」

初めて零兄さんに与えられたときよりもずっとすんなりと、けれど待ち望み期待していただけはっきりと、強烈な快楽がわたしを襲った。
きもちいい。
兄のざらつく舌の感触が堪らない。

びくびくっと下肢や腰が跳ねる。
逃げるように腰が引けた――けれど、許さないとばかりに抱えこまれてしまう。

「〜〜ああぁッ、っ、――おにいちゃんっ!」
「んー……んぅ、っ」

目を見開いて、ほとんど悲鳴に近い声で兄を制止する。
けれど返ってきたのは、ぢゅるる、と耳を塞ぎたくなるような卑猥すぎる音。

透兄さんは少しも口腔や舌の動きをゆるめてくれはしなかった。
達したばかりだというのに。

強制的に長引かせられる絶頂に、気が狂いそうになる。
ぶるぶると内腿のふるえが止まらない。

「ひゃああぁああぁっ! やらぁっ! や、やら、離してぇっ! おにいちゃ、ぁああっ、イッてる、いってりゅからぁあッ……!」
「んんー、ふ、……んぅ、」

だめ。
やめて。
頭がおかしくなってしまう。
助けて。
もう、いま、自分がなんと口走っているのかすら分からない。

兄は執拗に、勃起した肉の芽を、ざらざらした舌腹でしゃぶり、擦り、甘噛みし続けていた。
無理やり太腿を抱え上げられ、純然たる快楽だけを強制的に与えられ続ける。
気でも違ってしまったかのようにがくがくと全身が揺れた。

「ああぁあっ、あ、あ、ッ、ひぃううぅっ」
「ん、っ……なまえ、んん、もっと、ッ、きもちよくなっていいんだよ、」
「やぁあっ、ああッ、も、きもちいいの、やらあぁあっ……!」

甘ったるいやわらかな声音で、兄が囁く。
まるで駄々をこねる小さな子供に言い聞かせるように。
けれどその舌は淫らにうねり、包皮から剥き出しになった敏感な突起を少しも離そうとしてはくれなかった。

無意識に腰が浮き、不自然な体勢を強いられているせいか、背が引き攣る。
狂ったように脚をバタつかせ、しゃにむに体をよじっても、無理やり押さえ付けられて逃げることなんて許されない。
過ぎた快感は、苦痛になってしまうのだと初めて知った。

今更ながらに、ここには透兄さんとわたししかいないのだという事実に、とろけた頭が悦びと絶望を感じる。
――透兄さんが許してくれるまで、わたしはこうして苦しんで……気持ちよくなり続けなきゃいけないんだ。

「ぅああんっンッ、ひぃいっ、お、おにいちゃんっ……! ゆるし、ゆるひてぇっ、ア、ぁああぁッ! もぉっ、おねがいぃっ」
「んー……ふふ、」

ちらりと上目で覗かれる。
やわらかな蜂蜜色の隙間から、今日みたいな晴れた空を連想をさせる天色の瞳がにんまりと弧を描いていた。
嫌な予感に、ぶわりと肌が粟立つ。

いっそ可愛らしいほどの声色で、一言、透兄さんがにっこりと言い捨てた。

「……やだ」
「〜〜っ……!」

語尾にハートマークか音符でも付いていそうな声音は、この淫らな空間には恐ろしいほど不似合いだった。
透兄さんの無情な一言で、――たったその一言だけで、わたしはまたも絶頂に達した。


(2018.05.28)
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